女の勘を使う友人は花を咲かす
その日の夜。身だしなみを人並みに整えてから再びギルドに戻った。あんな事があった後に堂々とギルドに行けるのは昭和のジャンプ漫画の主人公かコイツぐらいのものだろう。ちなみにヒートはものすごくビクビクしている。頼むぞ天音とまともにコミュニケーションとれる仲間はお前だけなんだ。
想像通り、ギルド内の雰囲気は天音が入ってきた途端最悪になった。
「お!?なんだなんだ?滅茶苦茶すごい働きをした、このアマネ様のパーティーに嫉妬してんのか!?」
そんな中わざわざ煽りながら入っていくアマネ。馬鹿って強い。さすがに尊敬してしまう。
アマネはキョロキョロとあたりを見回す。完全に奇異の視線を向けられてる。
「あ、トール!」
トールが気まずそうに目をそらした。明らかに話したくないアピールをしているにも関わらず、アマネはぐいぐいと絡んでいく
「なぁなぁこのギルドの他の女の子紹介してくんね?」
トールはあからさまに目をそらした。
「オイ無視か!?」
「秩序を乱す小娘ごときがトールさんに話しかけんな!!」
トールの取り巻きの一人が明らかな敵意を見せる
「そこまでしてトール様に取り入りたいの?」
戦士ではなさそうなトールの腕に収まっている女もチクチクと天音に攻撃をする。
「は?来て一夜で西の森全滅させた超有能な俺に声かけてもらえてるんだぞ?超不敬~」
しかし、精神への攻撃をものともせず天音は笑う。
いや、全滅させたのはヒートと俺だろ。お前の指令あってこそではあるが
「お前らなんて俺のゴースケにかかれば一発なんだからな!」
さすがに調子に乗りすぎて心配になってくるぞ!?よくそんな小物臭いセリフが吐けるな!
「あ、あの」
今にも喧嘩に発展しそうな雰囲気の中、天音の服の裾をくいくいっと弱い力で引っ張る者がいた。
天音と共に振り返ると、そこには黒いローブに身を包んだ小柄な子がおどおどとした態度で立っていた。
「あ、いた」
天音はそう呟くと、先ほどまでのピリピリした雰囲気が嘘かのように笑顔になる。
「お前のこと探してたんだ!!」
天音の服を掴む手を掴み返し、ぐいっと引き寄せる。
「ここだと気分悪いからあっち言って話そうぜ!!」
「ひわわわわわ!!」
謎の悲鳴を上げる子を有無も言わさず外に連れ出していった。
同じくずっとおどおどしていたヒートは慌ててトール一行に会釈をし、天音の後を追った。
「さっきは助けてくれてありがとう!!」
まるで助けてくれた相手だと決定しているかの如く言い放った。
「いや、チルハ君が助けたとは限らないっすよ!急に言われて戸惑ってしまいますよね!?すいません!」
「………なんでわかったん?」
チルハと呼ばれた男は少しだけ嬉しそうに微笑んだ。
驚いた。まさか本当にそうだったとは。ヒートも面食らって口をあんぐりと開けている。
天音は「女の勘♡」と中身は男だろ。と突っ込みたくなることを自慢げに言った。
「…ちょっとヒート、ギルドの奴が襲ってこないか部屋の外見張っててくれないか?」
家主になんてことさせるんだ。断っていいんだぞヒート。
「了解っス!任せてください!!」
しかし、何かを任されることがうれしくてしょうがないかのようにヒートは意気揚々と外に出て行った。
「ってわけで…」
天音はヒートが完全に外に行ったことを確認してからチルハの隣に腰掛けた
「なんで男装してんの?」
「ひわわわわわわわわ」
そしてとんでもないことを言い出した。
チルハは俯いてから、少し考えこんだ。それから、意を決したように顔をあげ、ゆっくりとした仕草でローブを外した。
どう考えても女の子にしか見えないかわいらしい顔をしていた。
「な、なんでわかったん…!」
かなり照れ臭そうにうつむきながらささやくような声で言った。
なるほど、一応ヒートには秘密にしておくために外に出したのか
「女の勘♡」
天音は再び女の勘とかいう不確かにも程がある事象で答えた。
「ってそんな事はどうでもいいんだよ。なんで助けてくれたの?」
「…アンタの応援がしたかったんよ」
訛りのある話し方で、恥ずかしそうに少女は言った。
「お、俺のカリスマ性にやられたか?」
無神経だなお前は。
「同じ女の子やから…」
そいつは正真正銘中身は小学生男子だから。気を遣うことないのに。いい子だ。悪目立ちしている俺達に関わると碌な事ないだろうに
「ウチにはとてもあんな堂々としたこと出来ひんから、せめて応援したかったんや」
チルハは健気にそう言って笑う
「できない事無いって俺のパーティー入ろうぜ!」
そんな健気で控えめな思いを踏みにじるがごとく天音は大声で言った。
「ひわわわ」
勢いあまって両手を掴むアマネにチルハは目をまわす。
「あ、がっつきすぎたすまん」
アマネもさすがにそこで手を離した。一応中身は異性であるから気にしてしまうのだろうか。いやそんなわけないな。このガサツ人間が。
「…誘ってくれたんはうれしい…けど、でも、あんま目立ちたくないんよ。」
「え!?そんなことある!?」
目立ちたがりの代名詞がなんか言ってる
「ふふ、アマネさんおもろいなぁ」
「アマネでいいよ」
「え!?えと…じゃ、じゃあ、あ、アマネちゃん…」
「かわいいっ!?」
思ったことが口に出てしまったらしい。天音は自分の手で口をふさいだ。
「あ、すまんすまん。ついつい、でもなんでこんな戦いとは無縁そうな子がこの国に?ヒートの話ではここ魔物とかと戦う人と反逆者から王を守る人しかいないって言ってたけど」
チルハはひわわわわと口癖のような鳴き声を上げてから、意を決したように言った。
「…ウチ、魔法極めたくてココに不法入国してきたんや」
「え!?お前も不法入国者!?」
「うん…この入国許可証も偽造やねん」
控えめな子かと思ったら存外骨のある子だった。
驚きから天音の方から転げ落ちてしまった。
「じゃあ偽造の魔法使い?」
いやその言い方は失礼だろ!俺は緩いパンチを送る。
「あはは、偽造であんま間違いないかもなぁ。ウチの魔法は物質を偽造する魔法なんや」
「え!?それ強くないか!?武器とか無限に作れるわけだろ?」
チルハは天音の言葉を受けて気まずそうに黙り込む
「…この魔法が主軸の世間だと武器なんてなんの役にも立たんよ…使う人がおらんねん」
確かに、何もない所から火を出したり、草を伸ばしたりしている世の中で武器をわざわざ極める人間はいないだろう。
「どれだけ製造できても使う人がいないんじゃ意味あらへんよ」
そう言って寂しそうにチルハは笑った。
「せやから、ウチも剣とかちょっと練習しとるんやけど、からっきしやねん」
確かにこの細い腕で剣を振り回せるとは正直思えない。
しかし、俺にはこの武器を使いこなすべき人物に心当たりがあった。
「そっか~武器って使うの難しそうだもんな~」
この馬鹿だ
これから、本当にこの王都で依頼をこなして生活していくなら、アマネも武器を持っておいた方がいいのは間違いない。
いくら俺やヒートがいようとも、戦闘中天音の守りが甘いのは事実だ。正直天音を気にしながら戦闘をするのは割と大変である。
「お、なんだ?轟介?」
俺は「一緒に剣の練習をしたらどうだ」と伝えようと必死に剣を振るジェスチャーをしたり、チルハを指指したりして何とかコミュニケーションを試みる
「うふふ、かわええね」
しかし全く伝わらない。
「だろ!でも超強いんだぜ」
和むな。
「わかったわかった。大体お前の言いたい事はわかったって」
本当か?天音はあまりわかってなさそうな口ぶりで俺の頭を撫でた。
「チルハ、俺実は戦闘能力がゼロでさ」
「へ!?あんなに自慢しておいて!?」
思ったより言う子だなぁ
「お前と一緒に剣の練習したいんだが…」
「え、ええの?!」
「俺三日坊主だけど、誰かと一緒なら続けられそうな気がするからさ!」
そんな習い事みたいな…と俺は心の中でツッコミを入れる。
一方で、ずっとどこか張り詰めた顔をしていたチルハの顔に桜のような笑顔が咲いていた。