四話 森のダンジョン
台風でどこも出かけれない為もう一話頑張ってみました。
森のダンジョン
借宿でお世話になった翌朝のこと。まき割りの手伝いをしていると森に入るならと地元の方からのありがたい助言をもらった。この家はあの宿で清掃を担当していた女性の生家である。実のところ女性の顔には記憶はなく、厨房に身を隠していた一人という程度の認識である。
妹の命の恩人、姪の恩人などと感謝されている俺に森に入るならと秘密にしていた高価な薬草の群生地などとっておきの情報を伝えてくれたのならばいかなればならないと森に探索に出かけた。
「ルーベン様足元に気を付けてください。」
案内役の少女エイシーが俺を気に掛ける。
「ええ、大丈夫ですよ。」
俺としては使い慣れない丁寧な言葉づかいでエイシーに応える。恩人で八人もの盗賊をたった一人で退治したということからかエイシー目をキラキラと輝かせたまま俺に接している。貴族としての俺になれるために言葉づかいはもちろんのことだが立ち振る舞いも気を使っているため五つ年下の少女にも優しく接している。とはいえ俺の性格上、年下の少年少女には優しく接するだろうから貴族だからというわけでもない。むしろ貴族身分の者の方が嫌悪感を抱きかねない。
憎しみを抱き続けた相手は政治家の息子、金と権力で罪を逃れた屑たちを連想させる存在がルーベンの記憶にも残っていた。生々しいものとしては異母兄弟、姉妹にいたぶられた記憶、それらの取り巻きから受けた仕打ち、挙句の果てには軽いとはいえ毒を盛られたこともあった。そして母は体調を崩しルーベンは叔父の家に引き取られた。
「あ、あのー。」
「あ、すまない。」
つい険しい顔をしてしまい、エイシーに謝る。エイシーはジャム用のキイチゴの採集に来ている。実際は違う名前なのだが見かけも味もよく似たものなのでキイチゴと呼んでいるだけの代物はすでに俺も手伝ったこともありエイシーのかごいっぱい集めている。
【鑑定】で探せばすぐに見つかる。他にも薬草や薬効のある樹皮も採取しているし、教わった高価な薬草の自生地も訪ねている。森で【看破】を使えば巣穴に隠れた小動物や小モンスターも簡単に見つけて捕獲したし、土に隠れた希少なキノコなども採取している。もちろん小さなエイシーを連れているため【看破】や【索敵】というスキルを使い大型モンスターの気配も確認している。手持ちの武器はといえば護身用に所持した短剣と借り受けた鉈のみ、どちらも装備品としては粗末で心もとない品物である。
だからというわけでそのまま借宿に帰る予定でいた。
多分スキル【運命の導】が発揮したらしい。
足元に気を付けてと散々言っていた本人が地面の根に足を引っかけてしまった。その先にはまだ知られていないダンジョンの入り口が構えていたのである。
「ごめんなさい。うぐ、ごめんなさい。」
とりあえずエイミーを泣き止ますこと30分、すでに森のダンジョンの出入口を見失っていた。ダンジョンに侵入してしまったと俺が気付く前にエイミーは転んだ拍子にばらまいてしまったかごの中身を拾おうとしてこの森のダンジョンに入り込んでしまった。そしてダンジョンの性質に触れてしまった。
森のダンジョンは三方を囲むように蔦や藪が急成長する。霧も発生しこの森の性質『迷い』が二人に襲い掛かる。『迷い』の性質はある一定の場所まで森を進めなければ出口にたどり着けない。ダンジョンの中では難易度の高いものとされている。新しいダンジョンではないことはこの森のダンジョンの放つ威圧感というか不気味さからもくみ取れる。多分、これまで迷い込んだ者すべてを死に追いやって来たため、存在が知られていなかったようだ。
エイミーの侵入に気付いたダンジョンは初めに俺と隔離しようと企んだ。俺は慌てて森の属性でもある、(土)に部類される木に効果のある魔法を放った。
エイミーの手前もあったため森で小動物などを仕留める際は短剣を使っていたが生活魔法といわれる初級魔法くらいは使っていた。慣れない森の探索に小さな手傷が目については治癒魔法でなおしたりしていた。
しかし今回はエイミーを攫うかのごとく蔦が伸び、俺を阻むかのごとく地面から太い根が盛り上がる。
俺は初めてだがなんの躊躇も手間取ることもなく火の中級魔法で排除した。
エイミーはせっかくの積んだキイチゴや薬草を台無しにしたことや迷惑をかけたことさらには蔦が巻き付いて足首をねん挫してしまうなどでいっぱいになり泣いてしまっている。
出入口はふさがれ、採集したものは土やらにまみれたり蔦や根にやられて台無しになった物は多いが俺が採集した特に高価なものはわずかばかりの収納量しかないが保有している冒険者特有のスキル【アイテムボックス】に収めていた。エイミーの籠で無事な物も収納してやらねばならない。腰にはウサギ系モンスターも携えており、ダメになった分など気にはならない。泣きながらもエイミーは懸命にキイチゴなどを拾いなおしている。目減りはしているがもともとエイミーが採集出来る量くらいは無事であった。ケガも直した。
「大丈夫だから。」
エイミーの頭をしばらくなで、ようやく慰めるとこれからのことを考える。ひそかに試した手段に転移魔法があった。しかしダンジョン内では発揮せず、ダンジョンからの脱出用の魔法も探してみたが条件を満たさないを発揮しないものしか存在しなかった。
あいにく、某ゲームのようにはいかないらしい、魔法も万能ではないことを痛感した。ただ条件が満たせば可能であることをわかったのが救いだ。
「これからどうしたらいいのですか?」
涙で赤くなった顔をしたエイミーが不安そうに尋ねてきた。
「エイミーは悪いけ頑張って進んでもらわないといけないよ。」
「あ、あしでまといならおいて」パチン、エイミーが言い終える前に俺は彼女の小さなほほを叩いてしまった。
「すまない。」
エイミーは涙をこらえている。
「エイミー、足手まといだなんて言わないでおくれ。君を心配するお父さんやお母さんの身になってごらん、君を置き去りにして俺、いや私が帰ったとして何と言っていいかわかるかい。」
「ご、ごめんなぁしゃい。」
俺を言ってしまったが仕方ない、貴族を演じる余裕もないのは事実なのだから。俺はエイミーと手をつなぎ慎重に森を進んでいった。
「お父さん、心配してるかな?」
「心配してるだろうね。」
子供を連れ、ダンジョンを進むのは容易でないことを体感した。日が暮れたもののダンジョンだということもあり今まで以上に暗くなることはなかった。ダンジョン壁ともいう木々や茂みには蛍光にひかるものがたくさん見受けられた。あいにく採集すると光源をなくすものだったためなんとかかき集めることがかなった薪に魔法で火をおこし野宿をしている。
食事はウサギ肉に香草で味付けをして直火で焼いたものである。
「エイミーのおかげで温かい食事ができたよ。」
しんみりとした雰囲気を変えるために褒めてみるとわずかながらもエイミーは嬉しそうに微笑んでいる。
キイチゴをかじり二人でたわいない世間話をする。
エイミーなボブスで生まれ育ち農家の家らしく畑の手伝いや森での採集を手伝っている。宿で助けることになった女性が姉であることは聞いていたがどうやら前妻の娘ということを気にして宿に奉公に行ったそうだ。
「お姉ちゃんのことは大好きだけど。お母さんもお姉ちゃんも気を使いあってて。」
「仲が悪いわけじゃないんだね。」
「うん、お互い大好き。多分だけど。」
家族のことを嬉しそうに話すエイミー、ルーベンとしては家族に恵まれてるとは言えないものの、俺の前世は家族には恵まれていた。しかし俺がその関係を崩してしまっているので後悔の念があり、家族の話は聞き役にってしている。エイミーは疲れからかいつしか眠りについている。薪をたしモンスターへの警戒がてら少しばかり荷物を整理する時間とした。通常のモンスターならばそのまま死体から剥ぎ取りなどをしなくてはならないのだがダンジョン内では異なることもある。今回がそのケースでこのダンジョンではモンスターを倒すと体がすぐに消滅しアイテムが残されるのであった。
ドロップアイテムとでもいうのだろう。樹木系のモンスターは薬草や木の実、薪などを残すことが多かった。たまに布なんてものもあったり、木の靴も拾っている。この木の靴は装備品に分類されるもののためサイズが魔法により補正される代物である。つまりただの木の靴とは違うものである。
木の靴はさっそくエイミーに履かせている。理由は簡単、エイミーの総合レベルが1であり、防御力である(物防)が一桁だからである。モンスターからの攻撃が一撃でもくらえば即死レベルであり、躊躇なく与えている。
ダンジョンをすすむにつれありがたいことにレベルが1上昇している。大して変わらない能力値だが何もさせずに上昇させたのは意味があるものであった。
現在、エイミーは俺の同行者、つまりパーティーを組んでることになる。パーティーは冒険者スキル【編成】で組むことが可能でこのスキルの恩恵で経験値が分割されている。
経験値は主に行動や資質によって細分化される。攻撃を行えば(物攻)魔法を放てば(魔攻)や(魔力)、エイミーの場合、(魔力)には配分されず(器用)に振り分けられている。一般の森での採集よりもダンジョン内で採集は経験値も稼げるようでエイミーの場合(器用)と(体力)だけでレベルが底上げされている。
そういった事情から拾ったアイテムで簡単な加工もしておけばエイミーにも恩恵があるかもと整理を始めたのだ。
軽い仮眠は日の上る気配で目が覚めた。簡易版だがモンスター除けの魔法陣を設置していたのでモンスターの被害はない。だがやはりダンジョン、モンスターが魔法陣の外にわらわらと集まっていた。
「これはすごい。」
と少しばかりびびってしますものの、慣れてきたとばかりにエイミーをおこさないように))(火)の全体魔法で退治した。
「まだ過剰ぎみだな。」
俺としては中級が過剰であることを理解して魔力節約の観点から初級魔法に切り替えている。それでもこの辺はたった一撃でけりがついてしまい、知識では自身が中級の冒険者以上の力を有しているとわかっていても実際は異なっていることを実感している。
すぐにモンスターの残した物を拾い集める。ありがたいことに樹木系のモンスターや植物系モンスターでも武器を落とすものがいた。
今まではかなり雑魚の部類ばかりなのでろくなものはなかったが、なんとか鉄の剣を入手できた。【鑑定】で確かめると普通の剣に過ぎないが今の装備なら大幅に攻撃力が上がる。他にも時折どんなモンスターからも出現する魔物核とも魔法石とも呼ばれる魔力を秘めた宝石の様なものも入手できた。
簡易版のモンスター除けは、本当に簡易版だったようだ。魔法陣の範囲だけを除いていたので結局取り囲まれていて、今後の勉強になったのである。
誤字脱字がございましたらご勘弁ください。