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とある事情の  作者: 海月
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冷たい現実

 突きつけられた現実に息が止まりそうになった。

 確かに,私の婚約と同時に,父から再婚の話を聞いていた。相手は資産家として有名な御園家の三女だ。父より10程年下で,私の母が亡くなった7年前から,付き会っている。急な再婚は,彼女が妊娠したためらしい。はっきり言って衝撃だった。そして同時に,余りに手際のよすぎる私の婚約に疑問を抱いたのだ。


そして彼はこう言った。

「君のお父さんははっきりと『再婚に娘が邪魔だ』と言っていた。新しい家庭を築くのに異分子はいらないと。君は再婚相手と折り合いが悪いんだろう?居心地の悪い家に住みたくないのではないか?」


 そのナイフのような言葉に胸がぐられる。薄々わかっていた。父が自分を邪魔だと感じていたことは。私は,父の再婚相手がはっきり言って嫌いだったのだ。彼女はずっと前,それこそ学生のころから父に恋をしていたらしい。それ故に,父を奪った私の母のことが許せず,その娘である私を憎んでいるのだ。父の前では儚げな美人を演じているのに,私のことを憎悪を込めた目でにらみ,父が母に送った母の形見を身に着ける彼女をどうやったら好きになれるだろうか。私は再婚などしてほしくなかった。どうして,家にあの女がいることに耐えられるだろうか。

 父との冷たい親子関係のことは諦めていた。でも,一片の愛情すら,父は私に感じていないという事実を突きつけられると,心が凍てつくのを感じた。

 しかし,家に居たくないことと,婚約に何か関係があるのだろうか。


彼は一人称を変え,続けた,

「俺の父親も近々再婚する。家に居たくなかったし,都合がよかったんだ。新婚の邪魔をするような無粋な真似はごめんだ。一人暮らしは外聞が悪いしな。それに最近周囲がうるさくてうんざりだったから,お飾りの婚約者,ああすぐに婚姻届けを出すから妻か,居れば多少はおちつくかなと。同居すれば周囲も流石に静かになるだろう。」


 妻,同居という単語に頭がまっしろになる。私は呆然とする。父からは婚約という話しか聞いてない。そんな私を見て,彼は言い足した。

「ああ,君のお父さんから聞いてなかったのか。俺はもう誕生日を迎えているから結婚できるし,婚約者だと法的な縛りはなにもないだろう?君の身の安全のためにも,同居の世間的な言い訳のためにも結婚という形にした方がいいだろうと思ったんだよ。もちろん形だけの結婚だから,一切の接触は強要しないし,お互いの外での男女関係には口出ししない。それに,本当に結婚したい人ができた場合には,速やかに離婚しよう。ああ,でも大学を卒業するまでは,婚姻関係は継続だ。それ以降なら何ら構わない。」


 彼の発言は理解したが,頭が処理に追いつかない。いやいや,高校生で婚約ならまだしも結婚はないだろう,結婚は。

しかし,どうせいつか政略結婚させられるだろうし,大学卒業まで我慢した方がいいかもしれない。バツのついた娘を流石に政略結婚には使えないだろう。大学を卒業したら自由を手に入れられる。

 深く息をついて心を落ち着ける。

確かに,悪い話ではない。彼は既に既婚者の兄を持っているから,そこまで世間の騒ぎにはならないはずだ。双方にメリットはある。頭を落ち着けて,情報を冷静に処理する。そして私は,おもむろに口を開いた。


「わかりました。お受けします。」と。

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