第弐話 車を辞めた車
「龍……………………ちゃん?」
その化物は龍ちゃんの顔だが、龍ちゃんとは程遠い巨体でニメートルはあり筋肉は溢れ出ており体重三百キロはありそうだ。
そんな化物が口を動かした。
「トト…………カ? ソし…………テ、………………トナ……り…………の……ヤ…………ツは………………シュ……う……ス…………け…………カ?」
「………………⁉」
体が恐怖で動かない。
「オ…………マ……ぇ……た………………チ……ハ………………エ……ラ……ば…………レ……な……か……っ……た……か」
「⁉」
「………………ホ……ば……ク……た……イ…………シヨ……う……ジャ………………ナ………………ィ……が……ツカ……マ……――――」
ブロロロロッと、車の音が龍ちゃんの後ろから聞こえる。
「⁉………………ナ…………に――――」
『竹玉!!!』
龍ちゃんの後頭部に謎の青い竜巻のような玉が直撃した。
「⁉……⁉…………⁉」
キキキキキキッと、車の止まる音がする。
物凄いスピードでボンドカーのような車が横に止まり、その車の右助手席ドアから、髪の毛が赤い蛇で蛇苺が描かれている白いワンピースを着て、何故かサングラスをかけている五才ぐらいの少女が現れた。
「乗って!」
「え⁉」
「早く!」
俺達が車に乗ると、すぐに車は走り出した。かなり速い。運転席を見ると、ボタンが大量にあり運転していたのは少年だった。
振り向くと、
「⁉」
「追いかけてきたわ」
少女が後ろを見ながら言った。
「ラムガルムを出てルイクルガに行くまで時間を稼げ!」
「OK!」
少女が言った。
「あなた達も手伝ってよ。じゃないと――――」
ズシンッズシンッと、龍ちゃんが追いかけてきた。
「はい」
少女に渡されたのは、ドライヤーのような銃だった。
「あなたも」
修介には一メートル程の大砲のような銃だった。お前の方が火力強そうだぞ。
少女は車の天井にある取手を持ち動かし天井を開けた。天井の取手を動かすと、反撃穴になるようだ。
「うんしょ」
この車には対化物用兵器でもあるのだろうか。
「はい! 私じゃ撃てないから頑張って!」
「あぁ」
最早、車を辞めている。
「友達を撃つのか」
龍ちゃんとは離れているが、距離は縮んできた。
「ごめん!!! 龍ちゃん!!!」
震える手で友達を撃った。
ダーンッと、凄い音が耳に響く。
銃から煙が大量に出る。
手が痺れる。
だが、当たらず、遠くの建物に当たり小さな爆発を起こした。
「な…………なぜ」
「きっと、狙いが反動でズレたのよ」
少女だった。
「スコープなんて着いてないから仕方ないけど、もっと下を狙った方がいいわよ」
「ありがとう」
少女に教わってしまった…………。
それにしてもこんな少女がこんなに武器に詳しいなんて……………………。
世も末だ。
「当たってくれ」
当たれと外れてくれが心の中で交差する。
引き金を引く。
ズガーーンッと、音が響き煙も出て手が痺れる。耳も狂いそうだ。
「……ア――――」
龍ちゃんの声は爆発と煙にかき消された。
「倒れたか?」
動かない。
煙が晴れる。
龍ちゃんの目が見えた。
悲しげな目だった。
「⁉……⁉………………⁉」
手が震えた。
「この町をもう出るわよ」
少女が言う。
「…………とりあえず、一段落したから…………色々教えてくれ。この世界は何なんだ」
修介は少年と少女に聞いた。
「もしかして………………現世から来たの?」
少女が聞く。
「現世?」
修介が聞く。
「現世ってのは人間が住む世界だ」
「人間? ってことは?」
「もしかして、あの花びら吹雪を見てからこっちに?」
少女が聞く。
「あぁ、あの貫通す――――」
「やっぱり!」
少女が言った。
少年は
「実はな、最近、魔界に様々な世界の種族が飛ばされてくるって事件があって、その事件が魔界統一戦争に何かを起こすとまで言われてんだ」
「もしかして、………………ここは魔界?」
俺が聞く。
「そうよ」
少女は言った。
「今、魔界は戦争中なの。昨日から」
「昨日から!」
修介と俺は叫んでしまった。
「まぁ、無理もない。いきなりこんなとこに飛ばされてな。でも、大丈夫。他にも飛ばされて、ここに来た人が今、向かっているところに数人いるはずだからな」
「他にも」
少し安心。
でも。
「戦争ってことは現世? に戻るまでに死ぬかもしれないってことだよな」
「だから、今向かっている【ライクルガ】にいる救世主と呼ばれる男の元に集まってこれからどうするか考えるんだ」
救世主。
……………………か。
「…………そういえば、この銃――――」
修介が言うと
「あ! 大丈夫! それあげる! だって何が起こるか分からないもん!」
………………………………………………………………怖い………………。
「そういえば、名前まだだったな。俺は修介。修介でいいぜ」
確かに色々あって名前聞いてなかった。
「俺は兔賭。トトでいい」
自己紹介すると、右助手席からわざわざ振り返って
「私はクロル。ゴーゴン族のクロル。このサングラスは目を合わせたらいけないからなの」
ゴーゴン族。そんな種族がいるのか。
「俺は瑠鱸。魔物だ。ルルでいい」
よく見ると、ルルの服は【千秋道楽】と黒く書かれている道着だ。龍ちゃんの動きを止めたのは拳法か何かだろうか。
十数分は経っただろうか。
「そろそろ着きそうだ」
窓から外を見ると、森が少なくなり石が多くなってきた。
「【ライクルガ】は火山や洞窟が多いの。だから、宝石等が多く取れるの」
クロルが嬉しそうに言う。何か好きなものでもあるのだろうか。
「クロルはな、【ライクルガ】の陽養飴が好きなんだ。あんた達にも分けてやるよ。…………まぁ、魔界の味が合うとはわからないけどな」
「陽養飴…………」
陽養飴。魔界にも特産品があるらしい。
何やら丸い宝石のようなものが複数付いた巨大な石の門が見えた。
「ここが【ライクルガ】だ」
車のドアが開いた。自動らしい。
「この車はなんて名前なんだ?」
修介は車や電車、機械関係には何でも興味を示す。
「【ロダイミシュー】。常世にいる著名なエンジニアと現世で活躍したエンジニアの亡者が共同開発した車だ。タイムスリップにも耐えれたり溶岩にも耐えれるらしい。ちなみに、この車はその試作品」
「すげええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
修介驚愕。そりゃそうだ。
石の門を潜り、遂に【ライクルガ】に到着した。