【過去】最愛の彼女と罪
主人公の過去です。
突っ込みどころがありましてもお許しください。
最愛の彼女と罪
俺にとって彼女は最高で最愛の女性だった。
俺はサラリーマン家庭の二人目の子として生まれた。両親は健在で二つ上の姉と一つ下の弟と五人で暮らしていた。父方、母方の祖父母も仲が良く、従兄妹たちはさらに小さいが正月にはみんなで集まるような親戚一同も仲が良くかった。
ちょうど大学一回生の時の夏休みに俺は大学のサークルのキャンプで救急車に世話になるという失態を犯している。県内にある川沿いのキャンプ場でいわゆる先輩からの一気のみの強制を受け俺は未成年ながらも応えてしまい急性アルコール中毒になってしまった。
運ばれた先で看護師の卵だった彼女と出会った。少し年上の看護師だった彼女に説教を受け、点滴が終わるころに駆けつけた母と姉に説教されたがすでに看護師からの説教に堪えていたため、二人からはすぐに解放された。家族や友達にはもう呑まないと約束したが、入院中に成人になったらお酒をたしなむ程度はと実家が近いという共通点で話し相手になってくれた彼女から言われた。多分その時には惚れてしまっていたと思う。
きれいな女性だった。俺は高校生の時に恋人も作り、大学でも恋人を作ってはいたがどちらも向こうから惚れられ周りの勧めで付き合った程度である。
姉が美人の類に分類されるうえ、仕事もできる才色兼備な上、料理もうまく家庭的な女性だったためすぐに比較してしまい恋人の粗が目についてします。ようやく自分の気持ちを理解した俺は彼女に会いに行き、交際を申し込んだ。
彼女は笑って友達からならと連絡先を教えてくれた。メールで始まった交際はなんとか俺の誠意と努力で冬までに希望の関係に成就している。クリスマスを一緒に過ごし、春ごろの俺の誕生日には、大人の飲み方というのを教わった。あとから知ったのだが彼女は俺のために大人の飲み方なる情報を本やネットで調べただけで、彼女自身初めてだったらしい。ようは年上として背伸びしたのだ。しっかりした家庭で生まれ育ち、病院の寮で暮らし始めた彼女には遊ぶ余裕もなく、同僚にムードの良いバーなど教わって俺に背伸びして見せた。俺はそんな彼女をいとおしく思い、結婚も視野に入れて付き合っていく。
大学を無事卒業し、俺は希望する会社に就職が決まった。会社の歓迎会で一気のみすることもなく初任給で両親にプレゼントをし、次の給料で彼女に指輪を贈った。すでに四年近く付き合っているが結婚を視野に思いを伝えたのは初めてで彼女は泣いて崩れるほど喜んでくれた。年始には初めて大きな会社を経営する彼女の父に挨拶に行き、俺に彼女を養えることができるならと快諾してくれた。
社会人の荒波にもまれ、待たせてしまったが彼女と結婚の話も煮詰まっていた。
だが俺は彼女に降りかかろうとしている悲劇に気付かなかった。
結局彼女がマンションで大量の睡眠薬を服用し命を絶つまで何もしらなかった。
きっと彼女は俺に助けを求めようとしていたはず、年下の恋人に心配かけまいと気丈に振舞う彼女の心の悲鳴を気付いてやれなかった。
彼女の両親はたった一人の娘を失い、守れなかった俺に対して距離をとった。親戚一同には紹介していたことから慰めの言葉も投げかけられた。両親にも同情してくれた。しかし俺が罪を犯したことで同情は消え、両親は針の筵のような生活を送るはめになった。
俺は彼女を失った憎しみから罪を犯したのだ。
姉には取引先の御曹司である婚約者がいて、弟にも彼女がいた。犯罪者の家族、それもテレビで報じられた事件の為、二人の恋人は離れていった。姉は泣きながらも俺の行為に同情した。弟は義理の姉になるはずだった彼女のための復讐に共感できず、会社の視線に耐えきれず辞め、俺のせいで人生がめちゃくちゃになったとうなだれていた。俺に当たれずやるせなさを抱き、パチンコなどに逃避する日々を送っていた。
彼女を失うまでは本当に充実していた。俺は彼女のなしでは生きていけないほど惚れぬいていた。
俺が犯そうとした罪は殺人である。奴を殺そうと包丁を握りしめ、奴の行きつけの店の前で刺そうとした。だが喧嘩もしたことのないような男が憎しみにかられ刺し殺そうとしたところであいつのように政治家の息子とは思えないようなアウトローの奴にはかなわなかった。いや偶然取り巻きがじゃれるように俺の進路を遮り、慌てた俺が包丁をずらしてしまった。態勢を崩すと夜の店の従業員があわてて俺を取り押さえようと蹴り上げられすぐに地面に押し付けられた。その間も殴られ蹴られ警察に引き渡されるまでに歯が何本も抜けるくらいの暴行が続いた。
それから俺は警察病院に運ばれ、治療の後、留置所に収容された。俗にいう48、二日間の勾留後に起訴され、殺人未遂の現行犯として逮捕されたのだ。それから二十日間の勾留が始まり、取り調べが行われた。俺は黙秘権を行使するわけでもなく、ただ口を閉ざした。彼女を辱めた奴らの行いを俺の口から説明できるわけがなかった。だがその時にはすでに彼女の遺書が警察やマスコミに公開されていて、取り調べの刑事や留置所の警察官に同情されることになった。
彼女の遺書には命を絶つ理由が記されていた。俺へのものと彼女の親へのもの、俺のものも彼女の親が姉を通じて公開したのだ。今まで遺書を証拠に警察に奴の逮捕を要求していて、駈けずり回っていたという。俺の事件を知り、慌てて弁護士を手配してくれたが俺は当初、受け入れないでいた。しかし母と姉、彼女の母の三人で面会にやってきてくれたことで彼女の父が俺に必要のない責任を感じさせていたと嘆くさまを聞かされては、受け入れるしかなかった。
取り調べも終わり、弁護士の努力はあったものの、俺は殺人未遂および銃刀法違反の罪で起訴された。しばらくの間は留置所で過ごし、毎日のように駆けつけてくれる面会者に心の中では感謝しつつも復讐を果たせなかったことに心は縛られていた。ふがいない自分と憎しみ続ける奴、逮捕から二か月ほどで身柄は拘置所に移送された。
裁判では自分の犯した罪に対し弁護するべく、彼女の遺書も証拠として申請されていたが、今回の被害者である政治家の息子が弁護士を立て、徹底的に抵抗を見せた。こちらに彼女と奴の関連を裏付けるものが乏しいことを盾に逃げおおせた。
俺は求刑12年を請求され、弁護士の努力で8年の実刑を申し下された。結局傷一つ負わすことができなかった上に、奴から減刑の不服を受け検事からの控訴に、民事訴訟も起こされた。マスコミが奴の悪事をネタにしているため先方からは賠償金を請求されている。
しばらくして控訴は棄却され、俺は刑が確定した。
だが俺は奴が犯した罪を忘れることはない。
俺の最愛の彼女は奴に犯された。
親に買わした高級車で事故を起こし運び込まれた病院で彼女を気に入った奴は、はじめは彼女の気を引こうとする程度のちょっかいを出した。
当然、彼女は相手にしない。
入院中、花を届けたり、高級品を贈ったりしたもののすべて返却されていた。だが奴のアプローチのしかたはエスカレートしていきストーカーさながらの行動にまで発展していた。俺との交際の為、寮を出ていた彼女のマンションには毎日不審物が届き、彼女の帰宅時間にはマンションの下に不審な車が止まっている。
そして、彼女が警察に相談しようと考える写真が届く。彼女の部屋の盗撮や彼女の部屋に侵入してとった動画が同封されていた。この時点でもう奴にとっては遊びの延長だった。奴を袖にしたことで好意は憎悪に変じ、奴はいやがらせを楽しんでいた。入院中の環境で肉体的に魅力感じた程度で退院後は群がる女の中から適当に遊び始めた。酒も相まって遊び半分で取り巻きをたきつけたに過ぎなかったのだ。
しかし、彼女は気丈にも警察に相談すると告げてしまう。奴は怒りをあらわにし、その夜、彼女のマンションを襲わした。
彼女は気絶させられ、奴のもとに運び込まれた。奴は彼女を無理やり目覚ませた後、無理やり犯した。取り巻きに動画を撮影させ、取り巻きにも彼女を犯させた。
動画は彼女を脅迫するために撮影されたもので、俺に見せると脅した。口止め料や買い取り料を要求したものの、彼女は犯されながらも首を縦に振らなかった。そのため、彼女の悲劇は裏サイトと呼ばれるものに投稿された。彼女が死を決意した瞬間である。
俺が彼女の悲劇を知らされたもっと後のことだ。彼女の同僚がたまたま恋人とそのサイトを見ていたため俺は知ることができた。奴の見舞いに来た男性だが奴とそれほど懇意ではないていどの男は奴の周りから教えられていた裏サイトを視聴して恋人との性行為を盛り上げようとした。もちろん恋人も見舞いの縁で知り合っていて恋人の同僚が犯されているものとは知っていなかった。慌てて自殺の原因を俺に伝えてくれた。
俺の遺書には彼女からあふれんばかりの俺への愛情と謝罪の言葉だけが書き残されただけで奴の行いを伏せられていた。俺がサイトを確かめることはかなわなかった。裏サイトを恋人に見せた男がことのまずさを友人に伝えたためだ。それでも俺は首謀者を知ることができた。彼女の上司や同僚が見ていた奴からのアプローチも確認し俺は復讐を決意したのだ。
集団に犯された彼女は死を前にして汚れをすべて洗い落とし、命を絶っている。
泣きながら綺麗なままの彼女を抱きしめた俺は復讐に心を燃やしている。
刑務所に移送されてからもうなされ続ける毎日は復讐心を絶やすことのない燃料であり続けた。でも果たせるかわからない復讐に何度も心を苛まれ、心は病んでいた。
夢のように現れた神との代償でようやく奴の命を奪うことができた。他にも巻き込まれた者はいるが、すべて暴行に加わった輩であることは知らされている。
殺人未遂で逮捕された俺にできることは限られていた。俺を支えようとしてくれた両親や姉、彼女の両親には申し訳ないが俺は満足して一度人生を終わらしている。弟が立ち直るのを異世界から願う気持ちも持ち合わせている。
あの時に奴を殺せていたならと思う気持ちはある。
この世界で盗賊を殺した俺、俺に与えられたスキル、今なら奴をこの手で殺せるだろうがif
の話は意味がないだろう。
それでも毎晩のように彼女の夢を見る俺は、もしも叶うならと強く思うものがある。なぜ俺に相談してくれなかったのかと説教をしたい。そして復讐にかられたバカな俺に説教をしてほしい。優しくそっとほほに触れたい。
そして最愛の彼女の名を呼びたい。
俺の最愛の彼女、『優美』優しく、美しいあなたの名を。
ご指摘いただき、主人公の過去と悲しみを書きました。
こんな私にブックマークをして下さり、大変感謝してます。
刑の流れだけがリアルなのはアウトローな友のおかげ、殺人未遂って殺す意思を認めると成立するらしいですよ。




