能力と獣
「しかし…来たはいいがどうしようか…」
陽は高い位置のため時間的には正午あたりだろうと推測し、とりあえず一夜過ごせる場所が欲しいと思い周囲を探索してみた。すると岸壁の近くに洞窟があり中を覗くとあまり奥までは続いて無いようだった。
「しかし猛獣がいた時が恐ろしいな…、一か八か賭けてみるか…」
恐る恐る奥へと入るとなぜか木箱があり、それも劣化しておらずかなりの大きさだった。不審に思いつつ近づいて観察してみた。
「前に誰かが来たのか?だとしても新しすぎるし、これ以外に人が来た形跡もないな」
「とりあえず開けてみるか」
箱を開けるとそこには鎌と鍬二つと金槌があった。これらは俺が前世に使っていた農具と工具であり、40年近く使用していた。それも新品になって帰ってきた。
「何故ここに俺の使っていた農具が?」
とりあえず手に取ってみると目の前にステータスと左上に書かれた物が出てきた。まるでホログラムみたいだなと思いつつ、それを見てみると俺の名前や職業、スキルなどがあった。
【名前】 清水 謙一
【種族】 人間
【年齢】 16
【職業】 無職
【レベル】 1
【スキル】 神の加護 全魔法 器用貧乏 神体強化
まるでゲームの世界みたいだなと思いつつ、HPやMPなどは表示されないんだなとも思った。しかし器用貧乏も気になるのだが、それより神体強化というのが気になった。なぜ神体なのだ?身体の間違いではないのだろうかとも思いつつ、実は俺は神様なのかという考えも浮かんだがそれは流石にありえないと思い直した。
「イザナミ様ありがとうございます。この御恩は必ず返します」
そう告げた後、鍬を手に持ち洞窟の奥へと進んだ。スキルのおかげなのか暗いところでもそれなりに周囲が見え、探索に困るということもなかった。少し進むとぬかるみのある所へとついた。水源がどこかにあるのだろうかと考えながら奥へ進むと獣の足跡が見えた。しかもその足跡は狼のような爪のある足跡だった。
これは引き返さないと危険だと思いつつも、その足はどんどん奥へと進んだ。すると足に大けがを負った大きな狼が居た。こちらを見ると唸るが唸るだけで何もしてこなかった。足がすくむような思いをしたが、俺は恐る恐るその狼に近づいた。
「大丈夫、大丈夫だ。俺はケガを治してあげたいんだ」
そう言いながら近づくと唸るのをやめたが、こちらを睨むのは変わらなかった。そしてケガをした部位に近づき俺は止血させるべく服の長袖を破りそれを巻き付けてあげた。簡易的な応急処置ではあるが、少しは抑えられるだろうと思った。
「なぁ、歩けるか?」
すると狼は立ち上がり歩こうとするが、歩くだけで痛そうだった。仕方ないと思い俺は狼を背負うことにした。やはり重いなとも思いつつも、神体強化のおかげか負担はそこまでは無かった。大変なことに変わりはないが。
5、6分歩いたぐらいだろうか、ようやく出口の明かりが見えた。それに安堵すると狼も安心したかのようにさらに体重を俺に乗せていた。お前も安心できたのかと思うとどこか嬉しかった。そのまま外へとでて、洞窟近くの木陰で休ませた。離れようとするとくぅ~んと悲し気な鳴き声が聞こえた。俺は笑いかけながらこう言った。
「心配するな、俺はまた戻る、食いもんと寝床を用意するだけだ」
俺がそう言うと動こうとしたが、お前は休めと言い聞かせた。するとまた悲し気な表情を浮かべたが、大丈夫だ言いながらと撫でてあげると安心しきった顔をしていた。それじゃ行ってくるよ、と手を振り森へと入った。