独りぼっちな友人を知る女
あまり人を倒しすぎると、自分たちが進んだ方向がバレてしまうため、俺達は極力騎士を無視して、城内部に入っていった。
「ふわぁ、お城ってこんなんになってたんやね!」
「リトルキャットは城の中を見るのが夢と言っていたな」
「うん!絶対貴重な資料とかいっぱいあるもん」
「私達はその城をこれから荒らす予定ですけどね」
「うっ……」
「で、できるだけ破壊とか爆破とかは控えましょうか!!」
俺達は呑気な会話をしつつ、端の階段にのぼる。夜だというのに明るい城内部は、程よく騎士が走り回る音が聞こえているため、俺達はいい感じに隠れることができていた。
「…城上部に行く前に、この王の脅威を説明しておきましょうか」
階段をのぼりながら魔王が言った。
「やっぱ王サマ強いんや…」
「あんなに優しそうなおじいさんが脅威なんスか?」
「……彼の魔法は、範囲内の魔法を全て無効化する魔法です」
この国の武器が発達していない理由、プライドの高そうなこの魔王が王と取引をしていた理由、洗脳が効かないはずの天音の人格を消す計画の本質、すべてに納得がいった。
「この魔法が使える騎士だらけの中で王を務め続けられてるだけあるな…」
「えっえっじゃあウチが作った武器とかも効かへんの?」
「少なくとも魔獣は彼の前ではただの獣になっていました。恐らく貴方の魔法も効かないのでしょう」
「ひわわ…そんなんどうやって倒せば…」
「簡単な話です。ステゴロですよステゴロ」
「えぇ~…」
それで戦えるのは俺とお前ぐらい……と思ったところで気づいた
「ゴースケは一体範囲内に入ったらどうなるのでしょうね」
俺の思考をなぞるように魔王は言った。
「ん?よくよく考えたらゴースケさんって何者ッスか?!最初は姐さんの魔法かと思ってたけどそうじゃなさそうだし!魔物?!」
そういえばコイツらに一切俺のこと説明していなかったな。よく得体のしれない怪物をここまで信頼できるものだ。
「気づいていなかったのか?彼には独立した人格もあるだろう」
「人間に効く薬も効くもんなぁ」
アランとチルハが気づいていたことに驚いた。俺の正体について一切聞かれなかったから気づいていないものかと思っていた。
「えぇ、彼は元人間ですよ。ゴーレムになる常時発動型の魔法を持っているのでしょう。もしかしたら範囲内に入ったら人間になってしまうかもしれませんね」
そ、そうなのか?!俺はてっきりゴーレムという生き物に転生してたのかと思ったが、もしかして、人間として転生してるのか
「ゴースケさんの人間の姿見て見たいッス!」
「ちゃんとお話もしてみたいなぁ」
かわいい奴らだ。もし、その時があったら是非……と思ったところで、まともに話せるか不安になってきた。
俺はもとより極力会話を避けがちな人種だったまともに会話できるかどうか…頼れるゴーレムがいざ喋ったらコミュ障陰キャだったらがっかりしてしまうんじゃ…!?
「何か焦っとる照れとるんかな?」
「ふははっ可愛い所あるじゃないか!」
駄目だ、まともに喋れる気がしない!!!!
そんな呑気で平和な会話をしていた時、ふにっという水風船のような感触がした。
その瞬間、身体が宙に浮かぶ
「ひわわわわ何やこれ」
「触手か?!」
「これ、昨日俺達を拘束した時の奴じゃ…」
仲間たちも男も女も関係なく割とあられもない姿で拘束されていた。
「触手…?ということは…」
魔王が呟いた時
「そっ、アタシでーす!!」
上に階からコツコツとヒールの音を立てて、ふわふわとした派手な色の髪をした女が降りてきた。一目でギャルとわかるほど細部まで着飾っているこの世界では珍しい風貌の少女だ。むしろ前世の世界の原宿あたりに多そうな外見だ。
しかし、羽織っている上着は、先ほど一階で対峙した人物と同じで、若いながらも良い地位にいることがわかった。
「よかった、アンタ達が消せるのは視覚だけなんだね。アタシのちょー優秀な触手のおかげで助かちゃった☆」
手は無く、腕からタコのように俺達につながる触手を出している、普通の少女と人外が合体したような不思議な姿をしていた。その触手を操るのが魔法なのだろうか。
「じゃ、コレ監獄にお届けすればいいんかな?その前に王サマに見せる?」
俺は異世界ギャルがぶつぶつ独り言を話している間に、胴体を結ぶ触手をブチブチブチとぶち破った。
「うっそマジ?」
再び足に触手が絡みついた
少女はパーティのメンバーを拘束したまま自分の腕から触手を切り離す。
すると再びうでからふにふにと触手がでてきた。
俺は脚に絡みついた触手をちぎり殴りかかるがそれもすぐに触手が絡みつく。意外とすぐ復活するらしい。厄介だ。
俺は絡みついた触手を引っ張ってギャルを引き寄せる。引き寄せたギャルはニタリと笑った。
「やるね。私カレン」
ゴースケだ。
カレンと名乗った少女は背中から新な触手を出し俺を突き飛ばすようにして距離をとる。
「ゴースケ気をつけなさい。ソイツ、貴方と同じですよ」
優雅に観戦していた魔王が、楽しそうに行ってきた。
お前、自分の力で触手破れるだろ。
「マジ?!アンタも転生タイプ~?アタシや天音と同じじゃん」
天音の知り合いか?俺は記憶を探る。人の顔を覚えるのが苦手だったこともあり、似たようなギャルは他にも多くいたような気がする。
俺が必死にクラスの集合写真を思い出していた時、目の前の少女はとんでもない事を言い出した。
「じゃあ改めて名乗るわ。榎田可憐!天音の元カノです☆」
「「「へ!?」」」
その衝撃の事実に開いた口が塞がらなくなっていた俺達を見て魔王は一言言った。
「これは面白くなってきましたね」