前触れ~少年A
神戸連続児童殺傷事件の犯人少年Aが起こした予行練習
1997年に起きた神戸連続児童殺傷事件は日本の犯罪史に残る残虐の事件として語り継がれるだろう。しかも未成年者による犯行だったということに時代の変化という言葉では説明しきれない変化を感じた人も多かった。世の中が悪いと言うコメンテーターがいたが、いずれにしても殺人は犯人が悪いのである。
3月16日2件の事件が須磨区で起きていた。竜が台の公園で、付近にいた小学4年生の女児に手を洗える場所はないかとたずね、学校に案内させた後、「お礼を言いたいのでこっちを向いて下さい」と言い、振り返った女児を八角玄翁(金槌の一種)で殴りつけ逃走した。女児は病院に運ばれたが、3月23日に脳挫傷で死亡した。この日、ニュースに大きく取り上げらなかったが、この事件から10分後に酒鬼薔薇聖斗は別の事件を起こしていた。
午後0時35分ごろ、女の子の頭を殴った後、酒鬼薔薇聖斗は別のターゲットを物色していた。ポケットには刃渡り13センチの小刀を忍ばせていた。彼の前から小学生3年生の女児、堀内めぐみ(仮名)が歩いてきた。酒鬼薔薇聖斗はナイフをポケットの中で握り、この女児を刺すことにした。
「私は友達と遊ぶために待ち合わせ場所に向かうところでした。前から男の子が歩いているのは知っていました。」
堀内は前から歩いてくる男の子が道を避けないので、自分から避けようとした。
その時だった。すれ違いざまに腹部に激痛が走った。
刃渡り13cmのナイフが腹に刺さったのだった。傷は深さ8cmに達し、堀内の胃を貫いた。胃を刺し抜いた切っ先は背中の静脈の一歩手前で止まっていた。一瞬の出来事だった。
「刺された時はパニック状態で痛みも感じず、意識もあったんです。よろめきながら待ち合わせ場所まで歩き、仰向けに倒れました。徐々に意識が薄れてきましたが、子供心に“このまま眠ってしまったらもう戻れない”と思って、意識を保とうと必死でした」
何が起きているのかわからない恐怖の中、9才の少女は生きるためにもがいていた。
刺されていた所が一歩間違っていたら、殺されていたところだった。背中の大動脈の3分の2が切れていて、あと何mmかずれていたら助からなかった。堀内は1500ccもの血液を輸血して、体の血液量の半分を輸血した。
堀内は、2週間後に退院したが、傷口はケロイド状になり、激しい痛みに襲われた。そんな状態でも警察からの聴取は連日続けられた。
「犯人の姿を見ているのは私だけだったので、警察も必死だったのでしょう。私がAの顔を見たのはほんの一瞬でしたが、“若いお兄ちゃん”と伝えました。懸命に人相を思い出して、似顔絵を作ってもらいました」
堀内が自分を刺したのが酒鬼薔薇聖斗だと知ったのは、この少年が逮捕された時だった。
堀内さんは現在、看護師として医療現場に立っている。