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この国から友人を奪う同盟

「一緒に神様を天から引きずりおろしませんか?」


くすぐるように告げられたその言葉に俺は耳を疑った。

魔王は俺の首の後ろ辺りにある鍵穴のような場所に鍵を差し込んだ。

その瞬間、俺を拘束していた全ての拘束具が同時に外れる。


ヤバい、真下に落っこちる


かと思いきや、魔王が小さな体格に似合わぬ怪力で、空いた拘束具を掴んでいたため、抱き着かれたままである俺が落っこちることは無かった。


「私は貴方たちと戦った後、転生の魔法、洗脳の魔法、不死の魔法、全てを奪われ王都に捕らえられていました。」


魔王は俺に抱き着いたまま淡々と言う。耳がくすぐったいが頑張って邪念を消し内容に集中する。


「ですが、ある日、秘密裏に貴方と貴方の仲間たちを脱獄させろという命をある人物から受けました。その代わりに不死の魔法と自由の身を取り戻したのです。」


あの危険な魔王を開放してでも俺達を脱獄させるだと?何故そんな周りくどいことをする?目的が全く見えない。


「その人の依頼は貴方と貴方の仲間を開放してどこか遠くに逃がしてくれという依頼です。大嫌いなはずの私に頭を下げてまで頼み込んできましたよ」


……そんな願いをする人物、この世に一人しかいないじゃないか。

本当に何を考えてるんだ。俺達を断固として突き放す癖に、俺達を裏切ったわけではなさそうだ。


「まぁ、依頼主には第3者が依頼したことは死んでも隠せと言われましたが、私はその依頼主がこの世界で最も憎いのでうっかり話してしまいました」


うっかりじゃないだろ。

そしてその感情が依頼主を名指ししているようなものじゃないか。


「さらに、私はアイツが憎くて憎くてしょうがないので、あえて貴方に提案しました。あの神様気取りの女を引きずりおろそうと。あの女の願いを裏切って、私と一緒にこの腐った国家を転覆しませんか?」


国家を転覆……?

あまりにもスケールの大きな提案に呆然とする。


「あぁ、その様子ですと、ここの王がどういう方なのか、神になるというのがどういうことなのか、あの馬鹿から聞いていないようですね」


魔王はどこか勝ち誇った笑みを浮かべる。あのロボットのように無表情な人もこんな顔もするのかと驚いた。


「あの王は、"神"という最強の存在を作ることで、魔法使いによる犯罪や反乱を無くそうとしているのです。」


最強の存在が王の手元にあるということで、勝てない相手に挑まないようにしているということか


「まぁ、それは聞こえがいい目的だけの話です。その目的を達成する手段は、”桐生天音という器に全ての魔法を入れ込む”こと、そして今の人格を完全に殺し従順な人形にすることで、決して裏切ることの無い最強の神…いや、人形を作るというものです」


天音が…生贄?

人格を殺して…ってそれはほぼ死と同義ではないか。


理屈はわかる。最強の存在を手元に置き完全に支配することで治安が良くなるという単純な話も。

しかしそれはとても人道的であるとは言えない。

何故それを天音がやらなくてはいけない?何故天音がそこまでしなくてはいけない?


心が読める天音がこの計画を知らないわけがない。わかっていてこの計画に加担している。自分さえ死ねばこの世界が平和になるという状況を受け入れようとしている。


頭が怒りでカッと熱くなった。アイツの自己犠牲はもううんざりだ。頼むから、もう一度心から笑ってほしい。

何故、神はアイツが笑えないような運命ばかり用意するんだ。前世であんな最期だったんだ。今世でぐらい笑顔で全うに過ごさせてやってくれよ。

あいつもそんな簡単に運命を受け入れてんじゃねぇよ。勝手に死んでんじゃねぇよ………


今すぐにでもそれを伝えたかった。文句を言いたかった。


俺は飛び出そうとするが、魔王がより強く抱きしめたため動けなかった。

いや、よくよく考えたらこんなところで暴れたら水底一直線だ。危なかった。


「今、貴方には二つ選択肢があります」


魔王は冷淡にそう言って、猫が媚びて頬ずりをするように右耳に顔を近づけた。脳がぞわぞわとする。


「1つ、貴方の大切な人の願いをきいて、どこか遠くに逃げようとして、今私に水底に落とされて死ぬ。2つ、貴方の大切な人の願いを裏切って私に味方をし、国家転覆を目論み王都の騎士に殺される。どちらがいいですか」


随分と極端な選択肢だな。

とはいえ答えは決まり切っている。

俺はその答えを伝えようと魔王に目で訴えかけた。


「……答えは決まっているようですね。わかります。」


淡々とそう言うと、魔王は脚だけの力で俺を陸地まで吹っ飛ばした。魔王自身は後から軽やかに陸地に着地する。

あまりにも乱暴な救出方法だが、助かったのは事実だ。俺は感謝を込めて頭を下げる。


「顔をあげてください。私は私の目的のために貴方と組むだけですよ。」


魔王は人差し指で俺の顎をあげ、自分の目線と合わせた。


「申し遅れました。私はミクーシャ・ライオット。貴方をこの世界に召喚した女神様であり、魔物を統べる魔王様でした。これから国家転覆する予定です。」


届かないが、俺も名乗ろう。


兵頭轟介。お前に召喚されたゴーレムだ。

これからこの国から神を奪う反逆者になる予定だ。

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