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代償の異世界記  作者: リョウ吉
第1章 始まりの日々
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七話 見聞の旅

見聞の旅路


ボブス領を経ち一週間が経過していた。

俺はボブス領にほど近い王領地の商業都市の役所により旅券を発行している。旅券とは言わゆる身分証明書、ギルドの発行するステータスカードと同様のものなのだがこちらはギルドカードとは異なり、関所によって通行税を支払う必要のあるものである。ギルドのものはランクによって拠点範囲が定められているため、通常遠方に足を運ぶ場合は両方用意しておく必要がある。叔父が俺のために用意していたのもこの旅券である。

今回は行先が本家のある東部なので俺の冒険者ギルドのランクでは満たされていなかったのだ。

旅券を発行した後、俺は徒歩で中南部を経由して東部を目指している。当初は時間を短縮するため転移魔法と乗合馬車を利用しての旅路を考えていたのだが、叔母たちの旅費がたらないだろうことを当家の財政事情から思い出し、慌てて一度叔母の元を訪ねている。転移魔法が使えることを一部の人間に知られているため叔母にも伝えるつもりで訪ねている。

叔母は叔父の死を悲しみながらも貴族の婦人らしく振舞い、今後のかじ取りを仕切ってくれた。おかげで俺はこの世界の見聞の旅という予定が決まったのである。

叔母に旅費を渡した後、急ぐ必要のない旅だということも確認している。実父の方が妻の機嫌を気にしてか俺の身の振り方に無関心を装っている。それは俺を気にかけてくれている実父の側近の老臣から伝えられている。

サンドマン伯爵家の庇護があれば俺に相応しい地位が認められるはずと嘆いていたのだが、今の俺の価値観に支配されているルーベンは権力者を心底嫌っていしまう。貴族の政治家など奴らを連想させるため政治にかかわるつもりはない。

前世も今も政治家に嫌悪を抱いている。

本来、ボブスからは馬車で急いだところで20日はかかる道のりのため、俺は徒歩でルーベンの記憶や予備知識を補足するための見聞の旅を叔母の指示もかねて行うのである。

なのですぐにボブスに戻り、商業都市に移動していた。


商業都市では潤沢な所持金を活用し旅の身支度を新調している。

ダンジョンで得たアイテムはほぼ売却している。いくつかのレアアイテムは残しているものの懐は十分に温かい。

叔母からも当主の証である王家から授かっている家宝の剣を与えられているため武器の新調は見送っている。法衣貴族、文官の家には不釣り合いなほどの剣、ルーベンの養育費も兼ねて下賜されたものらしい。

マントやブーツ、食糧といったものも買っている。本来なら旅に欠かせない薬の類も回復魔法や治癒魔法を使える俺には不要な為、買い物も格安で済ませられた。

冒険者ギルドにもよっている。商業都市から中南部への方向の護衛の依頼を引き受けた。

無事依頼を達成したのがこの日の朝である。


見聞の方は順調に行われていた。商人の護衛だったので各地の名産物や特徴を教えてもらっている。同じく護衛を引き受けた冒険者からは旅の道中の難所や最寄りのダンジョンを教えてもらえた。また冒険者としての心構えや宿屋や酒場での情報収集の大切さを教わっている。裏ワザのように身に付けたスキルだけの俺では得られない知識や経験は大変参考になっている。早速、酒場で情報を集めたおかげで噂やいくつかの事件を耳にしている。厄介ごとに巻き込まれないようにするのも冒険者として大切なのだそうだ。

それでも経験のない俺はすぐに厄介ごとに巻き込まれた。それは一日移動した牢砦都市でのことである。


都市にほど近い農村で大量の兵士と遭遇した。身分証を検められ、確認後警戒を促された。

「牢城で暴動がおき、危険な輩が脱走している。腕に覚えがあっていようとも今は移動を控えられよ。」

牢砦都市フリュートで騒動が起きていた。俺はフリュートの特徴を把握している。牢砦都市と呼ばれるこの都市は牢城と呼ばれる収容所を囲むように発展した場所である。王都やこの国の各地から集められた犯罪者を収容する大きな収容所と犯罪者が刑務作業として駆り出される地下鉱山のことは誰でも知っている。

俺はこの暴動と脱走に警戒感をあらわにした。なにせ昨晩酒場でこの都市の主の悪評を耳にしたばかりだからだ。典型的な悪徳領主とでもいえばわかるだろう。人を人とも思わず、うわさの息だけだが所属する派閥の政敵をいわれもない罪に陥れ、獄中で過労死、または不審死の類で始末する汚れ役と聞かされている。この国では領主の権限で認められた裁判権と国の法が存在している。領主の方は主に領法に違反したものを適切に罪を償わせるが国法の方は役人が裁判を行ったり、政治判断で幽閉や処刑などの極刑を行うことも多い。処刑を執行する使命を与えられた貴族やその配下の下級貴族は同じ貴族からさげすまれることも多いのだが、同様に牢獄や牢城を保有する地域も犯罪者に対する偏見から都市自体をさげすむ風潮も少なくない。この領主、さげずまれるどころか法を管理する政治家や官僚に影響力もある上、己の牢城の利便性をうまく活用し周囲に畏怖を与えていた。

噂のほうでは、政敵以外にも領主の悪行を訴えた義民の処分、悪徳紹介を庇護するため商売敵の処分なども囁かれている。家庭のある若い女性を奪うために夫に罪を着せたりと聞いてるだけで不快になるものばかりだったが表立っての暴動は今まで起こったことはない。恨みを買う身でもあることから牢城の警備は厳重で兵も数だけではなく鍛えられたものを揃えている。

俺は暴動に興味を抱いてしまい、しばらく観察することを決めてしまう。


フリュートの宿に身を移し、暴動の観察を始めた。

暴動は鎮圧したようだが主犯格や主要人物はすべて姿をくらましていた。都市の住民はこの暴動に関与していないようだ。主な構成は近隣の農村や牢城に収容された者たちの関係者である。義賊となのっていた盗賊団の残党が捕えられ、見せしめに処刑されている。農民の中にもその者の村で引き裂きの刑が行われたらしい。俺はこの暴動自体にも憤りを感じている。正確には主犯格にだ。この暴動は主犯格たちに先導されたもので成功したところで被害をこうむるのは周辺の村々だからである。本当の目的は牢城にいる仲間の救出だろう。それが成功しているのは間違いない。脱獄不可能とよばれる牢城から多くの人間が脱走している。警戒中の兵士団に捕まったのはついでに逃がされた収容者ばかり、計画的に逃がされたような人物の姿は一切見受けられない。

俺は脱獄の手段が気になり、無理をして確認に向かっている。

俺の前世でも脱獄をテーマにした海外ドラマもあれば実際にもニュースで建築足場を利用して脱走をした男のことも耳にしている。もちろん実際の脱走は警察の威信に賭けて無事見つけ出している。俺のいた刑務所の壁は高い。この世界の城壁も高いもののやはりコンクリートで作られた塀に比べれば脱獄不可能と呼ばれているものとしては期待外れだった。まぁもし日本でもライフルやヘリなどで武力的に救出を企てたらいけるかもしれないが現実的にそこまでして時効のない脱走をしでかす者も終身刑覚悟の共犯者もいないだろう。

この世界には魔法もあればドラゴンなんてモンスターを仕留めれる実力者もいるから武力による制圧なんてこともありえないはなしではない。

もちろん対策は講じている。確認のため不可視の魔法で姿を隠して潜入したところいたるところで魔法による警戒が張り巡らされ、国宝級マジックアイテムも設置されていた。収容者で一定の魔力を確認された者は使用できる魔法を問わず魔法封じの枷をつけられていた。だがそれは牢城の中だけの警戒だった。地下鉱山はその広さもあり全てを監視できていたわけではない。

俺は今回脱獄につかわれた通路を発見した。兵たちが発見したものとは別の通路である。都市の廃屋に俺の保有する【発見】のスキルが反応した。このスキルは隠された通路や隠れたモンスターや希少なアイテムなどを発見する類のものだが、【看破】と違いスキル発動は自身の行動中に突然発動しそのアイテムや場所を感じとれる。【看破】の方は偽装されたものを見破るため自身で発動して発見する。ともによく似ているが見つけると見破るでは大きく異なる。

それぞれ使えるスキルであることは間違いない。

発見した廃屋を丁寧に調べ上げ、【看破】で隠された地下への入り口を発見した。ここには魔法で偽装が施されており、【看破】で見破ったのだ。

廃屋に設けられた地下倉庫の壁が魔法で大きくえぐられている。これは兵にも発見された手段と変わりないが俺の中では使用した魔法使いの力量を感じ取れることから本命の脱出路だったと断定している。

他の場所は魔法とともに人力のあとを思わせるつるはしなども回収されていた。だがこの通路は特に高度な魔法だけで削られた場所だった。もし俺の予想が当たっているならここは騒動が起きてから作られた通路である。

多分ものの数時間で作られたのだろう。俺は経験がないだけだがやれないようにも思わなかった。なにせ先のダンジョンで特に魔法の攻撃頻度が多かったことから(魔力)系のステータスが軒並み上昇している。総合レベルも4も上昇しているほどの経験値を獲得している。

一流の魔法使いには(魔力)の保有量が足りないものの、それを補う魔法を数々備えているだけに不可能とは思えない。

ただそもそも、そのような魔法使いが乗り出すほどの大物が収容されていたとは知られていなかった。奥まで無事確認したものの、そこは現在、立ち入り禁止となった地下鉱山につながっていただけだ。一応そこから牢城内の牢屋まで危険を冒して確認している。それらしき特別な牢屋もなく無駄足だった。

それもそのはず、大物であることを牢城の主は把握していなかった。大物自身もそのようなことでここまで連れられるとは思ってもいなかった。年老いた身で自身の力での脱獄を考えずこの国を憂い生涯を終えるつもりでいたところ弟子や知人が助け出したのだ。ただこのような多くの被害をもたすだろう手段に嘆いていた。

俺に許された時間だけでは騒ぎが沈静化することなどありえない事件であった。


フリュートでは5日ほどの滞在だった。もう少しこの後の動向も見守っていたかったのだが騒ぎが王都まで波及しそうだったためこの地にとどまりことをあきらめた。

この期間で義賊の首領が捕らえられた。正確には義賊は騒ぎに終止符を打とうと身を差し出したのだ。脱獄して間もない時間にもかかわらず手下に命じて善良な者たちに罪を押し付けた地主や悪徳商会の悪事の証拠となる品々をかき集め人望も厚い伯爵家に出頭していた。俺はその情報をすぐに聞きつけ事実を確認した。義賊の残党がいたるところで証拠の品々を公開しており、中には命を懸けて訴えるものもいた。

都市のギルドが動いた。牢城の主が保身のためすぐに悪事を暴かれた面々の逮捕に動き釈明のために王都に立つことを耳にしたためこれ以上の観察を終了とした。

もちろん俺の関与はない。それでも小さな現場などで見て肌で感じたことから見聞の旅には有意義な時間であった。


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