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とある事情の  作者: 海月
2/19

翌日

次の日,成人式でもないのに振袖を着せられてホテルに連れてこられた。


 昨日,あれから父に問い詰めると,詳しい事情を話してくれた。これから顔合わせをする,久我誠也の父親,つまり久我ホールディングスの社長と父は学生時代の友人だったらしい。アメリカでMBA(経営学修士)を取得する際知り合って意気投合したらしい。

 

 父がMBAを取得していたというのは初耳だが,確かに,それなら会社の急成長もうなずける。

 

 話を戻して,父と久我の社長はもともと,子供が生まれたときに婚約者にすることを考えたんだそうだ。父は高い立場にある友人とより強い結びつきを作れたら嬉しいと打算的に考え,婚約には乗り気だった。しかし,この時代に親の勝手な決定で子供の将来を決めてしまうのは時代錯誤だと,久我の社長は首を縦に振らなかったそうだ。

 

 だが,1週間ほど前,久しぶりに飲みに行き,お互いの近況を報告しあったところ,お互いの子供の話になった。以前話した婚約者にするという話を思い出し,事業提携の話が出ていたからちょうどいいんではないかと,とんとん拍子に婚約者にすることが決まったんだと。さらには,久我誠也はもう承諾済みらしい。(確かに誓約書に署名があった)


 そういうわけで,今目の前にその久我の社長と久我誠也が座っている。


 久我誠也の容姿は,一言でいうと怜悧な美形だ。烏の濡羽のようなつややかな黒髪に,形の整った眉,すっと通った鼻筋に,切れ長の一重。私と似た系統の冷たい印象を与えるような顔立ちだ。

その父親の久我社長はあまり似ておらず,こちらはダンディーなおじさまという感じだ。温かみのある容姿に見えるのは笑顔のせいもあるのだろうが,息子とはタイプの違う美形だ。


この,美形しかいない空間は空間は居心地が悪い。


 ちなみに,今私たちがいる無駄に豪華なホテルも,久我ホールディングスの傘下の会社が経営しているらしい。このホテルは一般の客室に宿泊するにも,サラリーマンの月収ほどの料金が必要だと,聞いたことがある。・・・本気で婚約を辞退したくなった。


 気を取り直して

今はお父様方は我々そっちのけでビジネス提携の話をしている。すると,久我誠也が切り出した


 「父さん,2人だけで話がしたいんだけどいいかな。」と。


父親2人に見送られて,ホテルの庭へといざなわれた。少し日差しのきつい5月の太陽の元を,無言で彼の背中を追いかける。振袖だからすこぶる歩きずらい。やはり,着物は眺めるだけでよい。そんなことをつらつら考えていると,ホテルの本格的な英国式庭園のガゼボ,西洋風のあずまやに到着した。座るように促され,彼の対面に座る。


そして,彼はこう言い放った。


「この婚約は互いのメリットを鑑みたうえで承諾した。はっきり言って,私はお飾りの婚約者を求めていた。君に対して興味はないが,都合がよいので話に乗ったまでだ。」


・・・まあそうだろう。私は予想していたようなセリフにほっとした。彼のような人に望まれていると,うぬぼれるような性格ではないし。

 この様子なら断っても角は立ちそうにない。安堵して自分の中では,ほぼ断ることが決定した時,彼は皮肉気な笑みを浮かべてこう言った。


「君にとっても悪い話ではないだろう,父親と再婚相手の邪魔はしたくないのではないか?」と。




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