第二話 桂木招太郎は片思い
1年2組のクラスの扉は前も後ろも開け放たれ、当然その中からは賑やかな声が聞こえてくる。雪女から逃げるためにわざわざ隣町の学校を選んだ桂木は、親しい友達などいるはずもない事実に肩を落とした。しかし、重い足取りで教室に入り辺りを見回した桂木は、たちまち顔を輝かせた。
桂木の視線の先、前から2列目の一番廊下側の席。そこには短い黒髪とタレ目が特徴的な少女――安達ヶ原瞳がいた。桂木と同じ小学校に通い、何度か同じクラスにもなったことのある子だった。現在片思い中の相手でもある。
「ひ、瞳ちゃん! 瞳ちゃんもこの学校なんだね。しかも同じクラスだなんて!」
心踊らせる桂木とは反対に、読んでいた本から顔を上げた瞳はコテッと首を傾げた。
「……誰だっけ?」
桂木はその言葉にショックを受けたが、それを隠して笑った。
「ほ、ほら、小学校で一緒だった桂木招太郎だよ。覚えてないかもしれないけど……」
「ああ、桂木くん。たしか4年生の時同じだった……?」
「そう!」
「忘れててごめんね。よろしく」
「いや、もう3年も前だから……こちらこそよろしく!」
かろうじて瞳の記憶に自分がいたことにホッ胸を撫で下ろしながら、桂木は黒板を振り返った。久しぶりに真正面から話をして真っ赤になった顔を隠すためだったが、瞳はすぐに本に視線を戻していた。
黒板に貼られた紙で座席を確認した桂木はまたも心踊らせる。なぜなら、桂木の席は瞳の隣だったからだ。
(瞳ちゃんと隣だー!!)
桂木は叫び出したい衝動を抑え、グッと拳を握った。