十二話 隠しダンジョンへ
隠しダンジョンへ
汗をかいた。夢を見て汗をかいたのか、心労からかはわからないが目覚めた俺は汗だくである。
昨晩の出来事は俺を探しに来たロデフに伝えるとすぐに仲間が総集された。隠しダンジョンにいるオオカミを救うよう神からのお告げが下されたと説明している。
そのためにロデフらはもちろんおばさんやプリミティーユの協力を要請した。
ただ、隠しダンジョンへの結界が存在するため入り口の発見等に幼いリュスの協力も必要だった。当然、ロデフは反対する。どうしても聖なる力を持つ者の協力が必要であり俺には他に当てがない。ただ入り口隠しの結界だけではない。今回は<聖女>たるリュスにしかできない役目が目白押しの依頼である。
俺のスキルでなんとかなるものもあるだろうし、おばさんの交友関係をあたれば教会や神殿のほうから人を呼び寄せそうだが、神とのお告げとごまかしたことで分かる通り、一から十まですべてを説明することのできない身であるため、俺は今信頼できる人材に頼るしかなかった。前世の記憶とかルーベンとは別の記憶をもつ転生者であることを明かすなどもってのほかで、俺は頭を悩ませている。
だがそこで思いがけない救いの手が差し出された。いや正確には救いの手に似たなにかだ。
おばさんは俺に賛成してくれた。
「リュスちゃんの身は小僧に任せるまでもないよ。プリミティーユ、あんたでじゅんぶんだね。」
「問題ない。」
「ロデフ、これは私からの命令よ。その母狼は救うわよ。神に関わりあることには首を突っ込んでおく方がいいのよ。」
「しかし、オランジ殿。」
「くどいわよ。獅子王の血を引く戦士が、か弱い少女一人守れないなんて、あぁ情けないわ。」
「いや、オランジ殿、危険の多いダンジョンに連れていくことが問題であり、我が誇りと関係されては困る。」
「危険の多いダンジョンではでしょ。大丈夫よ。その辺はこの小僧が対応してくれるから、どうせすぐに出発できることでもないでしょう。手伝ってあげる私たちにそれなりの対応も期待して引き受けてあげましょう。」
あぁおばさんの顔が怖い、この人の魂胆が透けて見えており俺はげんなりと肩の力を落とし部屋に戻ったのであった。
のどの渇きを満たしさっそく俺は駆けずり回った。
隠しダンジョンの存在を領主やギルドに伝え、協力を要請する。どうしても俺一人では準備ができず女神からの助言をもとに必要品を入手してもらう。
隠しダンジョンは聖なる力がカギとなる。リュスだけでは力がたりない。リュスの聖なる力を増幅さすための装備品が必要となる。俺が使える(聖)属性の魔法で対応できることもあるだろうが入り口を隠す結界は種族や<称号>などに反応するそうだ。まずはそのためにリュスの協力が必要となる。
リュスの安全などを条件に俺は皆の協力を得ている。
そして俺は準備を整えるためさらに駆けずりまわるのであった。
ボブスでは皆に注文された品をすべてそろえることはできない。魔力が許す限り転移魔法を繰り返し買い物に出かけている。
リュスのために神殿を中心に繁栄する大都市には王都まで転移し、冒険者ギルドに目的地まで転移して運んでくれる魔法使いを経由した。冒険者を引退した者などがこういった商売をしているので俺が行ったことがない場所でも代金を支払えば移動できるのだがやはりこういった商売はなかなかの金額が設定されている。現代の飛行機代の数倍から数十倍といった金額の為そうそう利用できるものではないが、幸い俺の懐はあたたかい。すでにダンジョンの攻略図を販売し、モンスターのドロップ品も売り払っている。隠しダンジョンの情報もボブス子爵と冒険者ギルドに情報を提供し、報酬を受け取っている。その所持金のほぼすべてを費やし準備に勤しんでいる。
尚、叔母にはすでに相続にかかる諸経費と生活費に十分な仕送りを済ませている。サンドマン伯爵領にはさらに遅れて向かうことになる旨も手紙にて知らせておいた。
結局準備が整ったのは一週間後のことである。
準備が整った翌朝、俺は久しぶりにゆっくりと休んだこともあり体調は万全で皆に声をかけた。
今回のパーティーは俺たちとボブス子爵家臣団のエリート騎士、冒険ギルド選抜メンバーの総勢20人にもなる合同パーティーである。
今回の隠しダンジョンはその性質上、一度の攻略で崩壊するもので間違いがないため俺たちだけで向かうことに反対されている。
子爵家としては、場合によってはダンジョンによる恩恵が大きいと考えられ攻略を見送るよう進言する家臣も見受けられた。それでもこちらが単独で攻略されてはと妥協案にて家中がまとまり、家臣団を押し付けている。
冒険者ギルドの方は家臣団への牽制及びリュスの身辺警護の強化の意味から協力を要請している。もちろん先方は大喜びで承諾している。
まぁ高級ポーションや高級MPポーションをかなりギルドから購入しているし、隠しダンジョン攻略のカギとなるアイテムや俺とロデフの装備の新調と売り上げに貢献しているためってこともあるだろう。俺たち5人、ギルド側5人、家臣団10人にて、まずはダンジョンの主と化したオオカミのいる奥地まで慎重に向かっていく。
「ボガーさん、ディーさん、ジョーさん。」
「あいよ」
ギルドのベテラン三人組は俺が呼びかけるとなれたもんとばかりにモンスターを仕留めてくれる。
一方で、家臣団というと
「クルトン様。」
「右だ、右。」
「前に出すぎだ。」
「う、うわ。」
……かなり頭が痛い、お荷物と化している。
これまでギルドや騎士たちの要請でダンジョンに同行しているのだが、今回家臣団を率いているのがクルトンという名のボブス家の筆頭家臣の倅なのだが、いかんせんこの男が無能で俺やギルドメンバーに対抗しようとむきになってはその無能ぶりを発揮している。
罠にはかかるし、モンスターを前にしてはこちらの連携を乱すような支持ばかりだし、俺たちの頭痛の種になっていた。
どうも母方の実家が有力貴族の家柄らしくそれを鼻にかけていたりもする。俺の様な下級貴族の指揮が気に食わないようだ。とはいえ陪臣の身分であることから面と向かって文句をいうわけではなく、邪魔になっている程度である。
邪魔になっている程度と言えるのもまだ余裕があるためだ。
今回同行しているメンバーの総合レベルはほとんどが中級以上の実力者であり、家臣団の方も子守を兼務できる程度の実力者たちが同行している。
俺の方もいつのまにか総合レベルが40に迫っていてロデフのレベルに追い付いた。俺の成長速度が早い要因もかなり面倒であったが時間を作り保有するスキルを確認したことから把握している。
ようは神から与えられたスキルにこれはチートだろうというものがかなり含まれていた。代表的なものでいうと【限界突破】【飲み込みの速さ】【報われる努力】、これらは能力値やレベルの上限をあげるもの、経験値の習得を増加するものなどで俺の急激な成長の要因になっている。
だが一番の要因は【神の気まぐれ】というものであった。
『【神の気まぐれ】:神から気まぐれに恩恵が授けられる。主に経験値や新スキル、技スキルなどだが神域や神の眷属の影響のある場所ではその頻度は増加し、レアドロップアイテム、レアイテム発見率も増加する。』
なんて説明があった。だからなのだろう、俺たちのレアドロップアイテム多さに納得できた。おばさんとプリミティーユが目の色を変えてレア素材の収集ばかり励んでいたのがいまになって合点がいった。初めはこのダンジョン自体がレア素材を良く落とすと認識していたのだが他の冒険者たちはなかなか収集できずにいた。ボガーたちが俺と同行しているとレアアイテムの頻度が多いと指摘してきたがさすがに答えようがなかった。
あっ、だって【幸運】なんてスキルもあったからね。
『【幸運】:運を上昇させる。主に会心の一撃発生率、レアアイテム発見率、レアモンスター遭遇率などの上昇や直感がよく働いたりする。』
「ラッキーだね。」
とレアアイテムなどを見つけてはそう言ってごまかしていたが、恩恵がパーティー内しか授からない為、家臣団からのやっかみを買っていることを申し訳なく感じる羽目になっていたりもする。
もちろんクルトンたちをわざわざ冒険者ギルドのメンバーのようにパーティーメンバーに加えてたりはしない。
投稿が遅くなりました。わざわざお読みくださる大切な読者のために頑張りたいと思っています。……がこの暑さに負けています(=_=)




