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かえらずの森の王  作者: 須田しんじ
第1話 ある日の森
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5.事情

「……で、森の奥まで逃げた時に魔物に追いかけられて、ロニさんに助けていただいた後に此処に」

「ふむ、なるほど」


 ロニとレドが洗い終わった食器を持って家に入ると、ちょうど話が終わったところのようだった。

 食器を棚に片づけ、椅子に座ろうとする2人の方にロッズが顔を向ける。


「ロニ、お前さんのベッドもこの子たちに使わせていいかのう?」

「良いわけないだろ、俺だって疲れてるんだぞ」

「こないだなめし終わった猪の毛皮だってあるじゃろうが、それ敷けば床でも問題ないじゃろ」

「……決定事項なんだろ、それならそう言えよな」


 ふん、と鼻を鳴らして外に出たロニが倉庫から大きめの毛皮を4枚持ってくる。

 その間に子供たちはもうベッドに寝ていたようで、寝息が聞こえてきた。


「お前の部屋の方にミアロさんは1人で寝とるから、間違って部屋に入ったりなんてするでないぞ」

「興味ねえし、ガキが寝てるの邪魔するほどひねくれてねえよ」


 床に毛皮を敷いてその上に寝っ転がり、もう1枚の毛皮をシーツ代わりに身体の上にかける。

 ロッズも蝋燭の灯りを消した後同じように寝っ転がり、同じようにする。


「結局あいつらはどこから何があって森に来たんだ?」

「……ダオジニ王国、恐らくノモディア領じゃな」

「爺さんの故郷の国なのか、そこそこ距離あるな。あれ、でもノモディアってかなり平和で治安も良い場所って昔言ってなかったっけ」

「代替わりしたか、乱心したか。それはわからんがな、あの子らの話を聞いたら耳を疑ったわい」

「そんなに酷いのか?」


 しばらく、お互いに無言になる。ロニのおい、という催促の言葉に深いため息とともに話し始めた。


「税が重くなり、治安も昔より悪化しとると親御さんは言っておったようでの。あの子らは知り合いの所に行ったとしても領主公認でやりたい放題やっとる奴が探し回っているだろうから、危険と考えて逃げる事を決めたそうな。子供の足ではノモディアから出る前に捕まる、と思って一か八か森に隠れながら他の領地を目指そうとしたようじゃの」

「ふーん、あのミアロってやつも色々考えた末の行動なんだな」

「いや、そうしようと言ったのはレドくんらしい」

「……あの能天気そうなやつか? 本当か?」

「嘘を言う必要はなかろうよ、あれでなかなか傑物なのかもしれんぞ」


 本当だろうかと考え込んでいたが、ふと思い出したことを聞く。


「やりたい放題やってるやつ、ってのが村を襲ったやつなのか?」

「恐らくそうじゃろうな。話を聞く限りはろくでなしの商人が魔法使いを領主に献上か売却しようとしたか……まあそれはわからんが、ついでに若い男女を捕らえて奴隷にでもしようとして村を襲った、って感じだと思うぞ」

「奴隷の子供だったり金と引き換えに奴隷として売られたとかならまだしも、村からさらって奴隷にするとか領主が取り締まらないのかよ」

「裏で取引されてるか文書なりなんなり改竄してるんじゃろう、領主もそこに一枚噛んでいるか黙認してるのかもな。そうでなくては辻褄が合わんわい」

「酷い話だ、法を守らせる側が守ってなきゃ世話ねえな」

「まあいずれにせよ教会に預けたとしてもどうにもならんな、領主があてにならん以上は」

「竜神教だっけか、名前だけ立派の役立たずめ」

「まあそう言うな、領主のことがなければ教会も頼れるかもと言っておったし」

「頼れないならどっちにしろ同じさ」


 寝る、と言ってそのままロニは寝返りを打ちロッズに背を向ける。


 1時間ほど経過したころ、強い風がわずかに家を揺らす。

 みしりと家がきしむ音が部屋に響き、その音を聞いてロニは目を開ける。

 そのまま起き上がって忍び足で家を出てそのまま倉庫へ向かう。

 かんぬきを外して中に入り、奥に進む。奥には布を被っている大きめの何かがある。

 布をとりはらうと、そこには今日の狩りの最中に着ていた山熊の鎧とは違う鎧があった。

 大型の熊であるとはいえ、山熊は普通の熊の延長線上の生物である。毛皮の色も普通の茶色だ。

 しかしこの鎧の毛皮は鋼熊(はがねくま)と呼ばれる魔物のもの。鈍い銀色で、金属のような光を放っている。毛皮そのものも分厚い。そして頭蓋を利用して作られた顔を覆う兜もある。

 横にはこれまた同じく、先程腰に下げていたものとは違うナイフが何本か置いてある。


 ロニは鎧を着用し、ナイフを2本選んで腰に下げた後に兜を被って深呼吸する。


 そのまま倉庫を出て、柵の向こうの森の中へと走っていった。

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