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襲撃1

人々の噂話しは正規の報告より遥かに早く伝わる。チムガの下にン・ハム山噴火の報告が届いたときには、既にチムガはその事実を知っていた。行商の旅人から市民が聞き、市民の噂を兵士が拾ってきたのである。この街では風向きの関係で噴煙が流れてくる事はないが、ン・ハム山の裾野では、朝にも関わらず、夜のように薄暗かったという。街の人々は改めて、焼き殺された人々の怨念だと言い合った。


 不吉なうわさ話など無視するように、チムガが率いる出迎えの一行は、予定通りの時間に館を出発した。その隊列に乱れがない。

(それにしても)

 チムガは腹立たしく考えた。

 屈強な下僕が四人、チムガが載る輿を支えて運んでおり、輿の前方には兵士が三十名いる。さらに、二十名の兵士がガルムと共に輿の後から続いている。

「たった小娘一人のために」

 チムガはそう呟いた。舌うちしたい気分なのである。このムウ帝国の都サクサ・マルカには、血縁や政治やその他の利害にもとずく派閥がいくつかある。チムガのような田舎領主が生き残るために、その派閥のいくつかに乗らねばならない。

(一つではダメだ、しかし、忠誠心を疑われるほど多くてもいかん)

 それがチムガの持論である。その派閥の一つから、今度派遣される視察使を丁寧にもてなせとの命令が来た。三日前にも、視察司の一行から同様な先触れの使者が同じ事を告げていた。彼の忠誠心が問われているのである。妙な事に、別の派閥から別の指示が届いている。都の内情を考える事に意味はない。複雑に絡み合った宮廷の利害は地方の領主に判断できるものではないのである。

 チムガが知っているのは、視察使を失礼の無いように丁重に出迎えねばならない事と、殺さなければならない事。その視察使が昼頃にこの辺りを通る事、その視察使が十三歳の小娘であると言う事だけである。もちろん、彼は視察司を丁重に出迎えて、その一行を皆殺しにつもりで居る。

「殿、間もなくお迎えの場所に」

 チムガの傍の輿にいるグーロンがそう言った。

「では、お前も手はず通りに」

 チムガはグーロンにそう指示を与えた。チムガ自身は十人ばかりの弓隊を薮の中に伏せ、残りの兵士の隊列を整え、貴人の出迎えの手はずを整えた。

 グーロンは下僕に命じて彼の輿を引き返させた。チムガとかなり距離をおいて、あのガルムという辺境者が続いてくるはずだ。ガルムにつけた二十名の兵士に新たな命令を与えねばならない。


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