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港町

う◯プリは音也君とレン様が好きで、フィギュアも持っているのですが、最近は翔ちゃんが気になってきています。

「あーっ、暑い…。」

見渡す限り続く大平原を貫く細長い街道を歩きながら、俺は思わずそう零した。頭上には雲ひとつ無い青空から燦々と降り注ぐ太陽。王都を発ってから半日あまり、炎天下で重い荷物を背負って進む旅路に、俺の乏しい体力は払底しつつあった。

「あとどれくらいなんだ?俺はもう限界だよ…。」

日々の鍛錬の成果なのだろう、この程度の行軍ではビクともせずに涼しい顔で歩いている騎士達に情けない声でそう問うと、アンディが励ますように言う。

「あと少しですよ、頑張って下さい。」

「はぁーぃ…」

元気も張りも失っただらしない声でそう答える俺の手が、ふと軽くなった。慌てて手元を見ると、ティトが元気に笑っている。

「少し持ちますよ、トール様。俺、このくらいへっちゃらだし。」

「いや、でも、それはさすがに…」

自分より2歳年下の、体格も小柄で顔立ちも明らかに幼いティトに荷物を持たせるなんて、幾ら何でも情けない。そう思って荷物を取り戻そうとする俺に、ティトはニカッと輝くような笑顔で言った。

「俺に持たせて下さいって。ほら、これも鍛錬の一環みたいなもんだし。それに、騎士としての訓練中には、この倍近い荷物を背負って雪山を登ったこともあるんですよ?」

そう言って、このくらい何でもないという風に、早足でスタスタ行ってしまう。すっかり忘れていたけれど、ティトはその可愛らしい外見に反して、思いっきりオトコマエな性格なのだ。たぶん、七人の騎士達の中でも最高に。

「ほら、トール様、こっちです!早くこっちきて、見て下さい!」

先頭を歩いていたティトが、小高い丘を登りきった先で手招きしている。息を切らせながら丘を上りきる。

「わぁ…!!」

思わず歓声を上げていた。丘の上からは、蒼く広がる海と、手前に広がる瀟洒な街並みの港町が見える。港には何隻もの帆船が泊まり、街を貫く大通りは人でいっぱいだ。活気ある港町の賑やかな声が聞こえた気がした。最初の目的地、この国最大の港町ルドヴァだった。


通りの両側の店から、食欲を刺戟する香辛料の匂いと、ぐつぐつという鍋が煮立つ音が漏れてくる。商店主達の威勢のいい掛け声と、負けじと大声で交渉する客達の声、世界各地から集まった船員や旅人の話し声、さらには弾き語りや大道芸人の発する歌や声まで混じり合い、言語も声音も千差万別な、賑やかな喧騒が耳を満たす。見たこともない珍奇な品々や動物達が並ぶ通りを、色とりどりの華やかな衣装を纏った異国風の旅人が行き交う…。

「どうです、神官様、我が国最大の市場は。どんな名産も珍品も、ここで手に入らないものはありませんよ。」

自慢げな声でそう言ったのはセルジュだった。この街や、街一番の名所で市民の誇りでもある市場を紹介する時の彼の言葉は、とても誇らしげだった。この街はセルジュの故郷なので、無理もない話ではあるけれど、それでも俺は彼の新たな面を見つけた気がした。

ルドヴァで一番の旅亭に宿をとった俺達は、その足で市場に繰り出していた。この旅は神官と騎士達の関係を深めるのが目的なので、こういう観光的な要素も組み込まれているのだ。ゲームの中でもこのイベントは有った。

「本当に、珍しいものが沢山あるのですね…!」

感嘆混じりにイライジャがそう呟き、セルジュはそんなイライジャを相手に満足げに色々教えてやっている。普段は喧嘩ばかりしている二人だけど、今日は珍しく親しげに言葉を交わしていた。

珍しいこともあるもんだな、と思いながら歩いていると、エーリヒが屋台の一つを食い入るように見つめているのに気付いた。視線の先を追うと、綺麗な砂糖菓子が幾つも並んだ屋台が有った。頭の中でエーリヒと砂糖菓子が結び付かず困惑していると、そんな俺の表情から内心を察したのだろう、アンディがくすりと笑ってから言った。

「エーリヒはああ見えて、甘いものと可愛いものに弱いんです。意外でしょう?俺も最初は驚きましたよ。」

そう言って、エーリヒの腕を掴んで仲良くその屋台に向かって行った。騎士達には本当に、俺の知らない面があるなあと思っていると、今度はティトが駆け出したのが見えた。また屋台か、と思ったら違って、走り寄ったのはルーファの元だった。

「もーっ、なにやってんだよ!」

「いえ、この不思議な機械はどうなっているのかと…」

ルーファはどうやら、怪しげな露天商の並べた子供だましのガラクタに引っかかったらしい。騎士達の中で最も博識で、天体の運行から地の果ての動植物まで知らぬものは無いと称えられるルーファの別の面、世間知らずの天然気味な青年という面に、エーリヒのオトメンっぷり以上にビックリさせられる。最も、ティトは慣れているのか、巧みな言葉でルーファを誘導していた。

「ほらルーファ、あっちで舶来の珍しい古書を売ってたぞ。」

「本当ですか⁉︎」

そんな会話と共に、ティトに腕を引かれてルーファは歩み去った。小柄で見た目も幼いティトが、頭一つ分ほども背丈の違う、長身で大人びたルーファのエスコートをする。騎士達の、また別の面を見たようだった。

驚きの連続から覚めて、ふと気付くと俺の周りはすっかり寂しくなっていた。あれ、俺、いま一人ぼっち?ちょっとちょっと、仮にもヒロインと同じ地位にある俺を無視して男同士で仲良くしないでよ、一応BLゲームじゃなくて乙女ゲームなんだからさ…いや、もしかして、男の俺が召喚された段階でBLゲームにシフトしたのか?

そんな下らないことを考えていた俺のすぐ横で、突然赤子を抱いた若い女性が周囲に響き渡る大声で訴え始めた。独特の芝居掛かった口調で聞き取りにくいが、この子が重い病気に侵されています、どうか皆様のご援助を、みたいなことらしい。その声は情感たっぷりで、俺は思わず引き寄せられてしまう。目が合って、彼女が歩み寄ってきた。

「あっ、ヤバっ…」

考えてみれば、俺は金を持たされていない。払いたくても払えないのだ。さりとて、踵を返して逃げだずのも躊躇われ、その場に立ち尽くしていると、突然腕を掴まれた。

「何をやってるんですか。ほら、行きますよ。」

腕の先には呆れたような顔をしたクラウディアスがいた。素直に従いながらも、思わず疑問を口にする。

「良かったのかな?あんな小さな子を…。」

「あれはああいう商売なんです。子供も大抵は自分の子供じゃありませんよ。」

「あ、そうなの?」

拍子抜けしながらそう言った俺の腕を離しながら、クラウディアスはまだ呆れたような表情のまま言った。

「神官様はアンディ達よりは世慣れていると思ったのですが。物乞いを見るのは初めてなのですか?」

「うーん、そうだなあ。少なくとも俺の国には、あそこまでアクティブな物乞いはほとんどいなかったと思うな。国民性もあるんだろうけど。」

「そうなのですか。きっと豊かな国なのでしょうね。いつか行ってみたいものです。」

どうも騎士達は俺のことを、全くの異世界の人間ではなく、どこか別の大陸にある遠い国の人間と思っているらしい。歴代の神官達は国内や隣国から召喚されていたらしいから、異世界から来たと言われても信じられないのも無理は無いが…。

クラウディアスと二言三言交わしながら歩いていると、ふと露天の一つに目が止まった。その店では軒先に帽子を幾つか並べていたのだけれど、今日一日暑い日差しに照らされた俺は、軽くて涼しそうな麦わら帽子に惹かれるものがあったのだ。そんな俺の視線に気付いて、クラウディアスが店主に声を掛けた。

「おやじ、これは幾らだ?」

「120ソリドゥスでさあ。ちょっと高いと思うかもしれませんが、これはシュラクサ産の特殊な素材を熟練の職人が…」

能書きを垂れる店主を前に、俺は思わず顔をしかめる。この世界の貨幣価値を完全に理解しているわけではないが、提示された額は王城の兵士の数日分の日給に匹敵する額だった。肩を竦めて立ち去ろうとする俺を引き止めて、クラウディアスが口火を切る。

「これと似たような品が、向こうの店で10ソリドゥスで売っていたが?おやじ、稼ぐのは良いが、儲けすぎは良くないぞ。」

「ちょっと待って下さいよ、これだけの品を10ソリドゥスではこっちが大赤字でさあ。どんなに下げても80ソリドゥス、これ以上はびた一文下げられませんね。」

店主の言葉に、クラウディアスがさらに激しくまぜっ返す。脅したりすかしたりしたかと思えば、店主を褒めそやしたり、全く関係ない世間話で盛り上がったり。結局、長い話し合いの末に、クラウディアスは20ソリドゥスで麦わら帽子を購入した。

「はー、大したもんだ。」

感心してそう呟いた俺に、クラウディアスは苦笑混じりに返す。

「貧しい庶民の知恵です。本音を言うと、こんな格好をしていなければあともう5ソリドゥスは下げられたでしょうが。はい、どうぞ。」

そう言って手渡された帽子とクラウディアスの顔を交互に見ながら、困ったように答える。

「いいのか?俺、一銭も持ってないぞ。」

「神官様には昨日今日と随分助けて頂きましたから、ささやかなお礼です。それに、私はそれなりに給金を頂いていますから。この程度のもので神官様の好意を買えるなら安いものです。」

こいつのこういう憎まれ口的な物言いに慣れてきつつあった俺は、少し怒って言う。

「そういう言い方するなよ。」

それから、お前はそんな奴じゃないと言いそうになって、思わず口をつぐんだ。俺は何を考えてるんだ?こいつはそういう奴じゃないか!

最近の俺はおかしい、と改めて思う。アンディを守護騎士に選ぶつもりなのに、気がつけばクラウディアスとばかり一緒にいる。しかもそれが全然嫌じゃなくって、ついこの前まであんなに嫌いだったこいつに対して、親しい友達のような感情を抱いている。

俺はこいつを嫌いでなきゃならない、俺自身のためにも他の騎士達のためにも、こいつに気を許さず警戒を怠らないといけないと頭では考える。けれど心の反応は真逆で、こいつがたまに見せる素直な笑顔や親切に、つい嬉しくなってしまう。

「神官様、どうなさいました?」

突然黙り込んだ俺に、怪訝そうな、少し心配そうな顔でクラウディアスが尋ねる。その顔は心底不思議に思っているようで、こういう顔をしている時のこいつのことは、やっぱり嫌いになれそうもなかった。

「い、いや、何でもねーよ。ともかく、俺相手はともかく、他の奴らにはそういう憎まれ口を叩くなよ!」

咄嗟に、まるで自分だけはお前のことを理解しているとでも言いたげな物言いをしてしまって、何を言ってるんだと頭を抱える俺に対して、クラウディアスは素直に頭を下げて、「分かりました」と言って微笑む。その笑顔は心底嬉しそうで、それを見ると俺は何も言えなくなってしまう。遠くからアンディ達が走ってくるのが見えて、俺は少しホッとした。


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