微妙な関係の男の友人と異世界転生してしまったかもしれない
桐生天音と俺は所謂幼馴染の男友達であった。
同じ団地に住んでいたため、小学校はいつも一緒に通っていた。放課後駄菓子屋に行くのも、休日に公園でカードゲームをするのも、夏休みに宿題をやるのも全て全て天音と一緒だった。
桐生天音と俺、兵藤轟介は所謂幼馴染の男友達であった。
同じマンションに住み、一緒に登校するような友達だった。
しかし、中学生になったあたりからだろうか。
学校という小さな社会の中にカーストが明確に生まれ始めた時期。
俺はクラスの隅で気の合う男3人ぐらいでつるんでいるような陰キャ。
天音は男女合同でつるみ誰にでも好かれる陽キャ。
暗く、口数が少ない俺と、明るく、すぐに友達を増やせる天音の関係は大きく変わっていた。
気づけば最後に交わした会話が、いつのものだったかも思い出せない。同じ高校に進んでいたはずなのに。
それ程に天音とは疎遠になっていたのだ。
なんなら”陽キャ”という自分が苦手な人種になってしまった天音を疎んですらいた。
まさかそんな奴が、転生先にまでいるなんて夢にも思っていなかったのだ。
後は、中略しよう。
どうやら俺は死んだらしい。
朧げな記憶にあるのは神秘的な美少女と「あなたを転生させましょう」の一言。
俺はアニメオタクだ。もちろんそのアニメの中にも異世界転生ものも多く含まれていた。そのせいか、俺は案外冷静に状況判断ができた。
俺は死んで異世界転生したのだ。
ビル1つない風景に、上空を飛ぶドラゴンのようなもの。
あぁ、俺死んだんだな。とぼんやり考えながら前世のことを考える。
思い残したこと、あった気がするのに意識がぼんやりとしてうまく脳が働かない。
俺はとりあえず起き上がろうとした。
「(…今、手でつぶしたのは苗木か?)」
起き上がろうとした時、思ったよりも周りのスケールが小さい事に気が付いた。
俺はてっきり草むらで寝っ転がっていると思っていたが、潰したのは苗木だったらしい。
そして、体が硬いのは寝起きだからではなく、もっと物理的なものだと気づいた。
木を潰した手を見てみると、それは肉と皮でできた見慣れた手ではなく、手を模した岩のような物体だった。
思わず悲鳴を上げそうになるが、声がでない。
いやちがう。そもそも声を出す器官が無いのだ。冷や汗すらでない。
「なんだあのゴーレムは!!」
「デカいぞ!!!!襲ってくるのか!?」
そして、いつのまにやらハムスター程の大きさの生き物……いや人間だ。俺の知っている人間より大分小さな人間に取り囲まれていた。
自分が"ゴーレム"と呼ばれていることと、周りのミニチュアみたいな景色を繋ぎ合わせ、俺はようやく理解した
—―俺はクソデカいゴーレムに転生した?
………そんなことある?
俺が目覚めたての脳みそをフル回転させて状況を把握しようとする。
バチバチと音がしたのと同時に顔に静電気のような痛みが走った。
「何!?俺の光線魔法が通じないだと!?」
RPGのような衣装に身を包んだ小さな集団は、見るからに慌てている。
俺は敵意が無い事を示そうと手をあげる。
しかしどうやらそれは逆効果だったらしく、人間の顔は強張る。そして、その中の一人が杖をあげ攻撃するような素振りを見せた。
「(ひっ、まずい!!!!)」
自分よりも遥かに小さな人間が相手なのににも関わらず、俺は混乱して情けなくも逃げようと走りだそうとした。
しかし、慌てすぎたせいで、バランスを崩してしまい木を巻き込んで後ろに倒れる。
幸い、俺の巨大さで地響きが起こったのか男達もバランスを崩し地面にうずくまった。
チャンスだ。まずは、逃げなくては。しかし、こんな巨体でどこに逃げれば?安全な地帯はあるのか?
俺がパニックになっていたその時
「ちょっと待って~~!!!!!!」
やけに耳に障る朗々とした大声が聞こえた。俺を倒すための増援だろうか?逃げなくては
「待てって轟介!!!!」
俺の名を呼ぶ声に、金縛りにあったかのように体の動きが止まった。
「おいお嬢ちゃん!危ないから逃げろって!!」
人間たちは必死に女を止めようとするが。女はずんずんと俺に近づく
「コイツ俺のペットだからいじめないで!!!!」
「は?」
俺を襲った集団は戸惑う。俺も戸惑う。
いつのまにか俺は誰かのペットになっていたのか?それとも誰かのペットに転生したということか?
「いや、ペットはおかしいか…そう、使い魔!使い魔だから!モンスターとかじゃないから!!」
何が何だかわからないが、庇われているのか?
なにがともあれ時間ができたのは確かだ。
――逃げよう
逃げの姿勢をとった途端、腕に虫が這うような違和感があった。
「嫌ちょっと待てよ!!!お前轟介だろ?」
手乗りサイズの女が不格好に腕に張り付いて叫んでいた。
「(どこかで会っただろうか?嫌、そんなはずはない。)」
この異世界のような場所に知り合いなんているわけがない。
第一、俺は人の姿ではない。前世から引き継がれたものなんて意識だけだ。俺の名前がわかるはずが・・・
「俺だよ!俺、俺わかるだろ!!」
気づいたら女は股を全開にして肩にまで上り詰めていた。
さすがに哀れに重い、手にのせて目線を合わせてみる。
到底そんな不格好かつ男のような言葉遣いをする女性に見えなかった。
金色の長い髪、白い肌、グラマラスで直視しにくい体格の超絶美女。
正直かなり好みだ。こんなに美しい女性初めて見た。
俺は思わず見惚れる。
しかし、そんな俺の高鳴る期待を困惑に変える言葉を女は叫んだ。
「俺だよ!俺!桐生天音だよ!!お前に出会えてよかった!!轟介!」
ただでさえ事態を理解できていない俺が脳で処理できる範疇の言葉ではなかった。