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episode:アラン 俺によく似た少女の話

おまけの小話です。最終回後のお話でちょっとずつ更新していきます。

4年程前だっただろうか。今のパーティに出会う前の話だ。


王都で下級騎士として働くようになって、数年たった頃、俺は久々に親父の元に帰ってきた。


親父も最盛期は王都の騎士として戦い、引退してからもたびたび住処である第2区に現れる魔獣を倒すなどして過ごしていた。

とはいえ、やはり老人であることに変わりはない。魔物にやられていないことを祈っておこう。


そんな心配をしながら家に帰ると


金髪巨乳美女がいた。


「どーも!」


そして俺の部屋に堂々と居座っていた。


親父は人の姿を変える魔法を持っている。

これは親父が姿を変えたものだとすぐにわかった。


しかし、その図々しさと、親父の魔法の件が吹っ飛ぶほどその少女は美しかった。

溌剌とした声をはじめとして、爛々と輝く大きな瞳や健康さを物語る紅潮した頬など、この世の生命力を全て吸いあげて抽出されて生まれ落ちたような、なんというかエネルギーに満ちた少女だと感じた。


「おー、帰ってきたのか」


不愛想なしゃがれた声が後ろから聞こえてきた。親父だ。


「そいつはアマネだ。色々あって泊めている。」


「明日には出てくから気にせんといて~!」


親父は最低限な言葉だけ言って去っていった。


「え、それだけ…?」


無口な親父の態度には慣れているつもりだったが、久々にその性格を見て動揺したのと同時に懐かしさも感じた。


「もしかしてシルバさんの息子?」


気づいたら、その少女は俺の傍に来て顔を見上げていた。

思わず動揺して距離を取ってしまう。

それから失礼な事をしてしまったと気づき慌てて「すまない」と謝った。少女は笑って自己紹介をしてくれた。


その後、俺達は驚くほどに会話が弾んだ。こんなに会話が合う人ははじめてであり、運命を感じる程に趣味も好みも似通っていた。


「俺さーずっと会いたい奴がいてさ」


少女は白いワンピースから見える裸足の生脚を子供のようにぶらぶらとぶらつかせて言った。


「…恋人か?」


「深読みしすぎだって!同性の友達」


俺は少し安堵する。


「アイツは多分、俺の事ちょっと苦手に思ってるみたいだけど俺は大好きなの!俺そいつのためならなんでもしてやりたい!で、無双とかさせてやれたら喜ぶかなってアイツいつもそういう本読んでたし!それからアイツクラスでぼっちの友達としゃべるのが上手くて、俺が喋っても仲良くなれなかったような気難しい奴とも仲良くなれちゃうの、多分そういうやつとの方が楽しいだろうからそういう仲間も作ってやりてーな!俺なんかとしゃべってるより楽しいだろうから。いや、嘘、俺としゃべってる方が絶対楽しい!複雑!!」


それは楽しそうに友人の話をしていた。


憧れの人間を語るような、恋の話をするような、家族のことを自慢するような。その大きな瞳をキラキラと輝かせ語っていた。


俺はその横顔を見て、なんだか話題を変えたくなった。


「何故君は親父のお世話になったんだ?」


少女は少し答えにくそうに頬をかく


「ちょっと追われてて…」


なるほど。逃走用に親父の魔法を頼りにきたというわけだろうか。


「いや、シルバさんはちょっとした縁があってね。近く来たから泊めてもらっただけ。いや、逃走用に魔法の力を借りたのは間違いじゃないんだけど…」


何故か少女は俺の思考を先回りして言い訳を始めた。

親父の外見を変える魔法を頼って尋ねてくる逃走者はよくいるが親父が力を貸すのは善良なものだけだ。

この美しく、すこし変な少女が善良だという裏付けがとれ、少し嬉しかった。


「その…明日出ていくと言ってたが行く当てはあるのか?」


少女は再び答えにくそうな顔をする


「その、よかったらここに住んでくれても良いのだぞ。」


少しだけぎこちの無い言い方をしてしまった事を後悔した。

少女はきょとんとしてから、笑った。


「行かなくちゃいけないところがあるから」


先程の友達のところだろう。きっとこの少女はこれからその友人に出会うための旅をするのだと直感的に感じ取った。


「大好きなのだな。その友人のことを」


少女は困ったように笑ってから、照れくさそうに「うん」と答えた。

その顔は加護欲を引き立てる、とてつもなくかわいらしい魅力的な笑顔だった。


「どうしても伝えたいことがあるんだ、それさえ伝えられればもう幸せ!」


「愛の告白か?」


そんなんじゃないよと少女は否定する。


あぁ、俺だったら自分からこの少女に出会いにいってやるのになんて酷い友人なのだろうと考えてしまった。性格が悪いな。


「"お前に出会えてよかったよありがとう"って会ったらいの一番に伝えるって決めてるんだ」


それは、多分愛の告白だよ。


俺は初めて恋をし、その日の内に失恋した。


あれから数年たってもあの笑顔が脳から離れなかった。


きっと、自分によく似たあの少女は、極度の寂しがり屋なのだろう。

それなのに、一人でその友人に会いに行く道を選ぶ。

それがどういう意味なのか。わかってしまったのだ。


いつか、迎えに行ってあげよう。

そしてその友人とやらがあの少女を悲しませるような奴だったら奪ってしまおう。


俺はそんな決意を密かにしたのであった。


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「アランー!!!おーきーろ!!!!!!」


あまりの爆音に無理やり覚醒に導かれた。

目をかっぴらくと


「へ~、お前の素顔はじめて見た」


そして目の前には、衝撃的な事を言うアマネがいた。

俺は驚いて距離を取ってしまう。


「なんかアランって感じの顔だね」


「なんだそれは」


アマネは特に動じることなくそう笑った。本人的には誉め言葉のつもりなのだろう。俺は枕元にあった仮面を装着した。


「最近、なんか仕事忙しかったし疲れてたのかな?お前めっちゃ気持ちよさそうに寝てたよ」


「ふはは、むしろ久しぶりに夢を見る程トレビアンに眠れたぜ。」


アマネの言う通り、ここ最近業務がたてこんでいた。

魔王を倒す前、何も考えず戦って冒険していただけの日々が懐かしく思える。

しかし、きっとその時よりも意義のあることをしている実感はあった。


「事務仕事は全部お前に任せちゃってるもんな~!!お疲れさま。どんな夢みてたの?」


「初失恋の夢だな」


「え、悪夢!?」


「いや、いい夢だった」


アマネは「変なやつ」と笑った。


俺も君に初めてあった時、そう思ったよ。

やはり君は俺によく似ている。



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