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神様ぶった友人の本音を引き出したい

アイリスが”地獄の花道”と称した、騎士達が道を作る階段をのぼりきった。

登りきった先には非常用のような簡素な銀の扉があった。

城の割に狭く暗いこの階段は本来は非常時に脱出用として使われていたものなのかもしれない。これが王のいる間に繋がっているのか。

俺は開けるのを一瞬躊躇した。


「開けないのですか?ゴースケ」


魔王が囁くように言った。

そうだ。悩んでも仕方ない。俺は意を決して、拳で扉をぶち破った。


その瞬間、ぶわっと思わず顔を背けてしまうような風が吹く。明らかに攻撃だ。

俺はみんなの盾として前に立った。


「止めて良い。効かなそうだ。」

「はぁい」


老齢な声とテンションに低い女の声が聞こえ、風がピタリとやんだ。


扉の先の部屋は豪華絢爛な謁見の間であり、数十人の騎士が剣を構えていた


その玉座には優しげで弱そうな王と、この旅の目的、ずっと会いたかった存在である神秘的な服を着る天音が立っていた。


「騎士達よ、一度剣をおろしなさい」


騎士達は機械のように一斉に剣をおろした。


「本来戦いは好きじゃないのだ。よかったら事情を聞いてくれないか?」


意外にも王は理性的だった。

しゃがれた声で優しく提案された平和的な解決の糸口に思わず攻撃を怖気づいてしまう。


これが、部下に裏切りを恐れるだけの怪物だと言われる程の男なのだろうか?

ただの臆病で心優しいおじいさんなのではないのだろうか?そう思いたくなってしまった。


「お久しぶりですね。国王様。あなたの野望…いえ事情とやらは既に説明済みですよ」


ヒートが王の言葉に答えようとするが、魔王が手で制して俺達の前に立っていた。


「……魔王と国王、どっちの話を信じるべきか懸命な人間ならわかるだろう」


「言っておきますが洗脳は使っていませんよ。今は"それ"は貴方が持っていらっしゃるのでしょう」


「では、君たちは自分の意思で魔王に加担する逆賊だと判断していいのか?」


「…それは、姐さんの話を聞いてから判断します」


ヒートは王にハッキリと言った。足は震えている。


無理も無いだろう。コイツはそれなりの立場もあった良家出身の下級騎士だ。

俺がテレビの中でしか見たことない総理大臣にいきなり意見を言うようなものだろう。吐くような緊張は想像に難くない。


すると、今度は王を守るように天音が一歩前に出てきた。


「俺の意見は変わらないよヒート。俺ね、世界を救いたいんだ」


「世界って…」


「俺がいることで、この国が災害に呑まれることも魔法を悪用して凶悪な犯罪を起こすことも防げるの。わかるでしょ。」


魔王が説明した事と全く同じだった。それが事実であるということを思い知ってしまう。


「わかりませんよ…なんで姐さんがそんな事をしなくちゃいけないんスか…」


「俺がやりたいからだよ」


天音は想像以上に確固たる意識を見せていた。覚悟を決めた顔だった。


「お願いだから、諦めてよ。もうここまで来たら逃がすことはできないけど、これ以上罪を重ねることはないだろ?」


そして俺達を諦めさせることに必死だった。

ヒートはその姿を見て何も言えなくなってしまう。本当に、天音が望むことは何かわからなくなってしまったというように


「滑稽ですね」


魔王が静かな水面に石を投げこむように、白紙に墨汁を垂らすように、

重く冷たい一言を放った。


女神のように表情の変化を見せなかった天音の眉がピクリと動く。


「世界を救う?救うも何もこの世界は貴方に救われる程荒廃していませんよ。そんなに綺麗な言葉を並べたててお店でも開くつもりですか?繁盛しそうですね」


「……俺、お前にコイツらのこと逃がせって頼んだはずなんだけど」


「私、魔王なので。魔王は約束なんて守りませんよ」


「ホント、お前嫌な奴」


天音は、やっと女神然とした態度を捨て、底意地の悪さが出まくった笑みを浮かべた。魔王はその顔を見て、その顔を引き出したかったのだとでも言うように上機嫌になった。


「貴方もでしょう。なのに何いまさら光の勇者…いや、今は女神(笑)でしたっけ?女神ぶってるんです?私達は今、貴方の綺麗ごとを聴きに来たのではなく貴方の本音を聴きに来ているんです。」


「だから言ってんじゃん、俺は神になってちょー強くなって世界を救って尊敬されたいの!これでいい?!」


「ダウトです。あの少年を連れてくるまでもないですね」


俺も、魔王に完全に同意だった。


神になるということは、常人には2つでも耐えがたいという魔法を入れる行為を行うということ。

神という役目を一人に押し付けることは、この国に起きる災いの全ては天音の責任になるということ。

神になるということは、人間ではない存在となり二度と人と普通にかかわることはできなくなるということ。


それをわかっていながらコイツは神になろうとしているのだ。

アイツが良くても俺は、俺達は嫌だ。それで天音が幸せになれるとは思えない。

これが全てだった。天音の言うきれいごとを嘘にしなければならないのだ。


「お前に何がわかるっての?!」


天音は声を荒らげるが、王が肩を叩くことで窘めた。


「桐生天音…いや、神よ。コイツらを殺してくれ。もうわかりあえぬだろ」


王がそれを言った瞬間。魔王の姿が消えた。


「本性を現しましたね。タヌキジジィ」


魔王は王の頭を蹴ろうとするが、王はヨボヨボの片腕でそれを止める

天音がすかさず魔王に光線のようなものを放つ。

俺は腕を伸ばしそれを止めた。


両端で待機をしていた騎士が一斉にこちらへ集まることで、俺達の最終決戦は幕を開けた。

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