第参話 【ライクルガ】
【ライクルガ】は面積約四十万キロメートル(日本の面積より少し大きい)で魔界の中では第三位の面積を誇る町です。
【ライクルガ】の約七割が鉱山や炭鉱で、ニ割が住宅地、残りが湖等で、鉱山や炭鉱が町に入っているのはそこで暮らす魔物や人がいる為、【ライクルガ】はこのような大きさになっています。
「魔界にも看板があるんだな」
「あぁ」
【ライクルガ】には駐車場が無いらしく、ロダイミシューは【ライクルガ】の外に置いてきた為、【ライクルガ】の移動手段はバスになってしまった。
「バスまだかな?」
「魔界でも数字は変わらなかったからなぁ。あと、………………十四分だ」
「十五分に一台か。さすがに都会は多いな」
「バイクみたいなのが走ってるし」
【ライクルガ】も右側通行らしく、バイクみたいなのは右側を走っていた。
バイクみたいなのはスクーターのようだが、車輪が無く浮いている。
通りには炭鉱の町っぽく、宝石店や鉄を扱う武器屋が多かった。
「そういえば、陽養飴って奴は――――」
ルルは
「陽養飴はどこでも売ってるわけではないから。【ライクルガ】では、駄菓子屋の【千年細工】だけだ」
修介は時計を見ながら言った。
「旅館ってどんなとこ?」
ルルは道着を気にしながら言った。
「旅館ではない。ただの寝床だ」
「え⁉」
「正確に言えば、炭鉱でタダ働きだ」
「えぇぇ」
「文句言うな。三食あるから良いところだ」
「前から気になってたが」
「あ?」
俺は勇気を出してみて聞いた。
「家は?」
「潰れた」
「え?」
地雷を踏んだか?
「俺の家は…………自分で言うのもどうかと思うが、魔界では有名な武道道場で門下生も沢山いて普通に生活していたけどな。ある日、道場破りの拳法使いに俺以外両親含めて殺されてな。ちょうど、学校から帰ってきた時に出くわしたんだが、奴は武道を発展させる為に自分が悪党になっているって本人が俺に言ったんだ。自分を倒す為に武道が発展すればそれで良いらしいんだ。戦ったんだが、全然敵わなくて。そして奴はまたターゲットを倒す為、どこかに行ってそれで家に残っていた物を集めて売って学校も辞めて傭兵として生きてきた」
「そう」
「お! バスが来たぞ」
バスは来たが、ルルに思い出させるような事をして申し訳無くて仕方が無い。
バスはニ十人は乗れる大きさだが、乗るのは俺達だけのようだ。
バスに乗ってからも、ルルは色々と教えてくれた。
「俺はな、魔界統一武道会に出る予定なんだ」
「魔界統一武道会?」
「そう。武道会は戦争中だろうが、関係ないんだ。どこの国も見て得するからな。だから何かの大会があるところは平和と言える」
「へぇ」
俺達はバスの左側真ん中の席でクロルは窓側でサングラスをかけたまま寝ていた。何故かその時、クロルの蛇の髪も一緒に寝ていた。修介はその隣で何故か睡魔と戦っていた。俺とルルはその後ろの席。
「いつ始まるんだ?」
「あと、…………八ヶ月少し」
「賞金とかはあるの?」
「賞金は優勝が百万セルク、二位が五十万セルク、三位が三十万セルクだったはず」
「?」
「あぁ。魔界の金銭の単位だ。一セルクで円のニ倍だ」
「魔界は難しい」
「まぁ飛ばされて一日目だからな」
「じゃ、今日はよく寝れるな」
「公園で寝てたって」
「あぁ」
「痛くなかった?」
「まぁ………………痛かった」
窓からうっすら見える景色はぐんぐん変わり時々止まった。
「あのさ」
「ン?」
前から気になっていた事。
「龍ちゃんにぶつけた風みたいな玉は何なんだい?」
「あれか? あれは……………………波轟玉だ」
「波轟玉?」
「詳しいことは教えられんが、まぁ、俺の一族が使っていた拳法の技だよ」
「そう」
「……………………どうしてそんなことを聞く?」
「……………………………………いや」
龍ちゃんのことだったのかもしれない。忘れようとしていたかもしれないが、忘れることなどできなかった。龍ちゃんは親友だと思っていたし空手も一緒に習っていた。だからあの時、見た時は何かの間違いだと思った。
だが違った。
現実だった。
龍ちゃんの変貌の秘密を知りたかったのかもしれない。
そうすれば、他のまだ大丈夫かもしれない友人を守ることができるかもしれなかったから。
「…………そろそろ降りるぞ」
窓を見ると、山がかなり近くに見えた。
「鉱山?」
「あぁ」
「タダ働きか…………」
「あぁ。でも、相手は知り合いだ。だから働きに応じて賃金もくれるから大丈夫だ」
「知り合いなのか」
「親父のな。クロル……………………起きてるな」
「ん」
知らない間に起きていたらしい。眠そうな目を頑張って開けていた。蛇の髪も眠そうな目で起きていた。
「荷物持ったな。それじゃ行くぞ」
リュックを持ちバスを出る。賃金は一人五百セルクだった。
バスの外は【ライクルガ】の町が一望できる鉱山だった。
そこに一つの丸太小屋があった。
その丸太小屋は丸太を釘で打ちつけただけのものと外からでも分かるが、かなり大きく、五十人は入れそうだ。
「こんにちは」
丸太小屋の戸を開けルルが声を出した。
その鉱山の丸太小屋に奴はいた。
「………………あ?」