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とある事情の  作者: 海月
6/19

意外な

 そんなこんなで,私は新居に連れてこられた。そして今,キッチンに立っている。

新居は新築のタワーマンションの最上階だった。この部屋いくらしたんだろう。絶対2人暮らしの広さではない


車の中で,食事はどうするのかと尋ねた私に対して久我誠也は,


「好きにすればいい,コンビニ弁当が嫌なら毎日外食でも構わない」と答えた。


「健康に悪。」ボソッと私がこぼすと。睨まれた。


「だから何だ。言っておくが家政婦は雇わないぞ。コンビニ弁当や外食が嫌なら自分で作ればいい。作れるもんならな。」この言葉にカチンとくる。


「わかりました,それでは台所を貸してもらいます。何ならあなたの分まで作りましょうか?」


「じゃあ,よろしく頼むよ。」嫌味な笑みを浮かべながら彼は答えた。どうせ,私が料理なんてできるわけないと思っているのだろう。

 よし,驚かせてやろうではないか。


 そして,値段設定高めのスーパーに寄ってもらい。今現在,私は最新鋭の対面式システムキッチンに圧倒されている。調理器具の品ぞろえもすごい。有名な刀職人の作った包丁とか,何万円もするジューサーとか,なぜかかき氷機まであるし。

 これを自由に使っていいと言われたのか。じわじわとテンションが上がる。今日からここは私の城だ。


 にやにやしながら,ルーから作る本格的なビーフシチューに取り掛かる。まず,ニンジン・玉葱・ジャガイモを適度な大きさに切って圧力なべにかけてっと。

ビーフシチューをぐつぐつ煮込む間にアンチョビを使ったサラダを作る。セロリを嫌う人は多いけど,そんなこと知ったこっちゃない。

もし食べられなかったら笑ってやろう。

 

これだけだと寂しいので,カプレーゼも作る。これはモッツァレラチーズとトマトを切って並べて並べるだけ,とっても簡単だ。

あとはフランスパンに,ガーリックオイルを少し垂らして香ばしく焼く。

 料理をテーブルに並べるころには,自室にこもっていた彼も出て来た。どうやら匂いにつられたようだ。テーブルの上を凝視している。私が作ったのが信じられないんだろうな。


「では食べましょうか。」私は座るように促した。


 2人で向かい合って手を合わせる。きちんと手を合わせる彼を,少し意外に思いながら眺める。彼はまずビーフシチューをスプーンですくって口に運び,そして目をまん丸にした。


「これは本当に君が作ったのか?市販のルーとかではなくて??」


そういう表情をしたら,冷たい顔立ちがずいぶんかわいくなるんだなと思いながら答える。


「ええ,赤ワインとトマトピューレで作りました。実家では毎日作っていたので料理は得意なんです。」


そう,私の家では珍しく家政婦を雇っていなかったのだ。たまにハウスクリーニングは入っていたが。何しろ父親はほとんど家にいないのだから,必要ないと思ったんだろう。でも,私は毎日外食が嫌で,中学に入る前から,母親の料理ノートを引っ張り出して作るようになったのである。

このビーフシチューも母親のレシピだ。


人と食事をとるのは久しぶりだなと,しみじみ考えていると。


「てっきり見栄を張っているだけだと思った。」と,彼が言った。

知っている。


「でしょうね,顔がそう語っていましたよ。」私の言葉に彼はおかしそうに表情を緩めた。


初めてみる彼の本心からの笑顔だった。


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