ルシュウ宿を去る2
あくる日、ルトはルシュウが荷作りをする音で目が醒めた。ルトはしばらく目をつむってその音を聞いていた。この少年ともここでお別れかという思いと、サクサ・マルカにまで送り届ける事が出来ないという思いが絡んで、ルシュウと顔を合わせて何を話せば良いか分からないのである。
やがて、ガルムが目を覚ましてルシュウの存在に気づいて言った。
「これからは、儂らのような勇敢な護衛者がおらぬゆえ、道中気をつけよ」
ルトも今し方目を覚ました振りをして、ガルムに同意した。
「うん。気をつけろ」
ルシュウは屈託なく微笑んで、荷作りを再開した。しかし、ふと思いついたように、荷をあけて小包を探り当て、ルトの傍らへ行くと小さな包みを差し出した。
「これ、持って行け」
ルトに小さな包みを渡し、ガルムにも別の包みを渡した。ルトの包みは黒曜石でできた美しい小刀であり、ガルムの受け取ったのは薬草の袋である。ルシュウは餞別のつもりらしい、ルシュウはそれ以上何も言わずに荷作りを再開した。
ルシュウとガルムらの別離は、非常にあっさりしたもので、二人は酒場の入り口から去って行くルシュウを見送っただけだ。都に案内すると約束したものの、二人がその約束を放棄した事について、少年は彼らに何も非難じみた事は言わなかった。それがかえって残された二人の罪悪感を煽った。




