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話し上手な友人をよそに核心に近づく

「いや~まさかチルハの母さんがこんなアグレッシブなマダムだとは思いませんでしたよ~!」


「やだわぁアマネちゃんったら!!あ、お菓子あるけど食べるやろ?」


「食べます食べます!!」


数十分後。なぜか天音とチルハの母親は完全に打ち解けていた。


さすが人の懐に入り込むことに関しては右に出る者がいない。特に年上は天音みたいな一見ヤンキーっぽいけど人懐っこい子供に弱いのだ。知ってる。


「この子、こんな小動物みたいな顔して中身は肉食獣っちゅういうか、大人しく見えて異常に行動力が高くて大変やろ」


「行動力に関してはアマネさんの方が制御つきづら…」

「いやいや~チルハには本当助けられてます!!」


不都合な情報をポロっと言いそうになったヒートを机に圧しつけてニコニコと良い顔をしながら会話を続けた。


「…オイ、大丈夫かよ」


いたたまれなさそうにしているチルハをみて、ウーサーがぶっきらぼうに声をかけた。


「大丈夫やないよ~ちょっと挨拶するだけのつもりやったのに~恥ずかしい~」


いや、家出みたいなことしておいて、よく挨拶だけで帰れると思ってたな。

まぁ、人の家来て母との会話に花を咲かせてる時の居心地の悪さはわからなくもないが。


「…ならとっとと光の勇者の資料探せば?」


「せ、せやね!アマネちゃん達にお母さんを足止めしてもらっとる間に…」


この小動物2人だけで行かせるのはなんだか不安だな。

俺もついていこう。俺は縮んでチルハの肩に乗った。


そんなわけで俺達3人はチルハの案内でこっそりと客間を抜け出した。


「……大勢なら資料だけにしようかと思ってたけどこの人数なら…」


チルハが何かをブツブツと呟き始めた。


「ウーサーくん、ちょっと会いたい人おるんやけどええかな?」


ウーサーを怪訝そうな顔をしながらも頷いた。


「ちょっと、いや、ほんのちょっと変わった人やけど悪い人やないから…」


チルハがこう言った説明をする人物は間違いなく変わった人物だ。俺は心の中で覚悟を決めた。


チルハは居間を出てすぐの階段を上がり、一つの部屋を開けた。


そこは、鉄の塊、武器、ハサミ、本、小銭、謎の袋、紙屑がホコリを被って好き放題に散らかって足場を無くしていた。

明らかにチルハの部屋だ。数か月だが一緒の部屋で暮らしていたからわかる。

こう見えてチルハはかなり掃除が苦手でどんどん部屋の足場を無くしていくタイプなのだ。


案の定チルハは躊躇なく「わあ、そのまんまやな~」なんて言いながら無理やり部屋をかき分けていく。

ホコリが舞うので、俺は地面に落ちていた花柄のハンカチを取りホコリを払ってからウーサーにマスク替わりに取り付けさせ肩車をしてチルハの後を追った。


「会いたい人ってここにいるのか?」


「ううん。隣の部屋や」


そう言って一番奥の窓を開け、身を乗り出した。あまりにも身を乗り出すため俺はぎょっとして後ろからチルハを掴む。


「おねーちゃん!おねーちゃん!」


なんとチルハは隣の窓へダイレクトノックをかましていた。入口は基本的に扉であるという基本概念が無い家庭なのだろうか。


部屋には扉から入るという常識が希薄なのはチルハだけだったようで、すかさず窓が開いて、何やら消しゴムのような小さな物体がチルハの額に当たった。


明らかに文句の意思の表れだっただろうにチルハはちゃっかりと窓がひらいたところにゴムのような物体を錬成し、窓を閉じられないようにして無理やり隣の部屋へ入った。

すごい手口だ。慣れているのだろうか。


俺は腕だけ巨大化し、ウーサーを無事に隣の部屋にいれてから小型化して部屋に入った。


そこに広がっていた光景に、俺は目が奪われる。


その瞬間。手品で小さな帽子から大量の鳩が飛び出すように紙が舞った。


そこに広がっていた光景に、俺は目が奪われる。


絵、絵、絵、絵、絵、そこら中に絵が貼られている部屋だった。


その全ての絵が青い色で塗られていて、薄暗いのに青空の下にいるような不思議な部屋だった。


「おねーちゃん、ひさしぶりやね」


チルハはうつむき加減で話しながら、部屋の隅に一歩近づいた。そこにはキャンパスがあり、その後ろは部屋の広さに反してこじんまりとした毛布の塊がぶるぶると震えているのが見えた。


「本当に家族か?震えてんぞ…」


「うん。お姉ちゃんや。ちょっと人見知りが強いからみんなには紹介できへんけど、2人なら多分大丈夫」


大丈夫には見えない。大丈夫な人間は家族と初対面の人間の前で毛布をかぶって震えないぞ。


しかし、毛布の塊はチルハの言葉を聴くと一気に人間の形を取り戻した。


そこには、チルハの素顔と瓜二つ…いや、大人びたチルハといった風貌の背の高い女性が威嚇をするように立っていた。


「紹介するね…!ウチのおねえちゃんのヒルダ。10年間ずっとここから見える魔王城をスケッチしてるんや」


予想外にも、核心に近づくことができそうな人物が現れてしまった。

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