ミヅキの過去
「で、では私の話もしますね」
1年前、私はアイルランド王国領内の北にあるフェルランド王国にいました。そこはエルフたちが住む場所で平和な国でした。その国は様々な国から来たエルフが住み、私と父母はそこで静かに暮らしていましたが、ある日突然アイルランドがレカルス帝国に狙われ、北上してきた帝国軍によって私たちの国は滅ぼされました。
父と母は私たちを守るため国に残り、私たちも殺されそうになりましたが、メリッサたちのおかげでなんとかここまで来れました。船に乗る前に偶然逃げおおせたキャロルとケリーに出会い、私たちはキャロルとケリーを連れ船に乗り込みなんとか逃げることができました。
最初あの難破船には私たち含め36人いましたが、アフリカ、中東、アジア、大洋州と旅している内に一部の仲間は故郷に帰るため船を降りていきました。私たちは最終目的地である大日本帝国に向かうはずでしたが、大きな嵐に会い船が破損したまたまこの島にたどり着きました。
「そこで俺と出会った訳か…」
「はい」
「…そういやずっと気になったんだが、アイルランドって英語とゲール語の国だったよな?どこで日本語を?」
「あ、それは翻訳魔法を使っているからですね。その魔法を使えば他国の言葉でも会話ができるようになります」
「なるほど…」
しかしミヅキたちの目的が大日本帝国ならここにいるべきではないだろう。俺はこの島に飛行場や港まで建設してしまったが、いずれはこの地を手放すことになるだろう。俺の目的地も大日本帝国でもしかしたら将来そこに住むという可能性もあり得るからだ。そうなったら彼女達はどうするんだろうか……。まぁその時はその時だ。
「ところでそのレカルス帝国ってのはどこに?」
「それはですね…」
どうやら元々は国でもなんでも無くレカルスという名の組織で、ノルウェー、スウェーデン、ロシアの国境が交わる土地にその組織は住んでいたようだった。2年前、その組織が力をつけ北欧の征服を開始し、戦火は中欧にまで広がり、イギリスも奪われたとのことだった。たった2年でそこまで侵略するほどの国ならば相当の技術力がありそうだった。となるとその技術を教えた者がいると考えてもよいだろう。
「しかし…裏で手を引いているのは誰なのだろうか…」
「わかりません…、噂では転生者、あるいは転移者の仕業だとも言われています」
「つまり俺のような人間か…」
「はい…」
「はい…」
もしそうなら益々その人物を許すことはできない。だがこれはあくまで噂であり確証は無い。だがこの世界にそんな危険な存在がいるのならば、俺はそいつを野放しにするわけにはいかないと思った。イザナミ様が俺をここに呼んだのはこういった事情があるからだとも考えられる。
「首謀者は本当に誰なんだ…?ったく、面倒なことをしてくるな」
「…あなたは…戦うつもりなのですか?」
「そうだ、敵がわかったのなら、俺はやるべきことをやるだけだ。それにその戦火が俺の故郷でも日本に来てもおかしくない。ならば助けに行くのが道理だろう」
ミヅキたちはどこか不安げな表情を浮かべていた。
「心配はいらない、俺が君たちにも被害が及ばないようにするからな」
「い、いえ…そうではなく…」
何か言いたげだったが、ミヅキは口を紡ぎ目を瞑った。するとこう言い出した。
「私も、戦います」
「い、いや、君が戦う必要は…」
「私にも、やるべきことがあるんです!」
彼女の目からは強い意志を感じた。ミヅキは立ち上がり、俺の目を見て言った。するとメリッサやエミリーたち全員がそれに賛同した。俺はそれを制止しようとしたが、彼女たちの意思は固かった。
「私は、もう二度と目の前で大切な人を亡くすのはいやなんです!だから……」
「……そうか」
彼女たちの気持ちは痛い程伝わった。また誰かを失う辛さ、悲しみを知っているからこそ彼女は戦いたいと言ったのだ。俺はそんな彼女らの意志を尊重することにした。
「わかった……ならば共に行こう」
俺がそう言うとハクも来た。だが、服などを口に咥えた状態で来たのがすごく気になった。するとハクが白く光りだした。何が起こったのかわからないでいると、見知らぬ女性がそこに立っていた。