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ラーマ双書!!! 【 紫 】  作者: 宿儺深緋
修行編
6/33

第陸話 陽養飴

「【甘兎】に行こうよ!」

 赤い粒粒の実の植物 マムシグサ が描かれたワンピース姿に黒サングラスのクロルが何やら嬉しそうに言う。


 今日は十月五日。魔界でも一年は三百六十五日らしい。

 一昨日は"精功(せいこう)"を習得する為に山に登り、昨日は鉱山で岩を素手で持ち上げ運んだ。岩運びはサワツネ曰く"精功"の修行の一環らしく、体内の"精"を指や腕に集中させると、集中させた部位は通常の数割の力やスピードを出せるらしい。

 要は集中とコントロールの修行だ。

 おかげで米俵ぐらいの大きさの岩をなんとか持ち上げて動かすことができた。

「あまうさぎ?」

「そう!」

「甘兎ってのは何なの?」

「駄菓子屋だよ! 陽養飴が売られてる駄菓子屋!」

 出たぞ。陽養飴(ようようあめ)。噂の陽養飴。

「【ロダイミシュー】の中で話してたあの――――」

「うん!」

「駄菓子屋か…………。ソウベエと行けば?」

 ソウベエはクロルと同じ六才らしく、魔界以外でも会ったことがあるらしい。

「嫌よ。………………見てあれ」

 クロルが後ろに指を差す。

「フゥーッフゥーッフゥーッフゥーッフゥーッ」

 ソウベエは両足を椅子に上げ、背中には何故か親父座りの線矢を乗せながら片手で腕立て伏せをしていた。

「………………どう声をかけたらいいの?」

「案ずるな。クロル」

 線矢だった。

「俺の方が声をかけにくい。乗れって言われて乗ったら五百回するまで待ってくれって言われてな。見てくれ俺の顔よ」

 変に汗ばんでいる。


「尿意だよ。尿意」 


「ニ百回目ぐらいに襲ってきてね。今、四百回目に入るところだ。あと、数十秒で終わるはず。その時に話しかけるんだ。だが、俺はその時いないよ。トイレに行くからね。…………おっと、トイレに先回りは無しだよ」

「ご……ひゃく……」

 話している最中に終わったようだ。

「やった…………」

 線矢は背中から降り走り出した。

 トイレは外のもう一つの小さな小屋にある。


「ヅュッハアアアアアアアァァァァァァァ!!」


「ん?」

 外に出る。


 線矢はトイレの小屋の前で足をばたつかせている。

「あ…………け……て。……ね……え……あ…………け……て」

 どうやら先客がいたらしい。

 トイレの中から

「別にトイレをしたいわけではないが、本能的にトイレに行きたい奴がいたらトイレを先取りしたくなっちゃうんだな」

 どうやらサワツネのようだ。

「な……ん……で…………も……する…………か………………ら」

「なんでもするって言ったな」

「は…………い」

「じゃあ工事の手伝いだ」

「給料…………は?」

「働き次第で考えてやる」

「お……ね…………が……い……し……ま…………う……ぅぅ……ぅぅぅぅぅぅ」

 ドアが開いた。

 サワツネは少年サガンプと書かれた漫画雑誌を読んでいた。

「やっ………………た」

 線矢はトイレに駆け込む。

「いいとこだってのに……」

 サワツネが出てきた。

「そういえば、お前さんには給料出してないな。ハイよ」

 サワツネはポケットから何かを出した。

 札がニ枚、小銭が五枚。

 札ニ枚には一本のサーベルの周りにバラが描かれていた。

 小銭は五百が一枚。百が四枚だった。

「札はサーベル一つで千セルク。五つで五千セルク。十本で一万セルクだ」

「セルクは円の二倍だから…………五千八百円。高い!」

「昨日と明日の分だ。前払いの方が楽だからな。それで何か買ってくると良い」

「すまない!」

「それと【ライクルガ】は工事で駐車場があと少しで出来る。工事中だからバスは無い。だから【チルミサー】を貸してやる」

「【チルミサー】ってあの――――」

「浮いてるスクーターみたいなヤツだ」   

 来なせぇとサワツネは言う。 

 

 連れていかれた場所はすぐそこの鉱山だった。


 中はトロッコがあり土だらけ。その片隅にそれはあった。

「これだ」

 スクーターの車輪の部分が無く車輪の部分が平らのスクーターもどき。 

 これが【チルミサー】だ。

「右がアクセル。左がブレーキ。燃料は電気。満タンだから問題無いだろうけど。浮く高さは十センチだ。速度制限は七十五キロまでだ」

 スクーターとは大して変わらないようだ。

「練習するか?」

「あぁ!」

  

 【チルミサー】を小屋の前に出して乗る。

 鍵を差す。

 まずアクセル。

 ふわリと浮いた。

「ウおッ!!」

 そして前に進んだ。 

「ホォッ!」

 ハンドルを右に切る。

 スルっと右に動く。

「揺れがない!」

 強くアクセルを押す。

 少し速く進んだ。

「なるほどぉ!」 

 ブレーキを押す。

 キっと止まった。

「なるほどなるほどぉ!」

「問題無さそうだなぁ」

「クロルは?」

「クロルは乗れないが、二人乗り専用車がある。それを運転するプロを呼んだ!」

「ヅュッハァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 物凄いハンドルの手さばきを見せながら奴が来た。

「修介!」

「久しぶりだな。トト!」

 修介だった。ピンクの二人乗り【チルミサー】を運転していた。

 何故ピンク?

「修介はあっという間に【チルミサー】を乗りこなしてな。大会に出れるぐらいだ」

「お……れ……に………………任せな!」

「テンションが……」

 忘れられていた設定が蘇った!

 修介は器用!

「某も連れて行ってくれ」

「ソウベエか」

 なら二人乗り専用車が二台必要に。

「…………なら、俺も行くか」

 サワツネだった。

「ソウベエ二人乗りもう一つ持って来い」

「ぬむ」 

 ソウベエが黒の二人乗りを持ってくる。

「んじゃ早速行くか」

「【ライクルガ】の何処へ?」

「【ライクルガ】は魔界でもなかなか珍しい大都市だからな。とりあえず…………【コメットストリート】にするか」

「どんなところ?」

「【コメットストリート】は品揃えが物凄く多い。巨大な本屋もある」

「俺、本屋に行きてぇぇぇ!」

 修介のテンションが。

「じゃあそこで」

「決まりだな」

 初めての【ライクルガ】観光だった。


 町は所々、工事をしていた。駐車場を造っていると、看板で書かれている。


「でかい!」

 周りは人(魔物?)がまぁまぁ多く、店も色々あった。

 【チルミサー】は小さな駐車場に置く。

 今、造っているのは普通の車の駐車場のようだ。

「ここが【コメットストリート】。今は昼の三時だから四時ぐらいに前の【岩石博物館】に待ち合わせで」

「おう!」

「んじゃ解散」

 サワツネは単独行動。残った俺達は観光。

「どこに行く?」

「まず【甘兎】でしょ」

 クロルが言う。

「私、何度かここに来たことあるから案内するわよ」

「んじゃ、案内してくれ」

「うん!」 

 さすがにクロルは魔界に詳しい。

 【岩石博物館】の大通りを左に進み左に曲がる。そしてしばらく歩くとそれはあった。


 外観は昭和のレトロな駄菓子屋で看板に【甘兎】と書かれている。

「…………結構近かったな」

「うん!」

「外観が渋い……」

 この外観…………。悪くない。

「入ろうか」

 店の前には何故か内臓が出ていて肌白の僵尸(きょうし)の服装の女の子のマスコットがいた。

「……………………………………あれは?」

「あれね! あれは僵子(きょうこ)ちゃん!」

「僵子ちゃん?」

「そう。【甘兎】のマスコットよ。設定は『封神演義』の時代で餓死した母から生まれた女の子で天涯孤独の身。死ぬ間際に打倒妲己(だっき)を目指す道士(どうし)龍胆紫(ロンタンツー)】に拾われ望んでもいないのに十二支霊獣の一つ【兎玊(うきゅう)】を封じられ【龍胆(ロンタン)】という名前を与えられ道士として戦闘兵器として育てられるの。でもある日、龍胆紫は殺されてしまう。殺した者は実の父親! 龍胆はそれを知りながらも仇を打つ為に戦って勝つんだけど、致命傷を負ってしまう。生への執着で自らを僵尸にして自らの運命に決着をつける為に妲己に復讐を誓って中国を旅しているって設定よ」

「設定が細かい! そして暗い!」

「あの内臓は父親と戦った時のよ」

「もういい! そんな情報!」

「可愛い」

「大丈夫か? 修介! 内臓出てるぞ」

「とにかく入ろうぞ」

 ソウベエの一言で僵子ちゃんの闇は終わった。


 店内は以外に広く、中央に色々な色の飴玉、左端にはプラモデル、右端にはお爺さんがいるくじ引きゾーンがあった。


「落ち着くなぁ」

 奥には七十ぐらいのお婆さんがいた。

「駄菓子屋だなぁ」

「あぁ」

 店内は子供の魔物が数名、その中に三十ぐらいの男が真剣な目でくじを引いていた。

「ヅュッハアアアァァ!」

 外れたらしい。


 お婆さんの前に行く。

「…………陽養飴は……何処…………ですか?」

「陽養飴? 真ん中だよ」

 確かに飴ゾーンの真ん中にあった。

「……ありがとうございます」

 空気が……。…………何か狂気を感じる!

「あった」

 橙色の太陽が描かれた丸い飴。その飴が十個入った袋があった。陽養飴とかなり渋い字で書かれていた。

 一つ持ち、お婆さんのところに行く。

「ニ百五十セルクだよ」

「はい」

 ポケットから小銭を出す。

「まいど。……それと――――」

「それと?」

「はい」

 渡されたのは金色のくじ引き券だった。

「くじ引き券だよ」

「くじ引き?」

「ニ百五十セルクにつき一枚じゃ。百番から一番まである。そして後ろの兄ちゃん。あんたも陽養飴ね」

「はっはい」

 修介がニ百五十セルクを出す。

「あんたもね」

 くじ引き券を貰う。

「行っといで」

 お婆さんは新聞を読み始めた。

 くじ引きゾーンにはまだ男が居た。

「先に俺がするよ」

 修介だった。

 何故だろう。くじ引きゾーンに来てから何かの雰囲気が強くなった。

「兄ちゃんもか」

 くじ引き券を渡し、修介は紐を引く。

 十四番と書かれた紙が出た。

「…………十四番! 変化グミ!」

 十個入ったグミが渡されたようだ。

「次は俺か」

 券を渡す。

「どうぞ!」

 紐を引く。

 ニ十一番が出た。

「ニ十一番! 変わり(だね)!」

「!」

 隣の男が振り向いた。

 身長は百七十五ぐらいでがたいは普通。服装は黒スーツの上下を着てマスクをしている。そしてニ十五才ぐらいの若さ。

 肌は元気に焼けているが、とてもクールで冷静そうな顔つき。だが、その顔つきに何かを感じた。…………触ると消えてしまいそうなものを。

「すまないが」

「⁉」

「その変わり種とこの順応(じゅんのう)烏賊(いか)を交換してくれないか?」

 男の手には黒いスルメイカが二つ入った袋があった。

「順応烏賊ってなんですか?」 

 修介は聞く。

「順応烏賊は(かじ)ると脳が様々な環境に順応出来るようになり知能が高くなると言われている烏賊だ。このくじ引きの三番だったが、僕はあまり好きじゃなくてね。変わり種の方が好きなんだ。順応烏賊は珍しいから変わり種よりも良いと僕は思う」

「くじ引きのおっさん」

 くじ引きのおっさんは腕を組みながら

「確かに珍しいぞ。交換した方がいいと思うぞ」

 ………………なら。

「交換で」

「よしきた!」

 交換する。交換する時に少し当たった男の手は死んでいるように冷たかった。

「⁉」

「それじゃ」

 男は満足したようで【甘兎】を出ていった。


「…………」

「トト?」

「…………あぁ! 何か凄い力が抜けた!」

 男が出ていくや否や、何かの雰囲気は消えた。

「…………そろそろ出るか」

「あぁ」

 外に出る。眩しい光が目に入る。

「………………まだ四十分は――――」

「ああああぁぁ! ソウベエとクロル!」

「!」

 空に影が走った。

 空を見上げる。


 丸眼鏡に色白。そして細身。

 

 勝也がいた。





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