第壱話 魔界君臨 そして遭遇
「おい! 起きろ! 外の景色見ろよ! せっかく東北に来たんだからよ」
耳元で声がした。俺は目を覚ました。眠い。昨日夜中の三時まで夜ふかししていたからだ。
「天気が良いし景色も良い! いい場所見つけてくれたじゃねぇか! 兔賭!」
「あぁ、ありがとう」
兔賭とは俺の名前。俺の名は芥川兔賭。年は十九。
「テンション低いなぁ」
「そうかぁ!」
コイツは建山龍。通称龍ちゃん。黒髪が少年漫画の主人公のようにカッとした眉毛に当たるスレスレまで伸ばしていて身長は百八十七、体重八十七という野球と空手で鍛えたがたいをしている(身長と体重は龍ちゃん本人が教えてくれた)
「修介は?」
「アイツはな、今、後ろの席でスーパーの袋持って吐くしてる」
「そうかイ」
「おえぇぇぇぇぇぇぇ」
今、一番後ろの席で吐いた奴は肝溜修介。酔いに弱い。身長は子柄で龍ちゃんと比べるとがたいはそこまでよくない。だが、実家が古道具屋で道具の扱いが上手く器用。
「兔賭。林檎刈りって時間いつだっけ? 時間に合わせて昼御飯食べないと」
「林檎刈り? 時間は…………確か、昼の一時半だ。今は…………十時三十四分か。確か、十一時にサービスエリアにバスが止まってくれるからその時にちょっと食べよう」
「ありがとね」
この娘は山澤花美。身長は百七十ぐらいだが、なんだか子柄に見える。色白でショートカットの黒髪。全体的に和風なお城の子柄なお姫様に見えて仕方がない。
「おい。皆トランプしようぜ」
「おう!」
「うん!」
「あぁぁぁ。車酔い慣れてきた」
最後にコイツは福幸勝也。丸眼鏡に色白、そして身長は百八十ぐらいで細身(本人も認めている)。だが、勉強はこの五人の中で一番できる。五人の中で一番偏差値が高い高校に行っている(偏差値で比べるのはどうかと思うが)。
「婆抜きにしようぜ」
「あぁ」
「いいよ」
「俺が配る」
「車酔い大丈夫?」
「だ、大丈夫」
婆抜きの順番は勝也→花美→修介→俺→龍ちゃんに決まった。
トランプは五十三枚。
カードを捨てていった結果、勝也は七枚。花美は八枚。修介は七枚。俺は十枚。龍ちゃんは九枚になった。
勝也の番。勝也は八枚。花美は七枚。
花美の番。花美はカードがダブり二枚捨て五枚。修介は六枚になった。
「俺の番か」
修介の番だ。
「一枚取るぞ」
「いちいち言わなくていいぞ」
「あぁ」
実は俺はトランプが得意(とよく言われる)。
修介の指が俺のカードを探る。
「これか!」
修介は俺のカードを取った。
俺のカードの中に婆は無い。
「あぁ。駄目だ。増えた」
「車酔いしてた時は全く話さなかったのに酔いがなくなった途端、よく話すな」
「俺のターンか」
修介のカードを指で探る。
左から三枚目のカードのところで目が不自然に動いた。
「これだ」
「お!」
「ダブったな」
カードを捨てる。残り九枚。
龍ちゃんの番になった。
どれくらいたったろう。
婆抜きは俺の一位抜けと修介の婆で終わった。
「兔賭はゲームは強い。ゲームだけはやたらと強い」
ニ位の勝也が笑いながら言った。
「十時五十二分か。そろそろサービスエリアだな」
「旅行の目的地までもう少しか」
旅行。そう俺達は今、旅行をしている。
俺達は今年高校を卒業した。
まぁ、皆違う高校に行ったから偏差値や場所も違うし卒業したタイミングは全然違う。
だが。
俺達は幼稚園からの馴染みだった。
家は互いに近くで近くの公園でよく集まりよく遊んだ。
龍ちゃんとは家が一番近く、空手を一緒に習っていてこの五人の中で一番仲がいい。
修介はよく遊ぶ公園の前の団地に住んでいた。だから、雨が降った時は家にあがらせてもらい、ゲームをしたりして遊んだ。
花美は勝也の次に勉強ができてよくモテた。だが、高校にあがってから一番会っていないと思う。会えない日が続いたある日、出かけていると、花美とすれ違った。花美は気づいていないらしかったが、次の瞬間青ざめた。
知らない男と手を繋いでいた。
楽しそうに。
俺はこの時、花美が好きだったと始めて気づいた。
俺の初恋は伝えれぬ間に終わった。
勝也はこの五人の中では何ども言うが、一番頭が良く勉強ができる。だが、それは家庭が勉強に対して厳しかったかららしく、よく俺達に愚痴を言ったりしていた。俺達は同じように愚痴を言ったりして互いに本音で言いあえる中になったと思う。
不意に外を見る。
ここは東北高速道路。そしてここはバス。
乗っている人は俺達と運転手を含めてニ十人ぐらい。他の客は寝たり本を読んだり他の客と話してたりしている。バスは小型で安かったからこのバスにした。
景色はさっきから森だらけ。
「お! トンネルだ」
修介が言った。
「お前、いちいち言うなよ」
龍ちゃんがスマホを見ながら言った。
「だって、東北ってトンネル少ないじゃん」
「確かに」
「ハハハ!」
トンネルに入った時だった。
いきなり、視界に色とりどりの花びらが舞った。
「キャアァァァァァァァ!」
「花びらだ! 風も窓も開いてないのにいきなり!」
「皆さん落ちついて下さい!」
バス内はパニックそのものだ。
「何なんだよコレ⁉」
俺はそう言いながら花びらに触ってみ…………触れない! 貫通する! よく見ると、外にも舞っている。
「おい! 前を見ろ!」
全員が前を見た。そこには。
何台か前の車が事故を起こしたらしく、その車に後方の車がぶつかりさらに後方の車がぶつかりあって一種の壁のようなものを作りあげていた。
もうぶつかる!
「衝撃に備えて下さい!!!」
「掴まれぇぇぇぇぇぇぇ!!」
席にガッシリと掴まる。キキキキキッとブレーキの音がする。
不意に目をあけると、明るい光が目に入った。
そこには、ぶつかりあった車とトンネルの出口があった。出口の光が近づいてくる。その光でぶつかりあった車の中が見えた。そこには。
誰もいなかった。
目を覚ますと、そこはバスの中だった。
花びらは無く、明るい。
「よう!」
「わ⁉ びっくりした⁉」
声をかけてきたのは修介だった。
「なんだ。修介か」
「なんだとはなんだ! …………まぁいい。そんなことより大変なんだ。皆がいない!」
「えぇ!」
周りを見渡す。目が光に慣れてきたのでバスの中が見えてきた。
バスは荒れ果てるところまではいってないが、少し荒れていた。荷物は散乱していたが、窓は全く割れていない。人は俺達二人だけだった。
「他の乗客は?」
「俺が目を覚ました時からこうだったから全く分からねぇ!」
「そんな!」
ここから俺達の地獄が始まった。
「とりあえず外に出よう」
「あぁ、その為にお前が目を覚ますのを待ってたんだ」
「二人で出た方が安全だからな」
外に出た。
外は深い森だった。太陽が出ており濃い土の匂いがプンプンする。緑や深緑、青緑といった緑で構成された深い森だったが、何だか不思議な匂いがする森だった。
「森だな」
「森だよな」
修介はそう言うと、黒いリュックを背負った。
「そのリュックは?」
俺はそう聞くと、修介は
「ケガするかもしれないし、いつでも何か持っている方がいいだろ」
「何が入ってんだ?」
「金とか服とか…………色々」
俺の服はUJJAMと書かれた白いTシャツに黒のジーパン。
修介の服は僵子ちゃんというキョンシーの見た目の女の子のアニメキャラが描かれた白い服に青いジーパン。
「⁉ 何見てんだよ⁉」
「いや、動きやすい服かなと思って」
「大丈夫だろ。…………それよりどこに向かう?」
「確かに。皆を探すと言ってもどうすればいいか分かんねぇもんな。コンパスみたいなもの持ってる?」
「コンパスは持ってねぇな。………………だが、これがある」
修介はリュックに手をかけた。…………と、思ったら手をかけなかった。…………と、思ったらやっぱり手をかけた。…………と、思ったらやっぱり手をかけなかった。…………と、思ったらやはり手をかけた。…………と、思ったらやはり手をかけなかった。…………と、思ったら手をかけた! …………と、思ったら手をかけなかったと、思ったら手をかけた! …………と、思ったら下に落ちていた木の枝ニ本に手をかけた!
そして一言。
「レッツ! ダウジング!」
「殺すぞ」
「ごめん」
修介は木の枝を握り締め親指と木の枝ニ本で三角を作った。
「お前が目を覚ますまで待っているうちにスマホを触ったけど全く反応しなかった。ここは電波とかそういうのが全く届かないのかもしれない。何があるか分からないからバスに戻ってお前の荷物を持ってきた方がいいぞ。まぁ、荒されてなかったらな」
「あぁ、探しに行くよ」
「おう」
バスの中に入ると、暗闇がお出迎えした。
一番後ろの席まで探しながら歩いた。落ちているものはお菓子の袋のゴミや何かの布切れ。
リュックは見つからない。
一番後ろの席にきた。座席の下にリュックがあった。
緑のリュックだった。
俺はこの時、あることに気づいた。
それはバスの中のゴミが集団が通った後のような獣道をつくっていたこと。
トンネルを抜けるまではもちろんこんなにゴミはなかった。それにバスの中では大勢立ち歩かない。
…………と、なると…………。
何かが窓を割らずに荷物を破壊し尽くしその後に何者かの集団が龍ちゃん達や他の客を攫った? では、なぜ俺達二人を攫わない?
…………修介に話すか。
結論は出なかった。
バスを出て修介と合流。
「お! 兔賭か。ダウジングで決めたぞ。左斜め方向だ!」
「まぁ、コンパスも無くスマホも使えないから仕方がない」
「じゃ、行くぞ」
「あぁ、そうだ」
俺は移動しながら修介にバスのことを話した。
修介は
「確かに信じられんが、いきなりこんなところにワープして俺達二人残して乗客全員消えるのはおかしいからな。そうかもしれんな」
と言った。
俺は
「そうだ。俺のスマホ使えるか試してみよ」
修介は言った。
「歩きスマホは駄目絶対だ」
修介は何故かこういうところは厳しい。
「ごめんごめん」
立ち止まり電源を入れる。満タンなはずなのに使えない。点かない。
「駄目だ」
「やっばし駄目か」
俺達は歩いた。ひたすら歩いた。
…………どれくらい歩いただろうか。
体感では三時間ぐらいだろうか。
「おい! あれ。町じゃねぇのか」
「本当だ。…………町だ! 長かった! 腹減った! 早く行くぞ!」
俺達二人の前に広い町があった。
山を下り町に入る。
町は中世ヨーロッパ風の町だったが。
「おい。あの電球…………LEDだよな」
「…………あぁ」
中世ヨーロッパ風だが、よく見ると車がある。それも――――。
「あれデロリアンみたいじゃねぇか?」
「あれはボンドカー…………だよな」
科学が発達した中世ヨーロッパ風の町だった。
「とりあえず交番に行って皆の行方探してもらおうぜ」
「あぁ」
雰囲気はかなり違うが、交番らしいものはあった。
「じゃ、話してくる。一人の方が早く済むだろ」
「ありがとう。頼む」
修介は交番に入っていった。
しばらくして、修介は青ざめた顔で戻ってきた。
「通じない」
「え⁉」
「話しが通じない。話しというよりも言葉が通じない」
…………どうする? 今までは町に出れば何とかなるって思っていたが、言葉が通じないんじゃ――――。
もしかして――――。
「異世界とかに来てしまったのかも」
「え⁉」
「ほら、平行世界とかそういうの。だって、トンネルを出たらこんな場所に着いたっておかしいだろ。それに前を通っていた車が一台もここで見てないんだぞ。こんなのおかしいよ!」
グーッ。
「とりあえず腹減ったな」
「あぁ、リュックに何か入ってたら何か食べよう」
「食べながら考えればいいか」
公園のような場所があった(というよりほぼ公園)。
そこでベンチに座りながらリュックに入っていたビスケットと修介の持っていた苺飴を分けあった。
「異世界に来たんだからかわいい女の子に会いたい」
「は⁉ あんなの絶対おかしいよ! 異世界に飛ばされて何かの能力貰ってかわいい女の子のハーレム築くとかな、作者のただの妄想だろ」
「確かに」
休憩しながらこんな会話をした。
公園には五才ぐらいの男の子や六才ぐらいの女の子がボールを持って遊んだりしていた。
その子供達は染めたとは思えないぐらいの赤い髪の毛やアクセサリーとは思えないぐらいのエルフ耳があった。
「驚かんな」
「あぁ」
俺達は寝転がりながら言った。
「ドラゴンの子供とかいるんじゃねぇの」
「居そうだな」
公園には時計があった。何故か数字は分かる。時刻は三時十四分だった。
「眠いな」
「あぁ」
修介は目を閉じて言った。
「ちょっと眠るぞ」
「俺も」
目を閉じた。
どれくらいたっただろうか。
目を覚ますと、凄惨な光景が待っていた。
公園が荒れ果てていた。
時計台がねじまがっており周りの建物が半壊していた。
修介は隣で寝ていた。
「修介! 修介!」
「……………………ん⁉」
「ん⁉ じゃない! 周りを見ろ!」
「…………んだょ、コレ⁉」
リュックを持ち移動する準備をする。
「移動するぞ」
「おう」
公園を出ても凄惨な光景は続く。
「ひでぇ」
「あぁ」
交番の辺りで光景は変わった。
今までは半壊した建物だらけだったが、交番の辺りでは巨大な拳の跡のようなものが複数残っていた。
「ここだけ違うな」
「あぁ」
「誰かが暴れたのか」
「じゃあ、公園は?」
「他の奴だろ」
グゴオォォォォォォォォォォォン!!!!
タッッ!
「なんだあぁ⁉」
「暴れた奴か⁉」
音源はかなり近い。
「建物に隠れよう」
「あぁ」
近くの建物に入ろうとしたその時だった。
グゴオォォォォォォォン!!!!
「オまエは……モシャ……トと…………か?」
「お前は………………まさか………………⁉」
入ろうとした建物を踏み壊し登場したヤツの顔は………………。
龍ちゃんだった。