対面
憂鬱な気分で継母とのお茶会?を迎える。指定されたカフェでうとうとしている。
最近は眠りが浅くてぼうっとしてしまう。今日は大学でもたった1人の友人に心配されてしまった。
この友人は大学に入ってから,優良物件との婚約によって,少し遠巻きにされていた私に声をかけてくれたいいやつだ。彼女の家も割と大きな資産家だが,お嬢様という感じはあまりなくざっくばらんな性格だ。
…外見はかわいいのにあけすけで,実は腐女子で,彼との同居についても興味津々に聞いてくる。実に残念な友人だ。
ちなみに私と彼の関係は清いままだ。何度伝えてもこの友人には信じてもらえないが…。この手の話には疎いので切実に遠慮したいのだが。
このようにとりとめもないことをつらつらと考えていると。継母がやってきた。清楚で品の良い格好だが,すべて高そうなブランドで固めている。相変わらず黙っていれば儚げな美人だ。子供がいるとはとても思えない。
「お待たせしたかしら?」
「いえ,時間通りです。早く要件を。」
時間を無駄にしたくない。
「そんなに急かさなくても。」
クスクスと獲物をいたぶる猫のような顔で,テーブルの上で1つの封筒を差し出してきた。
何だろう。
書類が入るには小さい?写真がちょうど入るようなサイズだ。
「開けてごらんなさい。」ほくそ笑む継母に嫌な予感がする。
ソーイングセットから小さなハサミを取り出して封筒を開ける。出て来たのは案の定,数枚の写真だった。そしてそこに写る人物には見覚えがあった。
―――これは。
「…この写真は何?」
震えそうになる声を押しとどめて,平静を装う。それでも顔色までは隠せなかったようだ。
継母はそんな私を見てにやにやして言った。
「何って。あなたの旦那様と愛人の密会現場かしら?でもどうせ契約結婚なんだから愛人はふさわしくないわね。この場合邪魔者はあなたよね。」
そう,その写真には女性と楽しそうに話しながら,ジュエリーショップを散策している彼が写っていた。
―――彼がそんな顔をするのは,彼のお義母さんの佳乃さんの前だけだと思っていたのに。
「この女性,実は私の血の繋がっていないの妹なの。会社のための結婚だったのでしょう?だから,私の義妹が彼の相手でも何の問題もないの。あなたはお役御免ね。あなたのお父様も貴女たちの離婚と同時に義妹との婚約を進めることには賛成だって。当然よね,あなたとのつながりを断ち切れるんだから。もう大学を出るんだから自分の力だけで生きていけるでしょう?」
継母の言葉がナイフのように突き刺さる。
継母は続けた。
「あなたのお父様はね,前の奥さんのことを思い出すからあなたを見たくないんですって。あんまり容姿は似てないのにねえ。可哀そうに。」
そんなこと知らない。実の父に対する情は捨てたはずなのに,閉じた傷口がまた開く。
「そういうことだから,身の振り方でも考えた方がいいんじゃないかと思って,わざわざ教えてあげたのよ。私,優しいでしょう?」
継母は勝ち誇った顔で告げた。その顔にして平静さを取り戻す。
私は大きく息を吸った。
大丈夫。この結婚はお互い好きな人ができるまで,おまけに2人の間で決めた期限は卒業まで。どのみち彼との関係は終わるはずだったのだ。父との関係だってとっくに諦めていた。
この女の喜ぶような無様な顔なんて見せてやるか。
私はぐっと表情筋を引き締めた。動揺なんて微塵も見せぬように。この時だけ,あまり表情の変わらない自分の顔に感謝した。
「話は以上ですか?では失礼します。」
継母は,私が思ったよりも冷静にしているのでおもしろくなさそうだった。可愛げがないとかつぶやいている。
私は優雅に見えるように微笑んで,テーブルに千円札を置き,足早に店を後にする。
さあ,腹をくくらなくれば。彼とのぬるま湯のような時間は終わったのだ。やることは山積みだ。手始めに近くの区役所へ向かった。