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光の勇者はそうしてナイフを突き刺した

”帰ろう?”


聴き間違いではない。見間違いでもない。


少女は確かに笑顔でこちらに手を差し出していた。


俺は今、この少女、を殺そうとしている。

そして、この少女は俺の命の恩人である女神様を殺そうとしている。


手なんて取れるわけがない。


俺は手を振り払う代わりに巨大な手のままビンタをした。大きく土埃が舞う。


「っ…駄目かぁ、結構洗脳解くのって難しんだな~」


光の勇者は後ろへ回避していたようだ。

心が読めるというのは想像以上にに厄介だ。


「……じゃあこれしかないか」

光の勇者はそう言って懐からナイフを取り出した。

ずっと逃げてばかりだった勇者の、攻撃手段は小さく、あまりにも頼りの無いものに見えた。

「いや!!効くわけないだろ?!相手はゴースケだぞ?!!」

どこからか女神様を捕えている少年の叫び声がした。少女の説明通り透明になっているせいか姿は見えない。


「大丈夫だって!このナイフ、チルハ制のよく効くやつだから!」


如何なるモンスターの中でも物理攻撃が効きにくいゴーレムである俺をナイフで切る?何を言ってるんだ?

やけになっているのだろうか。

いや、少女の目は明らかに諦めている目ではない。何を考えているのか全く読めない。


「あっは!聞いたゴースケ?よく切れるんだって!」


この状況で、少女は綺麗な屈託のない笑顔で言った。


少年が静止する声が聞こえていないかのように、驚くほどに自然に歩み寄ってきた。


まるでこの場には俺とこの少女しかいないかのように。

他の人は存在しないかのように。


――本気で俺を殺す気なのか。


その落ち着いた笑みはきっと、覚悟を決めた顔だ。

俺を殺す決意をしたのだろう。


悪い。ここは通せない。女神様を助けなくちゃいけないんだ。


俺は拳を振り上げた。


しかし、少女はそこから一歩も動かなかった。


「あっは!本気で殴りかかってきちゃった?・・・お前も大概馬鹿だよね!」


静止したまま俺を見上げて笑っていた。



「―――――――――――俺がお前に勝てるわけないじゃん」



それは、どうしようもなく疲泣きながら笑っているような笑みだった。


それは、俺が2度と見たくなかった笑みだった。


2度とそんな笑みをさせないと誓った笑みだった。


グサリッ


生々しい音が響いた。


赤い、赤い、赤い、真っ白に染まっていた心象風景が一瞬にして赤に染まる。

空気が凍る。時間が止まる。頭が冷や水をかえられたように一気に冷える。


そう、光の勇者は、少女は、アマネは、天音は、ナ()()()()()()()()()()()()()()


何やってんだ。馬鹿。馬鹿。何考えてんだ!!馬鹿!俺なんかのために何やってんだよ!!


俺は縮んで駆け寄って、倒れた天音を揺さぶり心の中で叫ぶ。


なんで俺がお前を傷つけてるんだ?なんで、なんでこんなことに……


「……聞こえてるよ。ゴースケ。」


抱きかかえた天音が、血まみれの天音が、俺の頬に触れた。

その声はあまりにも穏やかで、飼い猫に話しかけるような優しい声だった。


「お前やっぱお人よしだなぁ」


こんなに優しいこの人は、俺の正気を戻すためだけに自分をナイフで刺したのか?

なんで、なんで、俺なんかのために、


「そんな事言うなって」


頭を撫でる天音の手は少し乱暴だけど暖かかった。

そして、俺をあやすように天音は言った


「もう一度、お前に出会えてよかった!!」

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