助け合い
そう言って紹介された人物は、身長は180センチぐらいで細身ではあるが力強そうな男だった。二人とも年齢は40代後半と言ったところだろうか。俺はとりあえず家へと案内することにした。家に着き茶室に入ると、俺たち全員は改めて自己紹介をすると同時に今回の訪問の目的を聞いた。すると日本がレカルス帝国から宣戦布告を受け、その援護を求めるためにフィリピンを経由してタイ王国に向かっているとのことだった。
そしてフィリピン海まで来た時に、たまたま俺が上空を通り、そして信号旗を見て確認のために寄ったということらしい。それに空を飛ぶことができるのならそれを使って日本を守る事も可能なのでは、と思い来た尋ねたようだった。
「そういう事でしたか…でしたら力になる事は出来ます。私も一人の日本人として祖国を守るためならばなんだって致しましょう」
「おお、本当ですか!いやぁ、正直に言いまして、この海域まで来る間に何度も死を覚悟しましたよ……しかし、まさかあなたの様な方々がいらっしゃるとは……」
「あはは、まあ色々とありましてね……そのことは日本へ行くときに艦の中で語り合いましょう。しかし…死を覚悟したと言いましたが…一体何があったのですか?」
「そうですね…嵐にあったり、玲国海軍の艦と戦闘になりかけたり、海賊に襲われたりと色々とあったのですが、なんとかここまで来れました。ただこの海域に入ってからの敵の動きが妙だったのですが、何か心当たりありますか?」
「いえ…全く…それと玲国海軍と言いましたが、レカルス帝国の事でしょうか?」
「はい、あの国は世界中の国と戦っており、実際その戦力は図り知れないほど強大で、最初はただのちっぽけ組織だったのですが、どういう訳か力を付け英国、フランス、ドイツ、スウェーデンなどの欧州とロシア、中国を占領し、今は米国と日本を狙っているようです」
「なるほど…アメリカもか…ここで話してる場合じゃないな…。よし、明日にでも出発しましょう。もし可能でしたら、私が帆船より優秀な艦を出し、それに乗艦する事は可能でしょうか?これなら最低でも五日もあれば日本に到着するはずです」
「たったの五日で…私たちはここにくるまで十日以上もかかったのに…ですか?」
「はい、あそこにある大きい鉄の艦が、まさにそれを可能とするのです」
「なんと……凄まじい技術力だな……ですが我々の艦はどうしましょう…」
「ご心配には及びません。私の収納魔法で保管致します。東京の台場に到着した時に出します」
「な、なんと…収納魔法持ちでしたか…しかも相当大きいようで…。お若いのに凄いですな」
その後、明日の出港について打ち合わせを行い、今日は泊まってもらうことにした。港で待機している乗組員のために俺たちは調理員と共にご飯を用意し、食べ終えるとすぐに艦を用意するべく港へ行き。俺は峯風型駆逐艦を二隻、峯風と澤風を用意し、天龍型軽巡洋艦、天龍と龍田を用意した。そのあとは帆船を収納し、全部の艦のボイラーを温め、それに加え乗員が快適に過ごせるよう工夫を凝らした。そして翌日の早朝、俺とミヅキたちは乗組員ために炊き出しを行っていると井上中将が俺のところに来た。
「あ、おはようございます」
「おはようございます、こんな朝早くに…申し訳ない」
「いえいえ、気にしないでください。お客様をもてなすのは当然のことですから」
「本当にありがとうございます。ところでこれは……いったい……」
「あぁ、いちご大福ですよ。全員分を作るのは大変ですが、偶然にもたくさん作物が取れましたのでね」
「何から何まで…ありがとうございます」
「ですから気にしないでください。それに俺も海軍の経験者でしてね、過去に色々あったのでそれもかねてやっておきたいのです」
俺は過去にあったことを井上中将に伝えた。本当は空母の中でゆっくり話したかったのだが、朝食ができるまでまだまだ時間がかかるため、とりあえずここで話すことにした。すると鈴木外務大臣も話を聞きに来た。それに続いて調理員の人たちも来たと思ったらおもむろに彼女たちを手伝い始めた。少々下心も見えるのだが、しっかりわきまえているようだった。そのあとも次々と人が集まり、正直話辛かったのだが話す他なかった。
「そうだったのですか……そんな事が……。失礼ながら、おいくつなのですか?」
「16です」
「転生前を含めると100以上も…ですか…」
「あはは…気にせず16歳の男として扱ってくれればいいですよ」
俺はそう言って話を終わらせた。それからは皆が食事を取り終わるまで世間話で盛り上がった。最期にいちご大福を出すと大勢の人たちが喜んでくれた。中にはいちごや大福などが苦手な人もいたため、おかきを渡すと喜んでくれた。そんな事をしていると優しいですなと井上中将に言われ俺は苦笑いするしかなかった。俺たちは食事を食べ終えると艦に乗り込み、俺は士官たちにこの艦の設備等の説明を行い、実演したりなどをしていた。それらをある程度教えた後、飛行甲板で休憩していると鳳翔の艦橋で見張りをしてくれているステファンが俺を呼んだ。
「おーい!船二隻が来たぞ、しかも両方とも損傷、負傷者多数、救難信号旗も揚がっているぞ!」
「なんだと!?」
ステファンが指した方向へ行き見てみると、確かに大型の帆船が来ていた。それに船体がボロボロなのが見て取れ、マストには確かに救難信号旗が揚がっていた。
「すぐに応答旗を頼む、俺は艦を誘導する!」
「了解!」
一体何が起こっているのだろうか、とりあえず考えている暇は無いと思った俺たちは急いで港の空いているところへ行き、俺のところに来るよう船を誘導させた。それに続いてメリッサたちや水兵たちも来た。そして到着してみると、確かに酷い有様だった。片方は大砲を大量に積んだ艦だったがもう片方は大砲も少なく貿易船のような船だった。その2隻船が港に到着すると俺はすぐさま幅が広めのタラップを出し、それを使って降りてくるよう伝えた。
だが負傷者を運ぶのに時間がかかっているのだろうかなかなか降りてこない。すると日本海軍の軍人たちが負傷者を運ぶべく担架などを持ち出し、すぐに大型倉庫へと人を運んだ。衛生兵が主に重傷者の手当てを行い、軽傷のものは他の軍人たちが手当てを行った。俺は特に重傷の者を優先して回復魔法を使った。だがそれでもなかなか治り辛い者もおり、どうしようか悩んでいるととある事を思い出した。
「普段はお守り代わりだったが、桜の杖を使う時が来たな…」
「プラーナ・ティオーサ (傷を治せ)」
すると重傷者の体が光に包まれ、徐々に怪我が癒えていった。その様子を見ていた井上中将は驚いていた。
「こ、これは……奇跡だ……」
「次の者を!」
すると衛生兵たちが手に負えない重傷者を次々と運んできた。約一時間が経った頃だろうか。最後の一人が終わると、俺は魔力切れを起こし倒れてしまった。それだけ命というのは重いものなのだろうと改めて感じさせられた。すると負傷者の手当てから戻って来た井上中将が俺の所へ駆け寄った。
「だ、大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫だ……問題ない……」
「いやいや…問題あるだろうに……しかし凄まじい魔法ですな……」
「それは俺も同感だ。それより……あの船は……」
「恐らくオーストラリアの船でしょうな、しかしなぜここに…」
俺と井上中将はオーストラリアの船の船長二人と、鈴木外務大臣が待機している部屋へと向かった。恐らく外交関係の話でもしているのだろう。すると船長の二人が俺たちを見ると一礼をした。俺は翻訳魔法をかけ互いに話せるようにした。
「わざわざ来ていただいて申し訳ありません」
「いえいえ、それよりもいったい何があったのです?」
「実は私たちがここへ来る途中、レカルス帝国の艦隊と遭遇しまして、応戦しましたが多勢に無勢で……それでやむなく撤退をしようとしたのですが、追われている内に嵐に巻き込まれ偶然ここに…といった感じです」
「そういう事でしたか…」
「あ、自己紹介が遅れました。私の名はサム・キース・ローリーと申します」
「私はラルフ・アラン・ロウと申します」
俺と井上中将と鈴木外務大臣も自己紹介をした。色々話を聞き、俺たちはレカルス帝国に対抗できるようオーストラリアの人たちにS級駆逐艦を出した。さらに造船ための細かい資料やその他兵器、機械、建築などの資料も渡し、食糧危機にも陥っているようなので暑さに強い作物の種と育て方などの資料も渡すと大変喜ばれた。さらに外務大臣の焚き付けにより、自国に戻った後同盟締結をするべく、彼らが上の者と掛け合う事にしたようだった。
俺たちはオーストラリアの人たちを見送るとすぐに自分たちの艦に戻った。俺とミヅキたちは鳳翔に乗り込み、出港の準備を始めた。少々意外な形ではあるがこうして日本へ戻れることを嬉しく思った。
「しっかし…嵐のように去っていったな…」