十四話 聖なる力(隠しダンジョン解放)
聖なる力(隠しダンジョン解放)
森は静寂に包まれた。
この場には俺たちパーティーと冒険者パーティーのみが留まり準備を整えた。
静寂を破るのはプリミティーユのハープの音。
できることなら、『精霊の楽器』シリーズを買い揃えたいところだったが入手困難のため、『精霊のハープ』だけでも完成していることで良しとする。
プリミティーユは故郷に伝わる曲を奏でていく。エルフの曲は幻想的なメロディーで森に精気を満たしていく。プリミティーユは多才な人物であった。エルフでは珍しく一分野を極めようとするのではなく、多くのことに興味を持ち学ぼうとしている。
本人曰く、
「この世は全てにおいて結びつきがあり、一方のみを知るのではなく多くのことを知ることこそが学び極めようとする最良の手段である。」
よってプリミティーユは音楽を学び、植物を観察し、歴史に目を向けてきた。狩人であり、楽師であり、薬師あり、歴史家である彼女の協力で森の浄化は始まった。
冒険者たちに散布してもらった聖水に反応するようにボスの間は邪気が払われ、静寂に包まれた。ハープの音色で森に精気が満たされる。さらにおばさんが秘蔵の杖を持ち出し、聖水同様冒険者ギルドが集めてくれた『聖なるキャンドル』とともに魔法を完成させていく。
『聖なるキャンドル』を起点とし魔法陣を描いていく。『美神の聖錫』により(聖)属性が強化され高位魔法が完成する。
「いくわよ。咲きなさい。『ホーリーローズ』」
オランジは魔法で地面を白銀のバラでいっぱいにしていく。この魔法は強化魔法である。白銀のバラは『聖なる薔薇』、神界などに自生するバラを芽吹かせしばらくの間(聖)属性の効果をアップさせる魔法である。オランジのスキル【魔法強化Lv10】【薔薇の隣人】による補正も入る。
【魔法強化】はレベルにおおじて魔法効果を増幅させる。
【薔薇の隣人】はバラ屋敷の主人でもあるオランジのためのスキルとでも言おうか、『ローズ』とつく魔法や武器類の攻撃や防御、魔法の効果を大幅に増幅することだけではなく、『バラの香水』の生成時に香りや質を上げたり、ガーデリングでバラの成長を促したりとするスキルであり、スキルの中で珍しい、俗にいうユニークスキルである。そのため、通常なら半径1メートルほどの魔法陣の中にバラが咲くのだが、オランジの場合はあたり一面に咲き乱れている。ダンジョン主の間は一般的な小学校のグランド程度広さであるが魔法陣を中心に八割くらいがその効果の範囲内となっている。効果でいうと、一般的な回復魔法『キュア』でさえ、大けがを瞬時に回復できるほどの補正を与える。高位回復魔法、治癒魔法では
欠損部を回復させることができる。ただしこれはオランジだからここまで効果が増幅された。一般的には数値でいうと1.2~1.3倍、いろいろスキルに補正されて2倍~3倍、オランジのように何十倍とはいかない。俺も【魔法強化】やそのほかの魔法増幅効果のスキルはあるが神からこの世界を生きていくのに困らないようにと付与されたものでレベルは何とか2に上がった程度である。ステータスレベルは急成長しているものの、スキルレベルはこの世界の常識と同じ程度の成長しかしていない。
話は戻り、森が聖なる力に反応する。
ダンジョンの壁である茨や蔓が風に吹かれたようにゆらゆらと揺らぎ始めた。さらに俺は無詠唱で(聖)魔法を放ち、ダンジョンによる干渉を封じ込める。
これでまだ<巫女>としての力が乏しいリュスでも隠しダンジョンの扉を解放できるはず、<巫女>の称号を有するものには、神の使いとなりえる器を秘めている。それは眷属に伝わり眷属が施した封印に干渉することができるのだ。
リュスは真剣な表情で役目に取りかかった。
幻想的な音楽に合わせ、静かに祈りをささげながら歌い始めた。正確には祝詞を唱えているのだが、白銀のバラのステージに少女が懸命に歌っているようにしか見えない。
リュスには巫女に相応しい装備を整えている。
『木漏れ日の杖』
『聖獣の首飾り』
『天使の髪飾り』
『光のローブ』
どれも高価なもので、俺の所持金はほぼなくなっている。どれも<聖>属性の高価な装備品であった。
リュスは精一杯、祈りを捧げ、歌い続けた。プリミティーユも音楽を奏で続ける
俺は静かに時が満ちるのを待った。冒険者たちには、隠しダンジョンの解放方法もリュスの称号もあいまいにしていたが追及されることはない。騎士たちの離脱はこちらにとって渡りに船だったともいえる。
森の気配が変化した。リュスも感じ取ったのか、自分の背丈ほどある杖を天に向け、祈りを昇華していく。
『聖水』『聖なるキャンドル』の効力が集約されていく。(聖)の力が光の帯を作り、ダンジョンの壁へと拡散した。きらきらと輝きながら壁を覆う。【看破】にたよるまでもなく一点が反応を示す。蔦がアーチを作り、茨が左右にそれ、通路が現れた。通路からは悲しみや嘆きを感じさす気配に包まれており、人によってはこの気配に足がすくむだろう。
俺はなぜか懐かしささえ感じてしまう。負の感情に支配されていた日々が蘇ってきた。
彼女を失った時のこと、彼女を辱めた奴の存在を知った時のこと、留置所や拘置所の面会室で両親や兄弟が抱えていた悲しみや、刑務所で同室の男がすすり泣いていたことさえ思い出していく。
しかし悲しみの気配は、リュスが放つ(聖)の気配に圧倒され霧散していく。
俺は大きく息を吐き、気合を入れなおす。
「皆さん、行きましょう。」
俺たちは隠しダンジョンへと足を踏み入れていった。
英語が難しい。翻訳音声がなんて言っているのかがわからない私(笑)
マイペースな投稿ですがこれからもご贔屓にお願いします。




