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夢見るアリスと白兎アイホート  作者: 潮田しお
第1章『奇跡の林檎は絶望となりえるのか』
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Dream.1『落ちた先にあるものは』

「……いったぁ〜」


 全身に鈍痛を感じ目を覚ました少女、アリスは体を起こし、首を大きく横に振り落ち葉を除け、服に付いた枯葉や土を払い辺りを見渡す。

 どれくらい眠っていたのだろうか、パサリと背中から葉が落ちる。巨大な枝が複雑に絡み合い作られた葉の天蓋が陽の光を遮り、森は全体的に薄暗い。


 耳を澄ませると、フルートのような音色と蟲の羽音、何かが囁くような音が絶え間無く聞こえる。


「どこ〜ここ〜?てか、服まで変わってない?」


 自身の記憶が正しければ、ここに来る前はパーカーにミニスカート、せめてものオシャレにうさぎのアップリケを破れた箇所に当てた冴えない服装をしていたはずだが。


「……まぁ、かわいいからいっか!」


 水色のマリン調のワンピースにふわふわの白いエプロン、風が吹く度になびくヒラヒラしたリボン、うさぎのしっぽのようなぽんぽんがあしらわれた黒いリボンのカチューシャ。


 どこからどう見ても憧れの少女像(アリス)


 気分が上がらないわけが無く、初めて遊園地に来た子供のように駆け回り、たまに隆起する蛇のようにうねった木の根に足を取られながら散策を楽しんでいた。

 日光の代わりに森を照らす、奇妙で月光のように輝く美しいきのこや苔はアリスの興味を強く引きいつまでも見つめていられるものだった。




 しばらくすると、辿り着いた木々の開けた場所で陽気なオレンジ色の雛芥子(ひなげし)の花畑がアリスを出迎えた。


「まるで夢見たい!しゃべるお花もあるのかな〜?」


 そう、非現実じみた光景に夢中になるアリスの後ろを何かが通った音がした。音に気づいたアリスは音がした付近に目を凝らすと、ふんわりと白っぽい綿毛の生き物が見えた。


 やっぱり、アリスには白いうさぎだよね!

 待ってましたと言わんばかりに笑顔で生き物に駆け寄っていく。生き物は驚いて草花を縫うように樹海逃げていった。


「待って待って〜あはは!白兎だ!時計うさぎだよ!きっとそうに違いない、流れ的に!順序逆のような気がするけど!」


 アリスは苔むした岩を乗り越えたり、倒木の下を潜ったりして視線の先にあるものを見失わないように何とか追いかけていた。

きっと、ずっとずっと楽しいことが自分を待っているはずだ。

 そう信じて森中を走り続けていると、白い生き物は袋小路に追い込まれ、アリスはその姿を正確に捉えることが出来た。



 兎のように見えたものは、リスのようなフサフサのしっぽとネズミのような体、鼻先からウネウネと気色の悪い触手が垂れ、その鋭い歯を隠していた。


「え?なんか、思ったのと違ッーー」


 その時、アリスを取り囲んで爛々と光る動物の目が見えたかと思うと、木々のうろから一斉に矢が放たれアリスの華奢な体に突き刺さった。アリスは力無く地面に倒れ込み、倒れた側に刺さっていた投げ矢はより深々とアリスの肉を抉った。


 どうして?なんで?何が起きたの?痛い痛い痛い!!!


 白い獣が褐色の別個体の群れを引き連れて、ニタニタと笑みを浮かべながら少女を見下ろす。彼らに為す術なく、少女の目には涙と絶望が浮かんでいた。ウサギモドキが隣に居た個体に話かけ、茶色の獣はナイフを少女の首筋に振り下ろそうとした。




 ーーが、次の瞬間、獣は黒い蹄に踏みつけられ薄く伸びた肉片になった。何も知らない第三者が見たら元の生き物がなんだったのか、とても判別出来ないだろう。

 踏み潰されなかったネズミ達は、身体を震わせ毛を逆立てながら後ろへ下がり、脱兎の如く逃げ出した。


 少女はぼんやりした頭で自分を助けてくれたものを見上げた。それは黒く、ぬらぬらとしたロープ状の触手をくねらせていて、3つの足で巨躯を支える樹木のような怪物だった。


「仔山羊ちゃん、ありがとう。助かったわ」


 カラカラと音を立てて車椅子に乗った妊婦が少女に近づく。仔山羊と呼ばれたそれは緑色のよだれのようなものを垂らしながら、妊婦の進行を妨げないように退く。


「人の子の声がすると思ったら珍しい、夢見る人じゃない。早くお家に連れて帰って手当しないと、死んじゃうわ」


 仔山羊は触手で少女の体を持ち上げ、器用に妊婦の車椅子を引いていく。緑色の液体からする不快な死の臭いに眉をひそめる余裕も無く、アリスになれなかった少女はそのまま意識を失った。

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