狼の正体
「え?ハクって人間だったのか…?」
今までハクは可愛らしくもかっこいい狼だと思っていたが、まさかこんな美人な女性だと思わなかった。それも犬耳が生えており尻尾もある。キャロルとケリーのような獣人にしか見えない。
「これが私の本来の姿です。私は魔族の一種でして、神獣フェンリルでもあります」
未だ何が起こったのか理解していない俺は呆然としていた。
確かにハクの毛並みや大きさは普通の狼ではない。そのため彼女たち曰くフェンリルだと言われたがまさか人間にも姿を変えることができるとは思わなかった。
「そういえばハクがけがをしていた理由は?」
「それはミヅキたちと同じく人間に住処を追われました。私は目を閉じ、逃げたい、誰か助けてと願いました。すると見知らぬ海岸にたどり着き、偶然洞窟を見つけました。その少し後にご主人様と出会ったのです」
「だからけがをした状態であそこにいたのか…」
だがどうやってここに来たのだろうか?やはり神様の誰かが、ハクをここに送ったのだろう。本当、この世界は不思議だな。それにしてもハクの正体を知った時は驚いた。まさかあの時偶然出会った狼が、伝説級の獣でさらに人間の姿になれる。俺は改めてハクを見た。白銀の髪に整った顔立ち、そして美しい白い肌。まさに絶世の美女と言っていいほどの容姿をしている。だがハクという名前は変えた方が良いかもなと思った。
「なあハク、前の名前は…?」
「リュシー・クラヌです」
「そういう名前だったのか…それじゃあ今度からリュシーと呼んだ方がいいか?」
「いえ…これからもハクと名乗ります」
しかしこんな美人な女性にハクと呼ぶのは少々気が引ける。ならば別の名前で呼んであげた方がいい気がする。
「しかし…君のような美人にハクという名は合わないだろうし、別の名前を付けてあげるのは…どうだ?」
俺の言葉を聞いた瞬間、ハクは目を見開いた。
「えっ!?わ、私が美人ですか?」
「ああ、そうだよ。ハクはとても綺麗だと思うぞ」
「そ、そうですか…」
急に顔を赤らめて下を向いてしまった。俺は正直に伝えただけなのだが、ついでに何か変なことでも言ってしまったのだろうか。それよりも早く名前を考えてあげないとだなと思った。さて、どんな名前が良いだろうか…
白銀の髪に、容姿端麗、瞳は青色でミヅキよりも少し胸が大きいが、メリッサの大きさには負ける。やはり男はそこを見てしまう。頭では見るのは失礼だと思っていても、やはり見てしまう。しかし、どうしたものかと悩んでいると、雪という単語が頭に浮かんだ。彼女は雪のように白く美しく華がある。
「ん?華…?」
「ハナ…ですか…?」
「あぁいや、ごめん、もう少し考えさせて…」
「わ、わかりました…」
雪のように白く美しく、華麗で優美…雪花か?いや違う、雪…雪奈…
「雪奈は…どうだ?」
「雪奈ですか…?」
「あぁ、雪のように美しく品がある女性だから…だ」
するとユキナは俺に飛びついた。するとすすり泣きをし始めた。突然の出来事に困惑した俺はとりあえず背中をさすった。しばらく泣いていたが、落ち着くとユキナは自分の頬を俺の手に当ててきた。まるで猫みたいだなと思いながら優しく撫でた。すると気持ち良さそうな表情を浮かべた。その姿を見ていると思わず笑みがこぼれた。
「気に入ってくれたのか…」
「はい!ありがとうございます!」
満面の笑顔で答えてくれた。その様子に俺はホッとした。喜んでくれたようで俺も嬉しかった。こんなに俺を信頼してくれているのなら、俺が今まで行ってきた行動は間違っていなかったのだろう。
「ご主人様、大好きです!」