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夢見るアリスと白兎アイホート  作者: 潮田しお
第1章『奇跡の林檎は絶望となりえるのか』
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Dream.7『日記』

 別日、孤児院の広場にてナーサリー・ライムの葬式が行われていた。少人数の関係者のみが集い、ひっそりとしたものだった。


 キャソネックのような宗教感のある衣装を身に纏った老人と人ならざる独特の雰囲気をした、子供から20歳前後辺りの若者が参列している。中には慟哭する者やつまらなさそうに寛ぐ者、あくまで仕事と事務的に振る舞う者と様々だった。


 式は滞り無く進行しあっさりと終わった。遺体はこの後火葬され骨は教会に処分されるらしい。悪しき者の力で魔術により復活してしまわないように。


「そういえば、村の人来ないね」アリスは周囲を見渡してみるが、あの時会った人達は1人として居なかった。


「シュブ姉の関係者として同じ人柱が数柱来てるから。事件のこともある。院の外に騎士が見張りをしているでしょ」


 イヴの言うように、塀の隙間から重厚な鎧で身を固め武装した兵士が院を取り囲む様に警備をしているのが見える。


「今この瞬間、あのカルト教団に襲撃されたら大変だから。まぁ、あんな奴らに負けるつもりは無いけど」


 こちらに顔を向けずに確信を持ってイヴは言う。続けて、蔑むかのように付け加えた。


「ここに居る者はみんなそう。1番心配をしているのは、同席している教会関係者の自身の安全でしょうね」


 教会。人柱の管理をし、世界の秩序を守る存在。

少し離れたところで数人が何か話をしている。聞き耳を立てると以下のような話が聞こえた。


「また人柱の殺傷事件か、先週チャウグナー・フォーンの人柱が遺体で見つかったばかりじゃないか!」


「チャウグナー・フォーンはまだいい、あれは二重に封印を掛けられていたはずだ。石像になってドリームランドのどこかにある。カルト教団より早く見つけて回収しなくては」


「それよりもヨグ・ソトースだ。あれから2年は経つんだぞ、まだ見つけられないのか!」


「招来の呪文を試していますが反応は無く、日々レンのガラスも覗いていますが、如何せんここは神話生物が多くノイズになって……」


「意思の疎通さえ出来ればいい……早く、早く代わりの人柱を立てなくては……嗚呼、恐ろしい」


 彼らはみな焦燥感のある口振りで、人柱が亡くなったことによる邪神の復活を恐れているようだった。



 そういえば、イヴがじっと柩の方を見ている。いや、違う……人を見ている?


 イヴの視線の先を見ると、黒い不気味なローブを身に纏い深くフードを被った長身の男性と薄汚れた黄色い襤褸を羽織った痩躯の男性が言い争いをしている。痩躯の男性は柩にしがみついて、黒い男性がそれを引き剥がそうとしている。


「止めろ!俺と母さんを引き剥がそうとするな!まだ、まだ間に合う!復活の呪文を使えば!」


「だ〜か〜ら〜、彼女はもう死んでるんだよ。とっくに魂はシュブ=ニグラスに喰われてる。神格に人柱を選ばせて封印し、人柱が死んだら魂を捧げる。そういう契約なんだから復活の呪文を使っても意志を持たない塩のゾンビが出来るだけだって!……ほら離れて、教会の人が困ってるでしょ!駄々はやめなさい!」


 咳払いをして長身の男が裏声で女性を装い嘲笑を含めて煽る。


「母親みたいな叱り方するなクソーー!!嫌いだお前!!何でお前じゃなくて母さんが死ななきゃいけないんだよ、お前が死ねば良かったのに!人選ミス!再選を求める!」


 黄衣の男が奇声を上げて人目を憚らず泣きじゃくる。一方で黒い男はケラケラと笑い相手の愚かしい様を見て楽しんでいるようだ。

 それは徐々にヒートアップしていき喧嘩沙汰になった。

 男は泣き腫らした目で相手を睨みつけ、手だったものは歪み、蛸の触手のような流動体に変わった。

 それに応えるように、黒い男も褐色肌の腕を異形の鉤爪に変え戦闘態勢を取る。



「だ、大丈夫なの……あれ…」


 数日前のイヴの戦闘場面を思い出し、隣にいるイヴの肩を揺らし暗に制止を促す。私にあの間を割って入るような真似は出来ない。


 「本当に仲良し」


 聞いてないし絶対あれは仲良しではない。何故か教会の人も意に介さず柩を担いでいく。


「死ねーーー!!!!!!」


 明確な殺意を込め、触手を黒頭巾に振り下ろすが、触手は空を掠め男はそのまま床に倒れた。


「ーー全く、これ以上私様のテマを増やさないで頂けます?愚兄が失礼致しましたわ」


 ドアベルのように、酷く澄んだ感じのいい明るい声が鼓膜を通る。

 食虫植物を連想させる緑と赤の毒々しい色合いの髪をした幼い子供が大きな欠伸をして黄衣の男の隣に立っていた。


「お前……いつからそこに」


 男はおもむろに立ち上がり、手首の内側でこめかみを叩き混濁した意識を戻す。


「ありがとう、助かったよ。おかげで柩を運べたようだ」


「はぁ!?おまっ、まさかワザと!?」


 柩があった場所をキョロキョロし、失態に膝を着く。


「ははは、愚かで愛らしいね」


 黒装束の男は以前煽りを止めない。黄色の襤褸の男は再び頭に血を昇らせ拳を握るが、少女の連れのガタイのいい男に連れて行かれてしまった。


「それでは、ごきげんよう。ヨホホ……」

 幼女は花々を敷き詰めたアンティーク風のガーデンカートに乗り、側近であろう先程の男よりいい身なりをした男がカートを押し去っていった。



「……騒がしくしてしまったね」

 残った黒い男がこちらを向いて謝意を述べる。


「え?あぁ、いえ。無事で良かったです」

 アリスは男に突然話しかけられて狼狽した。

 イヴが男に駆け寄っていくのをアリスも小走りで追いかける。


「ニャル兄が来てくれるとは思わなかった。いつも忙しそうだったから」

 

 イヴは嬉しそうにニャル兄と呼ばれた男の裾を掴む。


「一応、彼女とは友人だから。どこぞの祭司とは違って、僕は優しいからね。あ、仕事をサボる言い訳にしてるわけじゃないよ」と、イヴの頭を撫でる。


「…きみがアリスちゃんだね?」


 男がフードの闇からこちらを覗く。アリスは緊張で背筋を伸ばした。


「は、はい…。イヴちゃんのお兄さん…ですか?」


「はは、違うよ。これは近所のお兄さん的なニュアンス。僕はニャルラトホテプの人柱、ジャックさ。よろしくね」


 男がフードを脱ぐと、闇に潜んだ素顔が顕になった。自信に溢れた様子で、瞳は瑠璃色に輝き目元には気まぐれな気質を示していた。男の容姿は実に冒涜的なまでに整っており、ミケランジェロの彫刻ですら彼の美しさには足元にも届かないだろう。


「は……うわ…………」よろしくお願いします、と言いたかったアリスだが、思わずセリフが心の声と入れ替わってしまった。


「ニャル兄、あの件はどうなったの?」


 あの件、とは逃走を許してしまった狂信者の行方のことだ。


「そうだね、いい知らせと悪い知らせがある。どっちから聞きたい?」

 ジャックが悪戯めいた笑みで問う。


「じゃあ、いい知らせから…」アリスが答えた。


「……彼女が見つかった。きみ達が彼女と接触した辺りから100マイル程離れた辺りでね。」


「悪い知らせは?」イヴが言う。


「ーー首を吊って死んでいた」

「悲しいことだ、尊い人の命が奪われてしまったね」

と、ジャックは思ってもいないことを口にする。


「どうして!?なんで!?」予想だにしない展開にアリスは困惑する。


「さぁ?」ジャックは両手を広げるジェスチャーをする。

「それより、アリスちゃんはこれからどうするの?ここでイヴちゃんと仲睦まじく暮らすかい?教会は人手が足りなくてね、おかげで僕はドリームランド中を駆け回る日々さ。きみが良ければ来てくれると助かる。夢見る人の力が必要だ」と、アリスを勧誘する。


「私はイヴちゃんと一緒にいたい。こんな事件があった後で一人にはさせられない。イヴちゃんに身寄りがあるのなら、そっちを手伝ってもいいけど……」


「イヴちゃんは可哀想にも独り身さ、捨て子で家族はナーサリーだけだったよ。いやぁ、間が悪い!まさかイヴちゃんが人柱の儀に行っている間に襲われてしまうなんて!」


 ジャックは大袈裟にイヴの悲劇を嘆く。


 捨て子?やっぱりイヴちゃんは孤児院の子……それでナーサリーさんのことを特に大切にしていたんだ。……ここに呼ばれているのは関係者だけだから、柩を母さんと呼んでいた彼も小さな女の子も同じ家族?

 アリスはナーサリーの部屋にあった写真と落書きを思い出して、なんとなく面影があるような気がすると納得した。


 だったら尚更一人には出来ない!


「私、イヴちゃんの隣にいてもいい?」柔らかい声でイヴに問いかける。


「……構わない」顔を下に向けて返答する。耳が少し赤く染まっていた。


「良かったね〜、イヴちゃん初めてのお友達だよ!僕嬉しい!」ジャックは指を組んで頬に寄せた。


「ニャル兄には敵わないな」イヴがため息を吐いて言った。そして続けて、

「わたし、教団について調べたい。シュブ姉を殺した元凶を許せない」


「子供には危ないからダメだよ、ここからは大人に任せなさい」ジャックが少し悲しそうな目で言う。


「…………お願い」イヴはジャックの手を取り、見上げて懇願する。不思議な力が働いたようにジャックは顔面を片手で被い、天を仰ぐ形で床に膝を着いた。


「…………ぃぃょ」


 チョロかった。


「あ、そうだイヴちゃん!調べ物するなら探偵とかどう?」天才的な閃きをイヴに提案する。


「探偵?」イヴはこてんと首を傾げる。


「そうしたら、ドリームランドの各地から依頼が来て……その中にはあのカルト教団が関わってる案件があるかもしれない!自然に事件の関係者に会えるし現場に行ける!……どう?」


「とても、いいと思う……!」イヴは瞳を輝かせて肯定した。


「よーし、決まりだ!少年探偵団の発足だね、コンビだけれど。さっそく大祭司様に相談してくるよ。きみ達は今日のところは休んで明日以降に来るといい」

 そう言い残してジャックは務めに戻って行った。



「……でも、いいの?わたしと」


「うん!本当は早く家に帰りたいけど……時間がかかっても割と大丈夫みたいだし、何よりイヴちゃんや教団が気になる。帰る方法がもしかしたら捜査中に見つかるかもしれないしね!」


 大丈夫、大丈夫と半ば強引に念を押してイヴを安心させる。絶対に、イヴちゃんを一人にはさせないから。



 その日の夜、アリスはベッドに座り開けなかった日記をどうにかして開けられないか見ていた。日記を見つけてから保管していたことを忘れていて、今になって思い出したのだ。


「鍵穴さえあれば開けれたかもしれないんだけどな」


子供騙しの錠ではなく、弧を描く円柱を押しても引っ張ってもダメだった。かれこれ1.2時間は弄っている。

 その時、声でない声が聞こえた。


『1116』


 声に従ってダイヤルを回すと、鍵が開いた。周囲をキョロキョロと見回すが誰もいない。少し不気味で悪寒が走ったが、開けてしまえればこっちのものだ。


 内容は、夫の惚気や子供達の成長の喜び、育ての悩み、嬉しかったことなど様々だった。

 そこから、教会の人やイヴちゃんが言っていたヨグ・ソトースというのが、ナーサリーさんの夫であり人柱、ウェヤハという名前であることが分かった。


 そして、そんな彼が亡くなってしまった理由は……

ーーイヴちゃんが、殺した……?



11月16日


 リーフとカルミアがヒプノスの遣いに襲われた。

 リーフが森で彼の宝石を拾い、使ってしまったみたいだった。そこをイヴに助けられて2人は無事だったけれど、イヴの力が暴走して手が付けられない状態だった。


 私は二人を逃がしてウェヤハがイヴを止めることにした。でも、ウェヤハはイヴに消されてしまった。


 私が駆けつけた時には遅くて。私もイヴに触れられて歩けなくなってしまった。何とか気絶させて止めることができたけど。


 残酷なことをイヴにさせて泣かせてしまった。ごめんね。きっとこの事でイヴは一生自分を責め続ける。だから、私はイヴの記憶を曇らせた。


 覚えているのは私だけでいい。私はこの日を忘れない。

シナリオ【奇跡の林檎は絶望となりえるのか】


[犠牲者]

ナーサリー・ライム、一般市民1名


[背景]

朱の王座教団が計画のためにシュブ=ニグラスの人柱、ナーサリー・ライムの殺害を企てたのが始まりです。教団員は■■■■■■■■■ことでナーサリー・ライムの警戒を緩めることに成功。そして、■■■■■のためにアリスの存在を利用することにしました。決行日はアリスが来た翌日の早朝。教団員はナーサリー・ライムの孤児院に潜入し彼女を暗殺、近くにダミーの凶器を置きアリスに罪を被せることに。ただ、これはこの時完全に■■■■■■■■■のものではないため■■な■■■■■■でございます。


[使用アイテム・呪文・魔道書]

・屍食教典儀:降霊、食人、死姦など死体に纏わる内容

・ネクロノミコン:なんでもあり万能本

・門の創造:どこでもドア

・記憶を曇らせる:忘却の呪文

・トートの短剣:物理攻撃耐性無視

・刀身を清める:物理攻撃耐性無視、攻撃力アップ

・狩り立てる恐怖の従属:生け贄を捧げクリーチャーを従属させる

・夢のクリスタライザー:30cmくらいの黄色い卵形の宝石。勝手に使うと持ち主のヒプノスの怒りに触れその守護者(遣い)に襲われる。


[登場神話生物]


シュブ=ニグラス:豊穣の女神。雲と山羊の足のクリーチャー

ズーグ:ネズミのクリーチャー

アイホート:後に追求

狩り立てる恐怖:翼の生えたクサリヘビ

ヒプノス:夢の神

ニャルラトホテプ:人を陥れるのが好きな怪人20面相

ヨグ=ソトース:後に追及

チャウグナー・フォーン:後に追及


[用語]

人柱:邪神をその魂に封じ、自身が邪神に成り代わることで世界のバランスを保ち人々の安全を守る存在。


主神:自身や他の人柱の魂に封じられている邪神を主に指す。


神格化:邪神の力を自身の体におろすこと。人柱が過度なストレスを感じると魂の檻が緩み主神が体を乗っ取ろうとすることで本人の意思に関わらず神格化してしまう。


聖律:人々を邪神の脅威から守るという人柱成立の目的を果たすために作られたもの。主に、人間に危害を加えてはいけない・人柱を殺してはいけないなどがある。破ると地下牢に閉じ込められ永遠を生きる。


[補足]

・はるか昔から、全邪神は人柱になっているか仮初の封印を施されている。邪神として行動できるのは人柱が死亡し、その魂から解放されてから。日記内でのリーフはまだ人柱ではないため聖律により人柱が人間に危害を与えることは許されない。つまり、ヒプノスの人柱は他界済み。


・触れると激烈な■■が起こるため、ウェヤハは暴走するイヴを呪文により食い留めていた。


[小話]


・雛芥子の花は旧神ヒプノス、夢の世界であることの暗示。


・ズーグが投げ矢クリティカル出した。


・アリスが死にかけたとき残りHP2だった。


・文字化けは逆から読んで直すとある言葉が浮かび上がる。


・図書館ファンブルしたので本を頭に落とした。


・アイディアファンブルしたけど重要な場面だったので代わりに鳥の糞を掛けた。


・教団員はビラを配るおばさんを見て事件が村人に伝わったと勘違いした。


・ネクロノミコンは夫を蘇らせたくてナーサリーが入手した。


・一般市民とナーサリーは園芸友達。


・長いことナーサリーとウェヤハは村に居たので若干村人から信仰されていた。


・ヒプノスの話は掲載予定でしたが尺の都合上カットになりました。


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