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かえらずの森の王  作者: 須田しんじ
第1話 ある日の森
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1.狩りの途中に見つけたもの

 太陽が照らす森の中、鳥や虫が好き勝手に鳴く音が響き渡る。

 そよ風の吹く音につられるように、風に揺られてざわめく木々の音がする。

 どんな獣かはわからないが、獣の走る音も聞こえてくる。


 そんな森の音に紛れさせるように、湿り気のある落ち葉交じりの土を踏む音を鳴らしながら走る人間がいた。

 山熊の骨と毛皮を鎧のように加工して身に着け、鉄甲亀の甲羅を削り出して作ったナイフを2振りいつでも取り出せるように腰にぶら下げている。

 日に照らされた短髪は灰色に輝き、そこそこ整った気だるげな顔には無精ひげが生えている。

 彼はロニ・ボラム。この『かえらずの森』に住み着いている奇特な人間のうちの1人だ。

 今日の目的は狩猟、つまり獲物をとってくることであるが、未だにロニの持ち物は自宅を出た時と何も変わっていない。むしろ持ってきた干し肉もパンも食べてしまったし、水も半ば飲み干してしまった。そう考えるとむしろ減っている。

 確かにそういった日もたまにあるが、この日はかなり異常だった。彼はついさっき鹿を見つけたのだが、その鹿は何かに頭を潰され、肉も殆ど食い荒らされていた。

 鹿の残がい周辺に生えている木も、幹が細いものはほとんど折られてしまっていた。


 足跡から見るに、犯人の数は3だ。


 ロニは足跡から推測をたてる。そして早めにこの犯人を仕留めなければ、どんどん繁殖して森や他の獣に更なる害をなすと結論付けた。コイツらそのものを元から積極的に探して狩りはしないが、見つけたからには仕留めると決めている。

 犯人の身体から漂っているであろう血と脂の臭い。踏み荒らしたであろう草木の跡。この2つを追って走り続けているが、なかなか追いつかないどころか半ば見失いかけている。

 最初に見つけた鹿の残がい、その後も再び鹿と、次は猪の残がいを見つけた。だがそれ以降は満腹になったのか、単純に獲物が見つからなかったのか、残がいは見つからない。そのうち匂いは消えて草木を踏んだ跡しか手がかりはなくなってしまった。

 それでも執念深く追跡を続け、草むらを漁って倒木を飛び越え、昼から夕方まで追い続けたがついに痕跡を見失ってしまった。途中に見つけた、ちょうど空間が空いて陽光に照らされた地面が乾燥し、固くなったところで足跡が途切れていたのだ。運悪くこの部分は草があまり生えていなかった。

 なんとか周辺を捜して似た足跡を見つけ、これは犯人のものではないか、と目星をつけて追いかけたはいいが、今度はうっそうとした茂みに遮られ、その先に続いてるかもしれない足跡もわからなくなった。

 ロニは半ばやけになり、辺りを適当に探して回ったが結局手がかりすら見つけることは出来なかった。

 ふと足を止め、夕日に焼けた空を見上げる。


「しくじったな……」


 そう呟き、朝の出かける前に老爺に言われた言葉を思い出す。

 もうこれで干し肉は無い、と。

 食事はロニの数少ない楽しみのひとつ。

 肉は元から好物であり、力仕事をする上での活力の源。パンの付け合わせが野菜と塩と水だけでは物足りない。

 ここ1週間は足をひねって怪我をした老爺の看病と、老爺の代わりの農作業を行うために狩りが出来なかった。

 その上何故か3週間ほど前から鹿や猪が見つからなかった。小型の獣すらほぼ見かけなかった。だから気に入っていた狩場を変えてみたのだ。結果として、恐らくその原因を作った犯人がわかったのは良い。

 だが仕留められなければ意味がない。


 老爺の回復祝いを盛大な肉料理で行いたかった、と思い落胆しながらも、ロニは自宅の方向へと足を向ける。

 そのまま歩こうとするが、突如として強い風が吹いた。

 風の感触と共に、獣の臭いが鼻につく。

 そして風の吹いた方向から、子供の声で助けを求める声が聞こえた。

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