告白
キィという音で我に返る。しまった。
「ここで何をしている。」
彼が帰ってきてしまった。奇妙なほど無表情で、ゆっくりと私の方に近寄ってくる。
「どうやってこの部屋に入ったんだ?」と絶対零度の声で聞かれたので、黙って素直にヘアピンを見せた。
「なるほどな、そうまでして俺から逃げたかったわけか。それを読んだんなら、もう俺の気持ちも知ってしまったんだろう?」そう言って、私が抱えていた日記帳を一瞥した。
「あなたの気持ちは分かった。でも、なぜ私を恨んでいるのかがわからない。」私は、彼に何をしてしまったんだろう。
「は?恨んでいるのはお前だろう。」彼が、眉間に皺を寄せる。
ん?どういうこと?
「どうして私があなたを恨むの?」
「何を言ってるんだ!俺の一方的な嫉妬で、お前は好きでもない男に手籠めにされたあげく、監禁されているんだぞ!!恨んで当然だろう!」
んん?嫉妬??
「嫉妬?誰が誰に?」
「俺がお前の恋人にだ!」
はい?私に恋人はいないし、もし居もしない私の空想の彼氏に彼が嫉妬しているならばまるで…
「まるで、あなたが私のことを好きみたいじゃない。期待させないでよ。」心の声がこぼれた。
「みたいでなくて好きなんだよ!!お前日記読んだんだろ!…ん?期待??」彼が苛立たしそうに告げた後、困惑したようにつぶやく。
2人して固まってしまう。たっぷり数秒間考える。
スキナンダヨ?あれ、これ何語だっけ。
彼が?私を?
「ええええええええええええ!!!」私は思わず叫んでしまった。
彼はぽかんとしていた。イケメンでもあほ面は間抜けなんだなと、心のどこかで冷静に思った。
――――――それから、お互いに落ち着いて座って話し合った。
「私はずっとあなたのことが好きだったんです。でも、一方的な思いは迷惑だと思って出て行きました。」
私は彼に正直に気持ちを打ち明けた。ずっと好きだったこと、この不確かな関係がいつか終わることを覚悟していろいろと準備していたこと。そして、継母から彼に恋人ができたと告げられ、邪魔な私は消えようと思ったこと。
継母の下りで彼が恐ろしい顔をしていたのは余談だ。
彼もずっと私のことが好きだったらしい、気づいたのは最近だそうだが。彼のお義母さんへの気持ちはもうとっくに過去のものになっており、そして、契約の関係を正しい関係にしようと思って動いていたそうだ。日記にはそれが全て書かれていたんだと。
私を無理やり抱いたのは、私と辻さんが恋仲で、同居していると勘違いして嫉妬したためらしい。これについてはしっかり謝罪があった。
「お前の気持ちを無視して、事に及んだのはすまないと思っている。でも、お前が新しい相手を見つけたと知った時、目の前が真っ赤に染まったんだ。心は俺のものでなくても、体なら力づくで手に入れられると。お前が例え俺のことを拒絶しても、手放せないと分かっていたから閉じ込めた。お前が俺を恐れているのも分かっていたが、一生監禁すれば、ずっと俺だけのものだと。幸い離婚届はまだ出していないし。」
…彼の狂気が見え隠れする言葉に、逃げ出すことを再検討した。
それでも、
「契約ではなくて、愛している。」
改めて彼が気持ちを伝えてくれた時は嬉しくて泣いてしまった。
「私も誠也さんを愛しています。」