表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

00 プロローグ

18/1/8 全面改訂

 また、あの時(・・・)の夢を見た。


 珍しいことじゃない。

 この三年で、何度も何度も繰り返して見た夢だ。


 僕がその時、何を出来なかったか、ということと、僕がその結果何を失ったか、ということ。

 それを思い知る夢だ。


 湖というには小さくて、池というには少しばかり大きい。

 そんな水たまりが僕の生まれた村の傍にはあった。


 その水たまりの(ほとり)の草むらに、少女が立っている。

 その時少女は一一歳だった。

 黄金(きん)の髪に蒼玉(サファイア)の瞳。幼いながらも美しい少女だった。


 そして少女は水面(みなも)の上、そこに浮かんでいる一体の悪魔を怯えた目で見つめていた。


(セラ! そいつから離れるんだ!)


 心の中で今の僕が叫ぶ。

 だが、その時の僕はどうしようもなく臆病で、ただ木の陰で震えながら見守ることしかできなかった。


 悪魔は狼の姿をしていた。

 だがその尾は蛇であり、口からは赤い炎を生み出していた。


 悪魔は何かを呟くと、その額の辺りに魔方陣が浮かび上がる。

 魔方陣はセラのほうへと近づき、やがてその頭上から足元まで、円柱状の光でセラを包む。


(ダメだ! ダメだ、ダメだ、ダメだ、ダメだ、ダメだ、ダメだ!!)


 僕は動かない体をなんとか引き摺って、セラに駆け寄ろうとする。

 その時、僕の足元で枯れ枝を踏んだ、小さい音が鳴る。


 わずかな音だった。だが、狼は振り向いた。

 一瞬の後には僕の目の前に悪魔は現れる。


 喉の奥で、「ヒュッ」と小さな音が鳴る。


 違う! これは現実じゃない!

 あの時、僕はその場を一歩も動けなかった。

 こんなシーンはなかった。

 あの後、セラは意識を失って倒れ、悪魔は消えた。

 それからようやく僕はセラのところに行って、そして――。


 それなのに、狼の赤い目が僕を覗き込む。

 赤い目が、僕の頭の中に入り込む。そして、そして、僕の全てを……。




 僕はそこで目を覚ました。

 窓の外はまだ暗かった。

 息が荒い。体中が汗で濡れている。だが、やはりあれは夢だった。

 僕はベッドの上で安堵のため息を吐いた。


 最近またこの夢をよく見るようになった。


 三年前に毎日のように見た夢。

 それから暫くはあまり見なくなっていたが、この街に着いてからはまた頻繁に見るようになった。


 やはり、ここに来てから自分の目的を強く意識するようになったからだろうか?

 あの時、なにもできなかった自分の負い目を乗り越えなくてはならない。


 冷静に考えれば、あの時セラと同じ歳の一一歳でしかなかった僕に何が出来たはずもない。

 セラも僕に、責任を感じる必要などない、と言ってくれた。


 だが、それでも。

 それでも、目の前で幼馴染の少女が悪魔に呪われる瞬間は、消しようがない悪夢として僕の記憶に残っている。

 仲が良かった村で唯一の同じ歳の少女は、今ではあの時よりもさらに若返ってしまっている。

 彼女はいずれ、さらに時を遡るように幼い姿に戻って行き、最後は消えてしまうのだ。


 そう告げたのは、教会の高名な司祭様だった。

 そして彼女はこうも言っていた。

 自分の力では、この呪いは強すぎて解くことは出来ない。

 もしセラの呪いを解くことができるとしたら、アグレスの大迷宮にあるという、強力な魔力を帯びた素材を元に作られた薬だけだろう、と。


 そして今、僕は(ようや)くここに来た。

 この、世界最大の迷宮(ダンジョン)、アグレスの大迷宮の拠点となる街、ザルフ・ユイムに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ