第八話 白昼は人間の時間
カーテンの隙間から差し込む朝日に桂木はゆっくりと目を開けた。最近やっと見慣れてきた古い天井、少しかび臭い匂い。漸く覚醒した意識でここは自分の家だと思い当たる。しかし家まで帰ってきた記憶がなく、ぼんやりとモヤのかかったように思い出せないことに眉をひそめた。
「……また」
ため息を吐きながら寝返りをうち、目を見開いた。天井以上に見慣れた水色の髪。鼻が触れ合うほどの距離にスヤスヤと眠る雪女の顔があった。
「うわあああああああああ!?」
桂木は驚いて飛び起きた。その声に雪女がそっと目を開ける。起き上がると同時に自ら掛けたであろうブレザーがパサリと落ちた。
「あら、おはよう桂木くん♡」
雪女はニッコリと笑って飛びかかる構えを見せた。
「わー! ストップストップ! やめて」
桂木は慌てて外に飛び出した。錆び付いた階段を軋ませながら駆け下りる。振り返って古びた家屋を見上げ、やはり自宅だと改めて確信した。フワフワと飛び降りてきた雪女をキッと睨む。
「雪女。僕は一週間前に引っ越してきたばかりなんだけど?」
「うん。五日前から知ってる」
雪女はシレッと言い放った。桂木は頭を抱える。雪女から逃げるためにわざわざ隣町の中学を受験し、わざわざ隣町に家を借りたというのに、雪女の監視下から逃れられたのはたった二日だけだったという事実に肩を落とす。
「大丈夫よ。桂木くんの生活の邪魔はしないって」
雪女はにこやかにウインクをした。そして珍しく遠慮がちに、そっと桂木の頭を撫でる。いつもと違う様子に桂木は首を傾げた。
「本当に……昼は人間なんだね」
雪女は残念そうに呟く。桂木は視線を逸らして唇を噛んだ。
「そうだよ。僕は人間だ」
「違う! 半分は妖怪なのよ。私たちと同じ……」
「嫌だ! 帰れ! 帰ってくれ!」
桂木は雪女を突き飛ばして部屋に篭って鍵を掛けた。