第二の人生
目を覚ますとそこは真っ白な空間で、目の前には見知らぬ美しい女性がいた。その女性は白生地の服に華やかな装飾がされていた服を着ていた。ぼんやりしているとその女性が話しかけてきた。
「私の名は伊邪那美命、人からはイザナミと呼ばれています」
「わ、私の名は清水 謙一と申します」
「そんなに緊張されなくても大丈夫ですよ、それとあなたには先に伝えるべきことがございます」
「そ、それは何でしょうか?」
俺は地獄にでも行くのだろうか?そんなことを考えていた。
「そんなことは致しません、と言いたいのですが…ある意味地獄のような世界です」
俺の人生を考えるとそれが妥当なのかもなとも思った。というか心まで読まれているのか…
「そんなに卑下しないでください、あなたは悪くありません。申し訳ありません、話が逸れてしまいましたね」
「い、いえ俺が悪いのですから」
そう言うとまた微妙な顔をされた。はぁと少しため息をつくとイザナミが話を始めた。結論としては俺の第二の人生を別な世界で送ってほしいとのことだった。その地球は技術もろくに発展しておらず、俺が元いた世界でいうと中世ぐらいの世界だそうだ。そこでとりあえず生きてくれればいいとのことだった。革命を起こすもよし、世界を牛耳るもよし、破滅させるもよし、のんびり過ごすもよしとのこと。だが守って欲しいことが一つだけあるとのことだった。
何もせずに強欲に生きることだけはやめてほしいとのことだ。それでは戦争を起こす人と何も変わらず、数人でもいいから誰かに良い影響を与えることができるような人物になって欲しいとのことだ。つまり真っ当な人間として生きてほしいとのことだろう。
「そこでなのですが、あなたはどういった能力が欲しいですか?」
「ふむ…そうですね…」
俺は悩んだがあまり強大な力は欲しくないため、せめて大切な人を守れるぐらいの強さと、何をするにも器用な人間でありたいと思った。
「それがあなたの願いですか?」
「…えぇ、そうです」
「かしこまりました。ではついでに末永く健康でいられるようにし、歳も16歳と若返らせますね」
16歳か…戦争が始まる少し前ぐらいのときだったか、あの時はまだ家族を失うとは思わなかったな…友人と共に海軍に志願したころが懐かしい。しかし海軍か…できれば海に近く、緑が豊富で人とほとんど会うことがないような場所がいいな…
「そういった場所はいくつかありますが、人々にとっては魔境とも呼ばれる場所ですが…そこでしたら転移させることが可能です」
「魔境…ですか…」
「…はい、その場所は猛獣や強力な魔物が住み着く場所です」
「魔物…所謂モンスターとかって言われるやつですか?」
「その認識で問題はないかと」
となると住むにはかなり厳しい土地なのか…だが一度は死んだ身。この身でどこまでやれるのかも気になるところだな…
「でしたらその場所にお願いします」
「…必ず生きて帰ってきてください」
…帰る?つまりここは冥界でもあるのだろうか?つまり魂が還る場所でもあるということか。
「少々違うのですが…まぁいいでしょう、ではあなたをそこに送ります」
「ありがとうございます。この御恩は忘れません」
それを聞いたイザナミは彼に聞こえないよう心の中でこう呟いた。
「…あなたは昔から優しいですね、あなたに幸多からんことを」
イザナミがそう思っていたことを知らずに、俺の視界は真っ白に染まった。数秒の後、波の音と鳥のさえずりが聞こえてきた。到着したのかと思い、目を開けると目の前には綺麗なコバルトブルーの海があった。まるでマリアナ諸島のような綺麗な海だった。もしや南国かと思ったが、生えている木はカシだったり、ブナやクスノキなどで、日差しは強いが気候は日本と近い気がするとも思った。
「この場所が俺の第二の人生の始まりか…」
この場所で果てることなく生き延びてやろうじゃないかと、俺は心に誓った。