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勝手に消えた友人の孤独の許さない

「ああああああああああああああああ!!!!!!」


少女は自分を抱くようにして悲鳴をあげる。思わず助けてしまいたくなってしまいそうな悲痛な悲鳴だ。


「透明になれる…!」


アランに魔法が戻ったらしい。足を負傷し動けないアランは透明になって消える。

アイリスは悲鳴をあげながら自分の腕にナイフで大きな傷をつけた。

大量に出血すること魔法を排出しているのだろうか。悲鳴は収まり、次第に荒い呼吸だけをするようになった。


「マオちゃんから私の弱点でも聞いたでありますか……」


戦闘時のテンションの高い話し方とは打って変わり、低く唸るように彼女は言った。


「アンタの友達はそんなに優しいやつじゃないッスよ」


「…そうですね。あの子、どんどん一人で前に進んでしまいますから…」


こちらが思っているよりも魔王と仲がよかったのだろうか。誰かを捕まえようとするように、血まみれの腕を床に伸ばした。


「貴殿は、国家転覆なんてしてどうするつもりでありますか」


「国家転覆は魔王が独自で掲げてる目的ッスよ。俺達は姐さんさえ取り戻して、ついでに魔王と密に手を組んでいたムカツク王のことを一発でも殴ることができたらお釣りがでる程度ッス」


「あの怪物を殴るのをついでだなんてよく言えましたね」


アイリスは掠れかけた声で嘲笑した。


「吾輩も王に拾われた身。この身捧げても王の役に立ちたいと思っているであります。ですがあの人はもう、裏切りを恐れるあまり、ただの怪物へと成り下がってしまったであります」


「どういうことッスか」


「敵にやすやすと教えるとでも?」


満身創痍ながらも挑発的な視線はやめない。まだ戦意は消えていない瞳をしている。


「まぁ、ただ女神様もいずれそうなる……ということだけは教えてやるであります」


「!?説明するッス!!!」


ヒートがアイリスに掴みかかり叫ぶ。しかし、アイリスはそのまま逆上がりをするようにヒートの腹を蹴り飛ばす。

まだそんな元気があったとは。


「説明してもムダであります。もう手遅れでありますから」


「言え!!!!」


ヒートが叫ぶ。それでもアイリスは「黙秘権を行使するであります」と頑なに口を閉ざしていた。


「何故女神様にそんなに執着するでありますか?そんなに女神様を人に戻したいでありますか?あの人が神になることで国民全員が幸せになれるというのに……もしやホの字だったとか?」


自分が言われたわけでもないのに心臓が跳ねた。

しかし、動揺している俺とは逆にヒートは極めて冷静であった。


「姐さんは神になんてならなくたって、人を幸せにできる人ッス。孤独な人間をさりげなく輪に入れることが出来る。そんな姐さんの生き様に俺は惚れました」


その言葉は、聞き覚えがあった。


孤独な人間をさりげなく輪に入れることが出来る人間。それは、天音が俺に言ってくれた言葉だった。

しかし、振り返れば振り返るほど、この言葉が当てはまるのは俺なんかじゃなく天音だと思っていた。

違う。

天音は、《《そうあろう》》としていたのだ。


もしかして、天音は王を救おうとしている?

かなり慕っている様子の部下からすら怪物と言われる状況に陥っている王に寄り添おうとしているのか?


「あぁ…そういうことでありますか…」


アイリスはダラダラと血を滴らせながら、呟いた。


「…明らかに自分に損しかない、痛くて辛くて孤独な神になんて立候補するのは不可解だと思っていたであります。王に洗脳された一般人なのかとか、何かたくらんでいるのではと勘繰っていたでありますが」


そうして、全身の力を抜くように、ナイフをおろした。


「そういうお人なのですね」


ヒートが無言で頷くと、アイリスは自嘲するような笑みを浮かべた。


「で、あればなおさら貴殿達が女神様を奪いに行く理由がわからないであります。彼女は貴殿達を巻き込まないようにしているのではないでしょうか」


「そんなの簡単ッス。ねぇゴースケさん、アランさん」


俺はヒートの言葉に頷いた。きっと透明になっているアランも頷いた。


「このままだと姐さんは幸せになれないからッス。ついでに置いて行かれた文句を言いに行くッス!」


そうだ。俺達は、独りで勝手に消えていった天音を連れ戻さなくちゃいけない。

一方的に太陽に照らされる事の幸せを教えておいて、勝手に奪うなんて許せない。


「置いていかれたことの文句……ですか」


アイリスはナイフをおろしたまま、騎士達を倒し続ける俺の元へ歩いてきた。

ヒートが慌てて駆け付けようとする。


「総員。撤退であります」


アイリスは、ただ、一言。それだけを言った。


俺に襲い掛かっていた騎士は全員動きを止めてざわつく


「どういうことですかアイリス将校!!!!」


「王に逆らうおつもりですか!!!?」


「いえ、貴殿達がこのままこのデカブツに挑み続けても勝ち目は無いであります。無駄に死人を増やすのはよくない。先に進ませて女神様に倒してもらうべきであります」


筋は通っていた。

俺とてできる限り人を傷つけないでこの場を切り抜けたいと思っている。


「しかし…」


「上官の命が聞けないでありますか」


「…はっ!!失礼いたしました!!」


「……少しだけ、教えてあげるであります。王のことを」


そう言って、アイリスはなだれ込むように壁に寄っかかった。


「なんで急に…」


「貴殿達に、少しだけ共感したであります。」



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