第肆話 修行前夜
丸太小屋の中は木の床に窓が三つ、煉瓦の暖炉しか無い部屋に色々荷物が置かれていた。だが、やはりかなり広く数十人は居座れそうだ。
その部屋に男四人が居座っていた。
一人は青い上下の縞々甚平を着た眉毛が少し濃く優しそうな青年。かなり身長が高く、暖炉の前で座り、まな板の上で何かの野菜を包丁で切っていた。その青年はこちらが戸を開けると同時に、メンチを切ってきた。
もう一人はクロルぐらいの男の子で顔はかなり可愛いらしく明るそうで青年に似た青い甚平の上下を着ていたが、何故か部屋の隅で猛烈なスピードで腕立て伏せをしていた。
そして三人目は、戸から一番遠い窓の下で松の盆栽をしているお爺さんだった。この人は優しそうな顔つきで落ちついた緑の着物で迷いの無い手裁きで盆栽を整えていた。
最後はこの部屋の中で唯一、和服ではない髑髏が描かれた白いTシャツを着た青年。髪は金色に染めており不良っぽいが、何故か肌色が良く、ピアスもしていない。外見だけかもしれない。
「皋経。連れてきたぞっ」
ルルは何故か嬉しそうに言った。
「………………ぬむ。それじゃ、この辺りの飛ばされた奴は集まったな」
縞々甚平の青年が包丁を止め言った。
「それじゃ話すか。早兵衛。ボード持って来い」
「ぬむ!」
早兵衛と呼ばれた腕立て伏せをしていた少年は赤いスーツバッグからかなり大きいボードとペンを出した。
何故ボードが。
「ぬむ」
青年はボードを左に持ちペンを右に持ちこっちを見て言った。
「おめぇさん達も入りなっ」
「はっはい!」
靴を脱ぎ玄関に靴を置く。玄関は西洋向きではないようだ。
リュックを床に置き、床に座る。
「ふぅ〜っ」
「いきなりだが、自己紹介させてもらう。時間が無いんでな。俺は坂柱皋経。サワツネでいい」
包丁で刻んでいた青年はそう名乗った。
「某は早兵衛! ソウベエで良いぞ!」
腕立て伏せをしていた少年は言った。
「儂も言った方がいいな」
盆栽していたお爺さんが立ち上がった。
「儂は山藁蔓。年は七十五。趣味は盆栽。…………これで良いか?」
「次はオレか」
金髪の青年が言った。
「オレは刀輪線矢。年は十七。線矢でいい」
「俺はルル」
「私はクロル」
俺の番か。
「俺は兔賭。トトでいい」
最後は修介か。
「俺は修介。何でもいい」
何でもいい?
「よし、ボードに色々書いておくから勝手に理解してくれ。今から食糧採ってくるから」
「え⁉」
「書くぞ。時間が無いから」
そう言うや、物凄いスピードでペンを動かしボードに細かい字を細々書き始めた。
数分経つと、書き終えたのか、ペンを置き荷物の山から柳行李を見つけ背負い、荷物の山から赤いニメートルはある大太刀をまた背負った。
よく見ると、その大太刀には小さな字で【地獄魂】と刻まれていた。
「どこへ?」
ルルが聞くと、サワツネはさらっと
「晩飯」
「まさかこれを⁉」
「そう」
「…………分かった」
どういうことだ?
サワツネは食糧(晩飯?)を採る為に出ていった。ソウベエも一緒についていった。
「なるほど」
「理解しろってこういうことか」
ボードにはこう書いてあった。
今の魔界は戦争が起こっている。
魔界統一戦争。
そう呼ばれる戦争だ。
魔界には三つの大陸に一つの主都、大きな都が四つ、都が十、小さな町や村が七十八あり、湖や森が複数ある。
この【ライクルガ】は大きな都【大都】の一つ。
魔界統一戦争は四つの軍が互いに戦いあう。
青の【ニンフ】
茶の【グノーム】
赤の【サラマンダー】
白の【シルフ】
これらの軍が魔界の都や町を支配し主都を支配しあう。
この戦争に加入するかしないかは勝手だ。
するのなら、明日から自分の身を守れるぐらいにはなれるような〈修行〉を教える。
しないのなら自由に生きればいい。
ただ。
現段階で現世(人間や生物が住むところ)には帰れない。
戦争が起こる前には、自由に行き来できていたが、今では全くできない。
戦争が終わればできるだろうが。
(注)帰ってくるまでに決めておくこと
「……………………」
「ほう。なるほどのぉ」
ルルやツルさんは理解したようだが。
「修介どうする?」
「お、…………俺」
「俺は…………………………しない」
「⁉」
「龍ちゃんのあの姿見た時、恐怖で動けなかった。ロダイミシューの中で銃撃つ時、俺は一発も撃てなかった。……………………俺。…………たぶん、た……戦えない性分なのかもしれない……」
「俺は…………」
龍ちゃんの目を無意識に思い出していた。
「あの……悲しそうな目を見て…………龍ちゃんがこうなったのは……何か…………理由があるんじゃないかと思ったんだ。龍ちゃんが何故ああなったのかを知りたい。それに他の奴らも……どうなったか知りたい。だから……俺…………やるよ」
修介の目は何かを決めていた。
「…………そうか。……お前なら……そう言うと思ったよ」
「修――――」
「俺は戦争を終わらせる為の武器を造る」
「…………」
「大丈夫! 【ライクルガ】を拠点にするさ。鉱山があって攻められにくいから結構安全かもしれん!」
「儂もしよう」
「⁉」
蔓さんだった。
「何か身を守れるぐらいにはなった方がいいし、何より…………ヤッてみたい」
「………………俺も」
線矢さんも。
「俺もだぜ!」
「お前誰だよ!!」
窓から眉毛が繋がっていて毛深い青年が覗いていた。
「あれ、俺のダチ」
「線矢さんの⁉」
「線矢でいい」
線矢は言った。
「ごめん。忘れてた。あいつは怒涛常勝。元々、あんなテンションだったけど、ここに来てからさらにグレードアップしてな。……根は良い奴だ」
「忘れてたって……」
戸を開けてサワツネとソウベエが帰って来た。両手にはニメートルぐらいのサーモンを持っており背中の柳行李には山菜が山盛りに入っていた。
そして後ろには 気合 と黒く書かれた白いTシャツに黒い短パンを着た青年 常勝 がいた。
「決まったようでぃ」
サワツネがそう言った。