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かえらずの森の王  作者: 須田しんじ
第1話 ある日の森
3/6

3.相談と帰路

「え、あ、その……」


 困ったような声を出す子供たちをよそに、ロニは岩陰から2羽の耳を引っ張って引きずりだして、子供たちから見えるようにする。

 そして思い出したかのように、腹を刺して絶命させた兎の首を切り、血を出させる。先ほど返り血を浴びさせた兎ほど吹き出す勢いはなかった。その血の勢いのなさが死んでいると言う事を再確認させる。

 転んでいた少年も立ち上がって2人の方に走る。

 明らかに少し怯えた雰囲気の子供たちに対し。


「この3羽で全部か?」


 子供たち3人が全員一様にうなづくと、ロニは血抜きの為に兎の腹を斬り裂き、内臓をかき出し始める。どうしていいかわからないのか、困惑の表情を浮かべる子供たちには目を向けずに作業を続けながら、ロニは気になっていたことを聞く。


「お前たち、どこから森に入ってきた。これが終わったら送ってやるから言ってみろ」


 度胸試しをするならもっと安全な場所にしろ、と付け加えたが、その言葉に少女が絞り出すように言葉を発する。


「も、戻れません、もうあの場所には……」

「悪さでもしたのか。別に子供のやることなら謝れば許してくれるだろ」

「違います。村が襲われて、その」

「近くに知り合いのいる別の村や町はないのか?」

「村の外に出たことは数えるほどですし、仮に知り合いがいたとしても、その人に危険が……」


 喋り終える前にじわりと少女は目に涙を浮かべ、ちょうど子供たちの方を見たロニはその涙を見てため息をつく。


「わかったよ、どんな事情かは知らねえけどとりあえず家に来い。爺さんに聞けばどうにかなるだろ」

「ほ、本当ですか!」

「ああ。その代わりにこの兎どもを運ぶの手伝ってくれ。お前たち3人で1羽で良い」


 内臓を取り出し終わったロニは細い縄を腰から取り外し、その縄で2羽の足をそれぞれ縛りながら縛ってない兎を指さす。


「腹の方を下にしろ。男2人はそれぞれ足を、女は耳を持て」


 そう言って縛り終えた兎を頭を逆さにして肩に担ぎ、ふと気づいたロニは子供たちに向き直る。


「俺はロニ、ロニ・ボラム。年は多分21だ」


 暗にお前たちの名前も教えろ、という意図が伝わったのか子供たちもそれぞれ名前を名乗る。


「ミアロ・アビル。年齢は10歳です」

「ラズ・サイアム。今は9歳」

「レド・ヘイス。8歳だよ」


 少女にしては背の高く、青みがかった黒髪を肩まで伸ばした凛とした目つきの少女。

 同じく子供にしては背が高く、少し長めの明るい茶髪が整っている顔立ちを更に引きたてている少年。

 背は普通で、焦げ茶色のくせ毛の短髪にどこかのんびりした表情に見える、糸のように細い目の少年。

 それぞれ自己紹介をすると、さっき指示されたようにミアロは後ろ手に耳を、ラズとレドは足をそれぞれ持って腹を下にして持ち上げる。


「少し遠いから疲れたら言え。怪我でもされたら困る」


 そう言うとロニは森の中を歩きはじめ、子供たちもミアロを先頭にしてついていく。

 出来る限り大きい段差や起伏が無い所を歩いて進んでいく一行だが、子供の身体には森は厳しく、段々と子供たちは息を切らし始める。


「少し前のでかい木の後ろにひらけた場所がある。そこで少し休憩するぞ」


 はい、と息が切れているがどこか嬉しそうな声色で子供たちは返事をする。

 そして休憩場所に着き、一行は兎を地面にゆっくりと下ろしてから座る。

 ロニは腰につけていた革製の水筒を取り出し、水を飲む。すると1口で無くなってしまった。


「あー……その、すまん。水が無くなっちまった」


 水筒を逆さにして子供たちに見せる。だがミアロから返ってきた言葉はロニの予想と違っていた。


「あの、ロニさんは魔法を使われるのですか」

「魔法?」

「さっき、兎が私たちに向かって来たときに、急に……兎に向かってすごい風が吹いたので」

「ああ、あれか」


 水筒のふたを閉め、上に放り投げると、突然風が上に吹いて更に高い位置まで押し上げられる。

 風が止み、落ちてきた水筒をキャッチする。


「これが俺の使える魔法だ。まあ、風を吹かすだけの魔法さ」

「使える事を、家にいる人は知っているのですか?」

「ああ、勿論。あんまり人に見せびらかすなって言われてるけど、もうお前らは見ちまってるしな」

「でしたら、その……魔法使いを売るために探しているような人は、家の近くにはいないんですか?」


 何が言いたいのかわかりかねているロニに、意を決した表情のラズが説明する。


「村を襲った奴らは他の目的もあったみたいだけど……ミアロの名前を叫んで探してる奴がいたんだよ」

「叫んでたねー、魔法が使える事も、見た目の特徴とかも知ってたみたいだし」


 のほほんとした表情でレドも同意する。


「その口ぶりから察するに……ミアロ、だったか。お前も魔法が使えるのか」

「はい。この魔法を」


 ミアロは両手のひらを上に向けると、その上に小さな水滴が浮かぶように現れる。やがて水滴は大きくなっていき、リンゴくらいの大きさになる。


「水か……商人、研究者、貴族、欲しい奴はいくらでもいるだろうからな」


 魔法で一定量の水を道中で作らせることができれば、商品を運ぶ途中に必要な飲み水を減らせる。非常時用に予備だけ持ち運べばいい。

 研究者にとっても不純物の無い水は良い実験素材になる。

 貴族もその場で水を作らせれば確実に毒のない水を飲むことが出来る。

 それだけ水を作れる魔法というのは有用だ。戦闘にはあまり向かないが。


「まあ、俺と爺さん以外でこの森の奥に入るようなやつはいないだろうし、大丈夫だろ」

「あ、ありがとうございます……では」

「じゃあ、作った水はお前ら3人で飲んでくれ。もう少し休憩してから出発しよう」

「あれ、いらないんですか?」


 きょとんとした顔のミアロに水筒を見せる。


「もう飲んだからな。それに魔法は体力を消耗する、日が沈む前に着くためにも出来るだけ体力を残しておいた方がいい」

「そういうものなの?」

「レド、この人はミアロを気遣って遠慮してくれてるんだよ。感謝します、ロニさん」

「あ、そうか。ありがとうね」

「心配してくださってありがとうございます」

「気遣っても心配してもねえよ、気にすんな」


 感謝の言葉をかけるラズ、レド、ミアロにそう言うと、ロニは表情を変えずに顔を背けた。

 ミアロは水球を3つに分け、そのうちの1つを口に入れる。ラズとレドもそれぞれ口に入れて飲みこみ、喉を鳴らす。


「じゃあ、あと数分くらい休んだら出発するぞ」


 子供たちはそれぞれ返事をした後、大きな木の前に移動して座り、幹に背を預けてリラックスする。


 予定通り数分休んだ一行は再び兎を持って歩きはじめ、家に向かう。

 歩き続けて、家に着いたのは日が沈み切る直前くらいだった。

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