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代償の異世界記  作者: リョウ吉
第1章 始まりの日々
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五話 迷いの森

迷いの森


「はっ、よし。」

気合とともに振り下ろした剣はモンスターを一撃で葬る。俺はエイミーを守りながらなんとかダンジョンを進みながら体に戦い方をなじませている。

俺とエイミーがダンジョンに迷い込んだことでエイミーの実家は騒ぎになっていることは間違いない。しかしエイミーが不安を感じながらもなんとか落ち着きを取り戻している点は救いだと言える。

未確認のダンジョンは俺が思う以上に厄介だ。なにも情報がなく手探りでの出口の捜索になっている。エイミーに優先的に装備を割り当てているが俺の方も何とか最低限の装備を確保できた。

モンスターのドロップ品は高価ではないものの丸腰に近かった二人にとったはかなりの強化につながっている。剣技のスキルも何とかコツをつかんでいるし、現代でまったく戦いなんて経験を積まなかった俺には知識だけではこの局面を打開できないことを痛感していて必死にモンスターとの死闘を繰り広げている。


『迷い』の森の性質は知識にもある通り侵入者を迷わせ、追い込むことに特化している。倒木が進路を妨げることはもちろん濃霧による視界の悪さ、腐葉土に足を取られと俺やエイミーのような初心者にはかなり難易度が高いことを肌で感じてもいる。

『迷い』が森系でよかった点もあった。

薪や薬草といった類がドロップアイテムとしてあらわれる。水の確保も容易だった。食料の方は先の採集でまだ余裕があるものの後何日かかるかわからないことも踏まえ、かなり節約していたところ、安全圏、ゲームなどの知識に例えればセーフティーポイントも存在していた。泉があり、口にできるような果実が実っており昼間の食事と食料の補給が可能になった。また安全圏にはダンジョンの妨害もなく、進路は四叉路に分かれているものの先に進んでも迷わずに戻れそうだったことから捜索の拠点として利用している。

安全圏にエイミーを残しても大丈夫だと判断でき次第一人で先に進むことも検討している。

「ルーベン様、あまりご無理をなさらずに。」

「大丈夫だよ。私のことは気にせずエイミーはお休み。」

二人はその日もダンジョンから脱出できていない。エイミーの体力を考え少しづつ捜索しているが俺はステータスの上昇もあり体力的には心配ない。今夜は安全圏での野宿のためモンスターの心配もない。

そこで俺はダンジョンの情報を整理している。

未知のダンジョンの情報はお金になる。『迷い』の性質も濃霧など流動的な妨害もあるものの進路が変わるというものでもなかった。ゲームなどでは入るたびに地形や進路、性質が変わるものもあるのだが今回は大丈夫だと予備知識から判断している。なのでまずはこの安全圏までの進路を手ごろな木片を加工し木板にして書き留めておく。安全圏と脱出路を記しておけばかなり高額で買い取られるだろう。

これまでの進路については心配なかった。冒険者スキルに適したものがあり、さらに製図スキルや方角判断スキルといった職人特有のスキルも保有していて、これもゲームでいうマッピングが可能だった。本来は職人同行で行うべきマッピングが俺一人で可能なのだから作らないなんてもったいないことはしない。精度の高い攻略図はまさに宝ものに等しいのだ。

下級貴族とはいえ叔父の相続にはお金がかかる。さらに異母兄弟の妨害も必至なのだからこの機会をチャンスととらえることにした。


そのころ町では、エイミーが誘拐されたと騒動になっていた。犯人はサンドマン家の男と疑っている者もいれば、盗賊たちの復讐と考える者もいる。可能性は低いが森で迷子になったのではと心配しているのは一部の衛兵とエイミーの実家だけで一応、森の捜索にも人を出しているが森を良く知るエイミーが一緒でそれはないだろうと思わずにはいられない。部外者がエイミーを誑かして性的ないたずらをしでかしたのでは、なんて無責任なことも言っているが、サンドマンという男の素性はすでに確認済みの上、短いやり取りの中で人望のある衛兵の男が一喝していたため馬鹿な男は酒の肴に酒場で冷やかしくらいしかできなかった。しかし誰一人として森でダンジョンに迷い込んだなんて考える者はいない。惜しかったのは、非番の衛兵がダンジョンの入り口付近を通りかかったものの森に不慣れなこともあって手ががりを見落としていた。せっかくの足跡も拾いそこなっていた採集品も二人の手掛かりにはつながらなかった。

運がなかったといいたいところだが実はダンジョンの入り口はある特定の条件が満たされなければ見つけにくかった。もちろんそれは俺が満たしており、エイミーはまきぞいを食らったに過ぎなかった。


朝、俺は目覚めるとすぐに四叉路の捜索を再開する。一か所は罠のある行き止まりであった。当然引き返し次に進むと宝箱があった。想像の様な宝箱ではなく木のうろに設けられた宝箱みたいなものなのだがそこにはレアアイテムと呼べる物が収まっており俺を喜ばせた。

後はどちらも奥深くにつながっていそうなのでエイミーを連れて先を進むしかない。

「ルーベン様、森が開けてきました。」

エイミーが先に目的地かもしれない場所に気付いた。

「エイミー、やれることはする。私を信じて泉で待っててくれないか。」

多分中ボスがいるらしき場所にたどり着いたのだろう。エイミーに万が一のことがあってはと引き返そうと判断する。しかしすでにときは遅かった。すでに中ボスのエリアに侵入してしまったらしく、先ほど通った道は蔦や雑草で封鎖され濃霧で閉ざされていた。建物や洞窟系のダンジョンならば支柱や大扉などわかりやすい目印が存在しているのだがここは『迷い』の性質、たちの悪い遭遇もこのダンジョンの性質である。


俺はエイミーを引き寄せ剣を抜いた。中ボスは樹木系のモンスターで手下となるモンスターも従えている。

知識からまだそれほど厄介ではないと判断し、全力で攻撃を仕掛ける。雑魚と呼べるモンスターは全体魔法で仕留めにかかった。

「焼き払え。」

無詠唱のため代わりに気合入れた一言を放つ。炎が波のように敵に襲い掛かる。雑魚は一撃で消し炭のように崩れ落ちるもボスには大したダメージがなく、呼吸を入れる間もなく援軍を出現させた。

悪魔の、デーモンウッドと呼ばれるその中ボスは、知識通りにモンスターを呼び集めた。あくまでも確認のための魔法攻撃である。

「エイミー、頑張ってくれ。」

「はい。」

万が一の時にとエイミーには指示を与えている。モンスターの攻撃にさらされないように防具で身を固め、できれば身を隠すか、身につけさせている木の盾で安全を図るよう指示している。一応防御力アップの魔法もかけエイミーを隅に移動させた。

まずはモンスターの方へ駆け出した。

ただの鉄の剣のため一撃で仕留めることはできない。中ボスまっしぐらとばかりに仕留めそこなったモンスターを魔法の火球で葬り、中ボスが新たな手勢を呼ばないようにと攻撃を開始する。

火球を放ち、枝を切り落とす。反撃をいなし、何度も何度も剣を振り続けた。単身で中ボス攻略なんて無謀であることは知識でわかっているもののそんなこと言っていられない状況とばかりに何度も剣を振るう。

デーモンウッドが小刻みに幹を揺らす。魔法が来ると判断しエイミーに被弾しないよう体をずらす。

魔法で舞おこった風に紛れ鋭い葉がカッターのように襲い掛かる。防具では防ぎきれず、いたるところに切り傷をこしらえるも体感的な痛みは大したことがない。

これならいけると判断し次のチャンスにこちらも反撃を狙う。

息はかすかに切れながらも人のように動く枝や根をかわし続け、ようやくチャンスが巡ってきた。

渾身の一撃で剣は根元から刃が折れる。その代り、デーモンウッドの巨木が体を崩す。

これで仕留めなければ再びチャンスを待つしかないが、魔力を残す必要があるため、持てる手札から最良の魔法を繰り出した。

(火)の魔法ではあるが性質から暗黒魔法に分類される魔法を放つ。

『地獄の業火に焼かれろ』なんて恨みの文句にある言葉どおりそれは暗黒魔法として憎しみや恨みとともに対象を焼き尽くす『ヘルファイア』の黒い炎がデーモンウッドを葬り去った。

あくまでも(木)属性であるデーモンウッドは断末魔とともに朽ち果てた。


恐怖がなかったと言えばうそになる。それでもこの難局を乗り越えたことは大きな自信につながった。

エイミーの無事を確認しモンスターからのドロップアイテムを拾う。

初めての強敵の打破で経験値を大量に得た。

実質単独での中ボス討伐。お陰で能力も上がっている。

確かな手応えを感じる一戦だった。

周りを確認し魔法陣を見つけた。

先につながる通路が解放されたととも脱出のための魔法陣を確認できたことに俺は安堵の笑みを浮かべた。


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