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光の勇者は歩み寄る

「その笑顔を見て確信しました。」


女神様はいつもの淡泊な様子を崩し、楽しそうに言った。


この可憐な少女が忌々しい光の勇者だというのだろうか。


「2年前、くだらない私情を優先させ私を倒し損ねた愚かな男…あなたが光の勇者だったのですね」


「お前が魔王だったんだね!まさか自分が光の勇者とかいうダッセー名前の奴だと思わなかったわ~」


「へぇ、無自覚だったのですね」


女神様はそう言いながら指で小さくOKサインをだした。


俺は迷わず金髪の少女に殴りかかる。


「マジ?!不意打ちはズルくね?!」


「あなたの常套手段でしょう」


しかし、少女はまるで俺が拳を入れる場所がわかっているかのように巧妙に避けた。


俺はもう一度拳を入れるがまたしても綺麗に避ける。そうだ、この少女は心が読めるのだった。


「ねぇゴースケ」


息を切らしながら少女は俺を見あげた


「俺のこと忘れちゃったの?」


先程の女神様相手に調子に乗っていた少女が上目遣いで弱弱しく言う。

ここだけの話、正直グッと来たが、俺はそんな煩悩を振り払うように拳を地面に突き付けた。


「マジで覚えてないんだ」


覚えていないな。俺は女神様に作られた女神様を守るために生かされている存在だ。


「前世のことも覚えてない?一緒にカレー食べたり、ゲームしたり漫画貸し借りしたり…って駄目だ。小学生ぐらいの時の記憶しかねーや」


俺は、ちょこまかと逃げ惑う少女に苛立ちを感じ力任せに拳を地面に叩きつけまくる。

一方少女は避けながらも、俺に語り掛け続けた。


「でも、今世の思い出はいっぱあるよ!!一緒に寝て!一緒にごはん食べて!一緒にいっぱいお喋りして!」


覚えてない。

知らない知らない知らない。


けれど、何故だろう。


その記憶が無い事がすごく悲しい事のように思えた。


「ゴースケ。何も考えない方がいいですよ」


女神様が淡泊に俺の名前を呼んだ。


それだけで十分だった。


俺はこの少女――光の勇者とやらを殺す。


よく見れば光の勇者の癖に避けてばかりだ。攻撃手段を持っていない。

なんだ。すごく簡単なことじゃないか。心を読まれなければいいだけだ。


俺は目をつむる。そうだ。それだけでいい。こうして拳を無作為に叩きつければ心を読まれずに済む。


「いいですね。ゴースケ。」


真っ暗な世界で、魔王様の声だけが聞こえる。


なんて心地いいのだろう。

光の勇者の声など耳に入らなくなった。

そうだ。この無機質な命令だけを聴いていればいい。


「そうですゴースケ。そのまま我武者羅に地面を叩……っ!!……っ!」


その時、花火のような音で女神様の声がかき消された。命令が聞こえない。

轟音は一回で終わることなく次から次へとなる。


俺は目を開いて女神様の方へ振り返る。


そこに女神様の姿は無かった。


「はぁ…はぁ……はぁ…!」


代わりに涙目で息を切らしている、褐色の少年が立っていた。


「不死身でも、身動きとれなきゃ無力なのと同じだ。」


気づかなかった!気づかなかった!!なぜ?!なぜ?


俺は女神様の存在が見えない不安とこの不可解な状況が相まって大きな混乱状態に陥る。


いや、いくらなんでも人が一人この部屋に侵入したのなら俺でも気づく。

そもそもこの一瞬で女神様が抵抗されず拘束されるわけがない。


「皮肉だけどお前が俺達の記憶を無くしてくれてよかった」


爆発音が止んだ時、光の勇者が笑っていた。


「今、チルハが無限に伸びる長いなが~いヒモを錬成してくれてんの。アランがそれに触れることで、触れるだけで透明になれるヒモの完成☆」


少女はまるでマジックショウの司会のように演技じみた大袈裟なMCをする。


「ウーサーがその縄を伝って侵入して気づかれないように魔王を縛ってたわけ。でも音は消せないからさ、ヒートに轟音鳴らし続けてもらって誤魔化してた。いや~魔王が強キャラぶって一歩も動かないで戦おうとするタイプでよかったわ~」


気づいたら褐色の少年は消えていた。女神様が見えないのもその透明になるヒモとやらの効果か。


俺は再び少女に殴りかかろうとするが、女神様は現在敵の手にあることを思い出して思いとどまる。


すると、光の勇者と称された少女は一歩、一歩とゆっくりと歩み寄ってきた。


真意がわからず後ずさる。


それを見て少女は立ち止まって、あろうことか手を差し出した。


「そんな臆病な王より、俺と一緒の方が楽しいよ。一緒に帰ろ」



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