第一話 雪女はストーカー
春、別れと出会いの季節。中学校の校門の前で一人の少年が大げさに深呼吸した。まだ少し冷たい空気が緊張で火照った顔を冷まして心地いい。
「よし! 今日から新しい生活の始まりだ!」
少年は新しい一歩を踏む出す。
「小学校からずっと付きまとってたあの雪女もいないし。僕はもう、妖怪なんかには関わらないんだ……ごく普通の在り来りな人間の生活を……」
「あー! 桂木くーん♡ やっぱりこの学校だったんだねー!」
突如聞こえた声に、茶髪の少年――桂木招太郎はギクリと身を固めた。ぎこちない動きで振り返り、サッと真っ青になる。その視線の先には手を振りながら満面の笑みで猛突進してくる女がいた。
「な、なんで君がここにいるんだよ、雪女!」
「やだなぁ! 私は桂木くんの行くところにはどこにでもいるよ」
水色の髪を赤いリボンでポニーテールに結んだ少女は、ギューッと桂木を抱きしめた。桂木は苦しい! と抗議して少女から離れる。
「桂木くん♡ 人間のときの私の名前は旭川雪子だから、桂木くんだけ特別に、ユキちゃんって呼んでいいんだよ♡」
雪子は可愛らしくウインクしたが、桂木はまた抱き着こうとする彼女から逃れるのに必死だ。周りを通り過ぎた男子が数人振り返っては目をハートにしている。
「呼ばないし離れて!」
「もう、つれないなー……そんなに照れなくてもいいのに♡」
「照れてないから! 寒いから、お願いだから抱き着くのだけはやめて!」
そう言い残して桂木は校舎に逃げ込んだ。人混みに紛れてあっという間に見えなくなったが、雪子はペロリと唇の端を舐めて笑う。
「逃げられないよ、桂木くん♡ だって同じクラスなんだから」
旭川雪子はストーカーである。