帰ってきました!
冒険者ギルド。それは外の世界を知る為に作られたもの。
遥か昔、人とそれ以外の種族が暮らしていた時代。まだ人族が他種族を意のままに操るすべを知らなかった頃。悪魔族の言葉が切っ掛けだった。
『ねぇ、知ってる? ボクらはここより広い世界を知ってるけど、君ら人族はどうしてここから動かないの? 世界は面白い事で満ち溢れてるのに、知らないだなんて可哀想』
他の場所なんて知らなかった人族はそれはどういうところかと尋ねるが、返ってくる言葉は要領を得ず人族はどういった場所なんだろうと仲間内で話し合っていたが、結論は出ず、外の世界に興味を持つ者たちも現れた。
その内、人族と他種族は離れていってしまったが、人族は彼らから教えられたいくつかの事は伝説としてだったり、魔法としてだったりと生活に溶け込んで行った。
ある時から人族は外の世界を見たい欲求に駆られ外に飛び出そうとしたが、外の世界には沢山の危険があった。
そんな彼らを危険から守る為に作られたのが、冒険者ギルドだ。ギルドは新人教育に力を入れており、新人の内に死ぬ事はほぼないとまで言われている。ノルディバーグみたいな引退した冒険者が新人たちを教育しているからだ。
冒険者になれば一晩で大金を得る事も出来るし、ランクを上げれば名が売れて有名にもなれる事から皆が一度は憧れる職業でもあるが、離れていくのも早い職業でもある。
いつもそれなりに賑わっているギルドだったが、今日は違った。
「あれ? なんかみんな静かだね」
「当たり前でしょ」
「そっか」
シュティはノエルの視線を辿って半獣の青年ことロータスを見ると、ようやく納得して受付の人にもう一度依頼報酬について尋ねる。
「だから、報酬はどうなるの? これは依頼達成でいいの?」
「あ、あの、ちょっとお待ちを」
「早くね」
パタパタと奥に走って行ったギルド職員を見送って、こんなに見られちゃ落ち着かないわとノエルが言うとロータスも同感だと頷いた。
「あら、あなたも? あなたほどやんちゃしてた人ならこんな視線なんとでもないでしょ」
「いつもなら見てくる奴はノしてたんだよ」
「ああ、暴力でしか解決出来ない人なのね」
ノエルが残念な人ねと軽蔑するような目を向けるとすぐにロータスが激昂して今にも殴り掛かりそうな雰囲気にシュティは止めようか迷う。
「なんだと!」
「あのー……」
と、そこにちょうど戻って来たギルド職員が来たので、シュティは二人を無視してギルド職員に早く早くと報酬を急かす。
「いえ、あの、ですね、支部長から話を聞きたいとの事で今回の事に関わっている三人を呼んで来るようにと」
「俺は行かねえぞ」
「あたしもあんまり行きたくないわ。ただ、あそこにいただけって形だったし」
「えっと、二人共行かないの?」
てっきり一緒に支部長に会うものだとばかり思っていたので、びっくりしたシュティが思わず聞き返してしまったが、二人は頷いてその場から動こうとしなかった。
「あたしはいいからシュティ、報酬貰いに行ってきなよ」
「興味ねえ。さっきからジロジロ見られて鬱陶しい」
二人共嫌そうにしていたが、このままここで待っていても柄の悪そうなのに絡まれそうだと言われてしまえば、それを嫌がったシュティの説得により、二人は嫌そうにしているのを隠しもせずに職員に連れられてギルドの奥へと向かった。
ギルド職員に連れられて歩く。この辺りはシュティたち一般のギルド利用者はあんまり入った事がない職員たちのフロアだ。もの珍しいのかシュティはキョロキョロしている。
ロータスは先ほどまで自分を奇異の目で見、ヒソヒソとこちらを蔑むように話し合う鬱陶しい声を思い出しげんなりする。
シュティたちには聞こえてなかった声も半獣の自分にはしっかりと聞こえてしまい、いつもなら暴れてさっさと次の町にでも行くところだが、この町に入る前にしっかりとシュティに釘を差されてしまった事でそれも出来ずにイライラしてしまう。
そうでなくてもシュティの幼馴染だとかいう女がやけに自分に突っかかってくる事も気に食わないし、シュティとかいう能天気娘も気に食わない。
人の事捕まえて金金言いやがって、俺の事なんだと思っているんだ!
「こ、こちらです」
ロータスのイライラは殺気となって周辺へとまき散らしていたようでギルド職員が怯えた様子を見せたので、ロータスの溜飲は少しだけ下がった。
「ギルド支部長、ノエル、シュティ、それから半獣のロータスを連れて来ました」
「呼び捨てすんな」
「ひっ!」
ガルッと小さく唸ればこの職員面白いくらい反応する。ロータスがもっと遊んでやろうかと考えていると目の前のドアが音もなく開き「入れ」としわがれた声がした。
「よく来たな」
中に入れば八十くらいの老女がいた。
老女の髪は真っ白だったが、長く膝辺りまである。ロータスは自身の髪も長いが洗うのが面倒くさそうだと思ってしまった。
「おばば様こんにちは」
「おばば報酬ってどうなんの?!」
「待て、お前たち知り合いか?」
長と付くから偉い人なんだろうと思っていたのにシュティとノエルの二人が気さくに話しかけているので、ロータスは戸惑ってしまう。
「ギルド入った時会った」
「あたしはお店のお得意さんでもあるから」
シュティが親しげなのは昔からの知り合いだからと納得がいくが、ノエルの方はと白い目を向けていればノエルが睨んで来たので鼻で笑っておく。
「ふむ、これが」
マジマジと不躾に見られる事は慣れてはいるがいい気はしない。
シュティとノエルが兄貴の借金がとかから説明してるんだが、こいつらも俺の事金づるだとしか思ってなかったっぽい。
「あんた何の半獣なんだい?」
「は?」
ロータスはその質問が大嫌いだった。物心ついた頃には既に親なんていなかったが、この身に流れる血の事は分かっていたからなんとか生きてこれたが、だからと言ってスキルだった事は一度もない。
この血のせいで親に捨てられ、どこに行っても半端もんで嫌われ者で、酷い時には殺されそうになった事もあったからだ。
「ロータス?」
「それを言ったところでなんか変わる訳?」
賞金首になったって事は今まで散々やって来た事で罪に問われたって事で、やって来た事を考えたら処刑一択しかないのにこのばあさんも希少種ならって打算でもあんのかね。
「さあ、それを決めるのは私じゃなくて本部だからね。私としてはあんたがどんな種族でも変わらんさね」
「ハッ! どうだか」
「ロータス」
服を強く引っ張られてようやくシュティに名を呼ばれていた事に気付く。
「……マルタタイガーだ」
「希少種じゃないか! 本当にいたんだね!」
過去の事を思い出して熱くなっていたのに呼び戻してくれた少女にありがたく思うが、このおばばの驚きようにイラッとする。だが、村から一番近いギルドがある町に入る前、ここで騒ぎを起こしてはいけないと約束させられたので、ロータスは我慢している。
熱くなってるおばばを見て、自分との温度差になんとか平静に戻るともう喋るつもりはないと固く意思表示をする。
「それより、おばば報酬はどうなるの?」
「あんたは……そうだね。問題はそこなんだよ。場合によっては特級の人間が出てきてもおかしくなかった件を八級と五級の二人が捕まえて使役まで……前代未聞にも程がある」
「えっ、じゃあ、報酬貰えないの……?」
「それは出るじゃろと思うが……実はこの件本部が持ってったからね、結論が出るまでもしかしたら報酬はでないかもしれん」
「えー!」
希少種がどれだけ珍しいものなのか説明しようとしたが、それよりもギラギラと瞳を輝かせ報酬の事を聞いてくる少女の無邪気さに負けたおばばは本部に丸投げする。
せっかく依頼を達成出来たと思ったのにとふてくされるシュティをノエルが慰めていた。