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照れる友人と駆け抜ける

「さっき魔王の心を読んでわかったことだけど、なんらかの理由で、この魔王は強い魔法を持ちがちな人間を転生させてこの世界に呼び寄せてるんだって」


天音を拘束している縄を削りながら、俺は天音の声に耳を傾けていた。


「俺もその一環で転生させてもらったっぽい。あ、その時は男だったんだけどね。ただ、最初は魔法使いこなせなくてさ、普通に話してる会話と心の中で思ってくる声の見分けがつかなくて滅茶苦茶不気味がられたわけ」


それは転生して早々災難すぎる。お前そういうところあるよな。


「何それ?不運ってこと~?まぁ、実際前世は短命だったわけだけどね…まぁそういうこともあって、第2の生は好きなように生きよって思って旅してたんだ。でも他人と関わると不気味がられて寂しいから一人で気ままにね。でもある日、食料無くて餓死寸前だった時があったんだよね」


思っていたより転生してからの生活は過酷だったらしい。それを一切俺達に悟らせなかったのは誉められたものではないが、すごいものだ。


「その時にさ、ごはん分け与えてくれたおじいさんがいて。そしたらその人、昔王都の騎士だった人みたいで、魔王の洗脳で雁字搦めになってたんだよね。だからお礼に魔王に洗脳解くように頼んでくるね~ってなった」


思った以上に軽いし緩い。


「軽くねーよ!一飯の恩は忘れちゃダメみたいな戒め?あるじゃん!まぁ、とにかく優しくて強い俺は、不意打ちなこともあって割といい感じに魔王のこと追い詰めちゃったわけ」


魔王との決戦をそんなノリで行けちゃうやつ初めて見た。不意打ちでそこまで追い詰められるのか?あの魔王を?


「うん。今回みたいに窓割って忍び込んだらすぐに魔王がいて、攻撃すれば俺に触れることになるから秘密がわかちゃうよ~みたいな脅ししたら思った以上に効いちゃった!!!」


光の勇者とは思えない所業だな


「その時に「貴女の望む人間一人を転生させてやりますので近寄るな」って言ったから二つ返事でお前を生き返らせたわけ」


心の中で天音の武勇伝にツッコミを入れ続けていた思考が急停止した。

むずがゆくて居心地の悪い静けさが広がる


「……なんか言えよ…恥ずかしいじゃん…」


後ろに周って縄を切ろうとしていたため、天音の表情は見えない。

しかし、耳が仄かに赤くなっていた。

貴重な天音の照れている場面を見れなかったことを後に後悔することになるのだが、今、俺も天音の事をからかえない程には真っ赤なのだろう。顔が熱い。


なんで、よりによって俺を生き返らせたんだ?俺とお前、疎遠だったし、転生してから数年ぶりにまともに話したってレベルだろ?


「……お前にどうしても伝えたいことがあって」


俺は、何故だか緊張してごくりと唾を呑んだ。


「もう伝えたから教えない!!!!!もうこの話終わり!!!!!」


子供みたいな話の切り方をするな。


魔王を殺して英雄になる絶好のチャンスを捨ててまで伝えたかったこと?


俺は思い当る節が全くないため、今までの天音の言動を思い返してみる。


「思い返すな!!!!これ以上詮索するならお前の恥ずかしいエピソードを読んでやるぞ!」


普通に嫌な脅し文句だな。わかったわかったやめておく。


ところで、魔王を倒しかけたのって2年前の話だよな?俺が転生したのは最近だよな?どういうことだ?


「魔王の転生魔法は滅茶苦茶巨大な魔力が必要らしくて、2年に1度しか転生者を出せないみたい。魔力を貯めるのに2年ぐらいかかるんじゃないかな~って俺は思ってる」


じゃあ、お前はそれまでどうしてたんだ?


「……1年目はお前を探し続けて後の1年はお前が目覚めるの待つために周辺で暮らしてた」


天音が小さな声でそう言った瞬間、腕を拘束していた縄が切れた


天音はすぐに立ち上がり俺から離れた。


「もうこの話終わり!!!!!だから言いたくなかったんだよ!!!!」


勝手に終わらせるな。


やっぱり、俺とお前、死ぬときに何かあったのではないか?

だって、お前がこんなに俺に会いたいだなんて、なんていうか、おかしいだろ?!


「なんで?!」


いや、だってずっと疎遠だったし…お前仲いい奴いっぱいいたしなんなら彼女すらいただろ?


「彼女はとっくに分かれたって…」


あ、ごめん


「……死に際のことは、ごめん、言えない」


なんでだよ。やっぱり何かあるんだな。


「そんな言う程の事でもないって!」


そんな俺達の問答を遮るように、大量の人間の足音が聞こえてきた。ザッザッとやけに揃った足音だった。


「何?!何?!」


天音も人の気配を感じとる余裕がなかったのか、あからさまに狼狽えはじめ、俺の背後に隠れるように移動した。


「どういうことだ…?」


そんな言葉とともに現れた集団は、見覚えのある制服、王都の騎士団だった。


先頭に立つ男は俺と天音と倒れる魔王を、険しい顔で交互に睨む。それからこの中で唯一話ができる人間天音をまっすぐに指さした。


「そこの女」


尊大な態度で騎士団の男は天音を呼ぶ。


「なぁに?」


天音はまっすぐ騎士団の男を見つめながら俺の後ろから出てきた。


「状況を説明しろ」


「わかるでしょ?ちょー強ぉい俺が悪い大魔王を倒したところだよ」


騎士団がざわつく。俺の知る限りでは、今、王都の騎士団は光の勇者を見つけて魔王討伐を依頼するという目的で動いていたはずだ。依頼をする前に光の勇者自らが魔王倒した状況に混乱しているのだろうか?


いや、王都の騎士団は魔王によって洗脳されているのだった。

俺が洗脳されている時も定期的に騎士団が訪問しに来ていた。この敵意むき出しの視線から察するに、洗脳の影響が消えていない可能性が高い。


「ゴースケ、逃げるよ」


天音が小声で言った。


確かに天音が満身創痍のこの状況で、騎士団が魔王を助けて再戦という展開は厳しいだろう。合点招致だ。


俺は天音を抱えて、城の壁を破壊して、飛び出した。


王都の騎士団が呆気に取られている間に着地し、全速力で走り出す。


「待て!!!!!!!!!!!!」


城からは、細いレーザービームやら雷やら様々な魔法が襲いかかってくる。


だが俺にとっては子供に殴られたような痛みだ。


天音にだけは当たらないように細心の注意を払いながら森を駆け抜けていった。



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