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姿を消した友人に会いに行く

2日経っても天音は帰ってこなかった。


天音は間違いなく俺達のパーティの太陽だった。先行きを照らし、暗闇を無くし、温めてくれていた。

2日も陽が昇らないとなると、さすがに何か行動を移さないと凍え死んでしまうだろう。


「……やっぱ、王都に行かん?絶対おかしいもん…」


「助けるって何から?姐さん今の生活の方が幸せなんじゃ…」


「で、でもアマネちゃんが私達に何も言わずいなくなるわけないやろ…!」


「姐さん、優しいから俺達に変な未練残さないようにしてくれたんじゃないッスか…」


チルハとヒートは消沈した様子でポツポツと会話をしている。それを見ていたアランが言った。


「じゃあ、王都…行ってみるか」


2人はぼんやりとした仕草でアランを見上げる


「ここで推察していても仕方がないからな。百聞は一見に如かずだ」


こういう時、冷静で迷いのない判断を下せるアランは頼もしい。

チルハとヒートは顔を見合わせて、同じような仕草で頷いた。


――――――――――――――――――――――――



「というわけだ。少年、俺達は再び王都に行くよ」


王都に行くには再び、あの魔物だらけの危険な道を通っていかなくてはならない。ましてや今度の敵は下手したら王都の騎士かもしれないのだ。こんな危険な戦いにこれ以上ウーサーを巻き込むむわけにはいかない。


「ま、待てよ」


しかし、ウーサーも天音に会いたいという思いは俺達と同じだったようだ。焦ったような顔で俺達を引き留めた。


「お、俺の魔法、嘘か本当かわかるから天音の本心がわかるかも…!俺も連れっててくれない?」


突如、頑なに天音意外に自分の魔法を明かさなかったウーサーが、魔法を打ち明けた。


驚いている俺にウーサーは頷く。覚悟はできてるとでもいうように。

俺達は会議をするように顔を見合わせたが、答えはみんな一緒のようだ。すぐにウーサーに向き直った。


「駄目だ」


今までのウーサーであったら拗ねるかキレるかしそうなものであったが、純粋にショックを受けた顔をしていた。


「なんで…!?足手まといだから…?」


「違いますよ!!そんなんだったら俺なんてとっくに置いてかれてるッス!」


「相変わらず卑屈やねぇ…ヒートくん全然足手まといやないで」


実際、ウーサーやエリスの魔法はかなり役に立つ。特にウーサーの魔法は天音の本心を知るのに最適だろう。


しかし、こんな純粋で幼い子を、嘘を告白しただけで、こんなにつらそうな顔をする子をこれ以上俺達に巻き込むのは良心が許さない。


「お前は足手まといなんかじゃない。寧ろ、連れていきたいぐらいだ。だが、君には役目があるのだ。」


芝居がかった大袈裟な台詞を吐きながらアランはウーサーと目を合わせた。


「エリスちゃんを守ってやってくれ」


ウーサーはハっとした顔をする。


「守るって…俺なんかに」


「君は魔王を倒したトレビアンな男だぞ?胸を張るんだ!この俺のように!!」


そう言ってアランは胸を張って見せた。

人への発破をかけるのが上手いところはやはり天音と似ているなと感じる。


ウーサーはアランの言葉に無言で頷いた。

それから何か言いだそうと口を開けたがすぐに閉じて黙り込んだ。そして、決意したように俺達の方を向いた。


「……俺本当は全部知ってたんだ…」


心苦しそうに、ウーサーは話し出した。

そこで俺もハッと気づく。


きっと、ウーサーはずっと悩んでいたのだろう。自分だけが知っている天音の情報をみんなに話すべきか、天音との約束を守るべきか。


「天音の秘密も、光の勇者だとか天音の魔法だとか…全部知ってたんだよ。天音の本当の魔法は……」


ウーサーが魚の骨が突っかかったように痛々しく言おうとした時


「あー駄目っスよウーサーくん!!姐さんが隠したがってたんでしょ!無理に言う必要ないッスよ!!!!」


珍しく、ヒートの方が口を抑えた。気丈なウーサーの目が潤む。


「俺達は自分自身で真実を暴いてみせるッス!!」


「それまではアマネちゃんの約束を守ってあげて、天音ちゃんの味方でいてあげてほしいねん」


やはりずっとため込んでいたのだろうか、ウーサーはボロボロと涙を流し始めた。


「ハニーは悪い奴だな。再開した時に嫌ってほど文句を浴びせてやるといいさ」


ウーサーは流れた涙を拭い、これ以上涙が落ちないように我慢しながらうなずいた。


「……わかった。絶対、絶対天音連れてこいよ。なんて文句言うか考えておく」


そう言ってウーサーは拳を突き出した。

握手ではなく拳であるところがこの治安の悪い地域で育った子供なだけあるなと微笑ましく思えた。


ウーサーは全員と拳を突き合せていく。最後に俺のところへきた。


「ゴースケ、天音はお前のこと大好きだよ、お前を助けにいくのに必死だったし、好きな気持ちは本当だった…お前は天音のこと好き…?」


ドキリと心臓が跳ねるが、この少年が言う好きはきっと俺の考えるものとは違うのだろう。俺は自身満々に頷いた。


「うん。嘘じゃないな」


お前こそ。きっちりとエリスを守ってやって、どうか無事でいてくれよ。お前が怪我なんてしたら俺はもちろん、きっと天音も悲しむから。


俺は拳を突き出した後、頭を撫でた。「子ども扱いすんなよ」といつも天音に言うように拗ねた口調で言った。


「あ、ウーサーくんこれ……」


チルハは天音のものより少し小さめのナイフを鞄から取り出した。


「これ、魔王を倒した時のビリビリナイフ!もしもの時はこれで戦うとええよ」


そんなダサい名前だったんだ。

しかし、魔王を倒した聖剣と言っても過言ではない武器だ。この世の何よりも強い武器に違いないだろう。


こうして俺達は第5区を後にした。


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