1話 誕生日
よろしくお願いします!
大勢の男どもの中、彼らだけは異彩を放っていた。いや、正確には先頭を歩く”彼が”かもしれないが。
彼は身にまとったどんなに遠くでも彼だと判断できるような炎のように燃えるような赤いマントを大きく翻し、それは立派な仕草でテーブルに座った。
「お客様、すみませんが椅子に座っていただいてもよろしいですか」
給仕は恐る恐るといった様子であった。客はこれは面倒な客だと思い知らんぷりを決め込んだが、さすがに注意まではそっぽを向けはしなかった。
「ああ、すみません。失礼しました」
彼はそう言い椅子に座りなおした。そうすると彼の後ろの三人は呆れたような顔をしながら同じテーブルに着いた。
酒場のみんなの注目を集めたところで彼はこう言った。
「すみません、鮭のムニエルってありますか?」
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「やってやったぜオラァ!これでファーストインパクトばっちりだろ!これでみんな俺の赤いマントみたら恐れおののいてひっくり返るぜ!ヒャッハー!」
「サリー、あまりうるさいと迷惑ですし、馬鹿に見えますよ。これだけ人気が静まっていると特に響きますからね」
「うるせぇよプロ、俺は今、快感に浸っているんだ」
プロはいつも小言ばかりでうるせえ。俺は今酔ってるんだから少しぐらいはしゃいだっていいだろう。俺は月明かりが輝く寒空を抱きしめたくて腕を広げた。いやぁ、人の金で飲む酒はたまらんねぇ。
「ま、サリーの言いたいことも分からなくもないな、プロ、今日ぐらいはサリーにいい気分にさせといてやろうや」
「さすがハリー、わかってるねぇ」
思わずハリーの太ましい2の腕を叩いてしまう。危ない危ない。
「酔うとほんとウザいな、お前」
「サリー、ほらこれ、誕生日プレゼント」
俺は小さな包みに入った箱をもらった。
「ありがとうなエピ!いやー大好きだわ。後で開けるな!」
「なんで今あげるんですかエピ!TPOをわきまえてください!それに渡すとしても兄の私が先でしょうが!」
「え、ごめん兄ちゃん」
少し後悔したような顔をするエピ。いや、いつ見てもプロとそっくりだなぁ。
「いや、謝ることないぞエピ。どうせこいつは考えすぎてあげるタイミングを逃す野郎だ。今あげるきっかけを作ってやんないとな。ほらサリーこれは俺からだ」
大きな袋だ。ハリーみたいな筋肉質な体じゃない俺は持つことさえキツイ。それを見たハリーは渡した袋を俺から奪っていった。気を遣って持ってくれたのだろう。
「ありがとうハリー!さて、残るはプロだけだな、へっへっへ」
プロはすごく渋い顔をしながら小さな袋を渡してきた。
「絶対誰もいないところで開けろよ?絶対だからな!」
「じゃ、今開けるわ」
開けると中には指輪が入っていた。黄色い小さな石がついている。一目見て高そうなものだとわかる。
やめろという声がかなり大きく聞こえるが、夜中に迷惑な奴だ。
「ありがとうプロ!やけに高そうだなこれ」
「……あー、もういいよ、好きに使えよ……」
「兄貴いいもんやってんじゃんか!いいな、俺も欲しい!」
「エピうるさい」
「すまねえ」
「あはははははは」
エピとプロの双子のいつものやり取りでひとしきり笑ったころには宿が目の前だった。よく飲んでよく笑って今日はよく眠れそうだな。
さて、明日から準備だ。