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全ての文句は友人の後に

魔王が監獄の門番相手に無双している間。

俺は小型に縮んで、監獄の中に入り、仲間を探していた。


強くて悪そうなやつらが、外の騒ぎにギラギラとした目を向け、これでもかという程前のめりになっていた。

牢獄は昔北海道で見た昔の刑務所のように長く、それが3階立てとなって続いている。こんなデカい牢獄の中ピンポイントに仲間を見つけるのは至難の業だ。

長期戦を覚悟しよう


「絶対この騒ぎはゴースケくんや!ゴースケくんならこんな柔い檻一発やもん!!」


「期待させないでくださいよチルハくん!!やっべーテロリストかもしれないスよ!!」


「ふっ…プリズンブレイク…トレビアンな響きだ…」


割とはやく見つかったな。声でけぇよ。


3人はトーテムポールのように檻の端っこから外の様子を見ていた。あまりにも目立つ3人組だ。


俺はポテポテと近づいて、檻の隙間からトントンとトーテムポールの一番下、チルハの肩を叩いた。


「ひわ!?ゴースケくん?」


「ストーンキャット!!!!!生きていたのか!!!!」


「やっぱサイキョーッス!!すげーッス!!」


先程まで感情が薄い魔王と一緒にいたため、このうるさい感じが恋しかった。こちらの方が肌に合う。


「ストーンキャット…一体どうやってプリズンをブレイクしてきたんだ…?」


普通に脱獄って言えよ。

いや、まぁ、理由を話すにはちょっと複雑…というか俺では説明ができないというか…


「私が脱獄させました」


「「「!?」」」


気づいたら、正面に魔王が立っていた。本当に存在感が無いのに濃いという不思議な人だ。


「貴様、魔王だな…!何故ここに」


みんなは敵意むき出しの表情で魔王から距離を取る。当然だ。


俺は今は魔王と協力できる、目的は一緒である。ということを伝えようと、一旦檻からでて魔王の肩を抱いたり城の方を指さしたりして必死に説明する。


「ゴースケくん……」


「もしかして洗脳されてるんスか…?」


そりゃそう思うよな……


すると魔王がそっと檻に手を掛けた。


「私は、ある人から貴方達を脱獄させるように依頼させました。」


「ある人…?」


その後は俺ともやったご存知のやりとりだ。

今の国と天音の現状を説明して、天音の願いを聴くか自分に協力するかの2択を強要してくる手口。案外駆け引きが上手く魅力的な言葉を吐いてくる女だ。

部下が一切いなかったとはいえ、曲がりなりにも王ではあったのだな。


転生者である俺と違って、この世界の事情を知っているこの3人は、はるかに俺より理解が早かった。それだけに思うところもあるのだろう。

魔王が2択の質問を迫った段階で黙り込んでしまった。


「早く解答しないと日が昇りますよ。脱獄は暗いうちが吉なのです」


「わかっている…わかっているが流石に考えさせてくれ。貴様が言っていることが本当かどうかもわからないしな…」


アランは頭を抱えていた。

これまで信じてきた国というものが根底から覆されたのだ。この反応は当然だろう。

この世界にさほど愛着の無い俺だからこそ天音のことだけを考えて判断できたともいえる。


「1つ聞かせてほしいんやけど…」


チルハがヒートの影に隠れながら発言した。


「アンタの目的は何なん?天音ちゃんの言うこと聞いてウチら逃がしてアンタも逃げればそれなりに自由は手に入るんちゃう?なんでわざわざ国を大っぴらに敵に回すようなことするん?」


「あぁ、そうでした。目的を話していませんでしたね」


魔王の事がまだ怖いのか魔王が話すたびにチルハはビクリとする。魔王はどこかその反応を楽しんでる節がある。


「私、生まれつき不死の魔法を持っていたので3つも魔法を入れることができたんです。」


唐突な魔王の言葉に一同はポカンとする。魔王はこれで察せられないのか、とでも言いたそうな顔をしてから、改めて言った。


「せっかく強い魔法を手に入れたならどこまで偉い存在になれるか試してみたくありません?」


意外と野心家らしい。


「私、こう見えて第5区出身なんです」


「「「え?!」」」


その事実に、この少女の人間性が全て詰まっているような気がした。

底辺から這い上がる熱い部分、上にしか興味がなく他は等しくどうでもいい冷酷な部分。


「魔王だってなんだって、王がつくものなら何でもいいです。私は私を馬鹿にした人間を這いつくばらせたい。上に立ちたい。なので世界一嫌いな人間が自分より上の立場にいるのが気に食いません。あわよくばこのままクーデターを起こして国家転覆して私が王になろうと思っています。」


身の程知らずな大きな夢……なんて言葉が頭に浮かんでしまったが、この少女は本気だった。

小さく冷たい身体にこれほどまでの熱を隠していたとは思わなかった。


「もし、私が暗君であったのなら貴方達が再び殺せばいいんじゃないですか?できるでしょう?」


挑発的な目線には、それは俺達に天音がいないと出来ない事だという意味とそのためにも今は協力しろ、という二つの意味がこめられていた


3人は顔を合わせてうなずいてから、アランが代表して「わかった。共闘しよう」と

拳を檻から突き出した。魔王はその拳に一瞬戸惑いながらも、同じように拳をつくり、合わせた。


「…でも、アンタがゴースケくんとアマネちゃん、第5区の人達にしたこと、許してへんからな」


「はい。文句ならいつでも聞き入れましょう。でもその前にあの馬鹿に行ってやる文句があるのでは?」


そう言って、魔法のように一瞬で鍵を開けた。


「そうだな。文句は全部が終わったあとだ」


「姐さんに言わなくちゃいけない文句たくさんあるっすもんね!」


他の捕人が俺達もだせと騒ぐ声をBGMに、俺達は門番の死体が倒れる地獄の道を闊歩し、堂々と脱獄をした。

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