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代償の異世界記  作者: リョウ吉
第1章 始まりの日々
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十話 願い

願い


それがやってきたのはボブス子爵主催の舞踏会を中座して庭園に逃げていた時のことである。

正確にはそれの接近を感じ取ったのは本当にさっきのことで俺はなんの身構えもなくそれと相対することになった。

婦人自慢の庭園の泉にそれは舞い降りてきた。その正体はすぐに感じ取っている。あの銀髪の神と対面し、さらにこの世界ではすぐれた感覚やスキルによって、それが神もしくは神にも匹敵する能力を有していることを気配で感じ取っていた。ただ神が伴っているのはつい先日にダンジョンの大ボスとして対峙したモンスターだったことから警戒感を抱いてしまった。

夜空から神らしき女性はダンジョンの大ボスをはるかに凌駕する大きさ、存在感を漂わせたオオカミにまたがりやってきたのである。


「おお、やはりそなたであったか、生と死の神に導かれた異世界人よ。わらわは女神、そなたに用があり、参じたのである。」

神々しい雰囲気を漂わせた女神がオオカミからドスンとでもいいそうな身のこなしで降り立った。

唖然としてしまうのは仕方ないだろう。神との対面はいつも突然で今回も俺のイメージとかけ離れた女神が現れたのだから。前回は慈愛とはかけ離れたやさぐれて少しばかりたちの悪い人間が使うような言葉づかいの神と接触している。

今回は目の前に相撲取りにも見劣ることのない恰幅のいい女神がいて近所のおばさんにいそうな人好きのする笑顔を浮かべているのだから女神のイメージが崩壊しなんとも言葉では表せない戸惑いを感じてしまう。

銀髪のやさぐれた神はこの世界に導いたきり、なんの音沙汰もないのは転移の際に聞かされている。正確には予備知識として直接脳に聞かせるというか刷り込むというか、そういった方法で膨大な情報量を俺は覚えこまされていた。いくつも訊ねるべきことが出てきたため神と会わねばならないと思っていたのだが突然の訪問に戸惑ってしまう。やはり神という存在に畏敬の念も抱いているのだ。

こちらが戸惑っていると勝手に女神は話をつづけた。

「わらわは森の女神フルール、他には沈黙と交渉、春の女神とも呼ばれていたがそなた以外の人と会うのはおよそ数百年ぶりのためわらわは奴と同じく忘れられた神のひとりである。忘れるなどけしからんが人とは争いを好む種族、王という愚かなもののせいで滅んでは国を興しと忙しい奴らであった。」

「あ、あの。」

「主ヨ、話ガススマヌ。」

「うむ、それもそうだ。そなた。今回はわらわの眷属が世話になったそうだな。これは森の番人としてわらわに仕える眷属、モンスターとは異なる聖獣である。とはいえこの地で眷属の末裔がそなたを襲うべき待ち構えていたようだな。あれはこのものの末裔のなれの果てであり、モンスターと化した哀れなもの、人によって命を落とそうと仕方のないことである。」

「フルール様、あ、あの、」

「そなたからも礼は申しておきなさい。」

「スマヌ、ヒトヨ。神二仕エル眷属デアリナガラ、ダンジョンニミセラレルトワナゲカワシイコトデアッタ。」

「ふむ、仕方ないことだが、あのもののことでやってきたのだが話をきいてもらえるだろうか?それに久しぶりの人間との接触にわらわはたのしみなのでな、話をしようではないか。」

……この女神は沈黙の女神と呼ばれていたと自身で言っていたはず。今のところ浪速のおばちゃんを彷彿させるイメージを感じずにはいられない。こちらが話す間もなく、質問に答える間もなく一方的に話をつづけた。

俺のことは知っているようだ。フルール様はこちらの反応も気にせず、世間話の様なものや人間に対する愚痴の様なものでなんどか話を脱線する。そのたびオオカミの唸り声で注意され本題に戻っていく。

一通り話が終わるのに多分一時間はかかっただろう。フルール様の迫力に押されながらひたすら話を聞くこととなった。


ようは早い話、以前からダンジョン攻略者に接触をはかろうとしていたらしい。

ダンジョンの補足を受け、ボスクラスが神の眷属や対立する神々の勢力のものからダンジョンの主に転じたことを教えられた。

「森を司るためわらわは観察を怠っていなかったのだぞ。」と弁明しているが自身の眷属がダンジョンの主と化したことに問題がないことなどありえない。俺は目を細め、疑うようにしていても決して不敬には当たらないだろう。

なにせフルール様はその自分の眷属の不始末を頼みに来たのだから。

「ダンジョン主となったものの、あれは一度倒したくらいでは消滅もしないだろうからそなたに魂の解放を願いたいのだ。ダンジョンとは本来、」

と長々と説明が続く。

この世界のダンジョンはかなり多種多様な性質のものがあり、誕生の仕方もそれぞれに異なっているようだ。

例をあげるなら、今回のように番人または守護者という存在が闇に落ち、ダンジョンを生み出すことがある。この場合、何度かボスを倒すうちに魂の解放と呼ばれる現象がおき、ダンジョンの解放、つまりダンジョンの消滅が可能となる。

たった一度で崩壊するダンジョンもあるのだがそれは主にダンジョン主があるものを守るために維持していたり、まだ誕生して間もなかったりしてこの世界に定着ができず消滅するケースなどがある。

他には怨念などで土地が変化したり、魔力などで変質したりというケース。

邪神の封じられた地、魔王の居城、龍の生息地などがダンジョン化するようだ。

「今回ワ、ワガ末裔ノ子ガ人ニヨッテ命ヲウバワレタコトガ原因デアル。」

「悲しみにとらわれた哀れな眷属を救いたいとわらわも思っている。」

恰幅のいい女神と偉大なるオオカミがようやく俺にチャンスを与えた。これまで口をはさむ余地はなかったからと俺は二人、いや一人と一頭に訊ねる。

「ダンジョンの解放はこの地の主は望んでおられませんが。」

「本来の主はわらわだが、まあそこは何も言わぬでおこう。ダンジョンの解放が望みではない。そなたは気にせずわらわの願いを叶えよ。」

「あの、フルール様、私の手におえることではないかと思うのですが。」

「心配するな、そなたの役目はダンジョン主の解放でもダンジョンの解放でもない。さらに奥に身を隠すダンジョン主の母の解放だ。」

「話の流れからしますとあのオオカミの解放ではないのですか。」

「いや違う。あれは人にかられた子の怨念に過ぎない。あれを何度滅ぼしたところで解放など果たせぬ。あの子の体を守る母の解放がわらわの望みだ。」

「ソチラワ、闇二魅セラレテオラヌユエ主ガ救イニマイッタノダ。」

俺は合点がいった。ダンジョン主でもダンジョンでもなくダンジョンに自らを封じ込んだ眷属の救出、まだましだと思ってしまう。

「報酬は弾む。」

「といいますと?」

「わらわの力にてそなたの能力を開花させよう。」

正直微妙だと心で思った。今現在も能力やスキルに振り回されている。一流の域にはとどかないロデフやプリミティーユにすでに匹敵しているもののこの成長度合いさえ悩みの種なのだ。

「なんだ、不満であったか。では、そうだの神の技はどうだ。うむ、わがままだな。神具ともいえる武具か防具は、アイテムもつけてやるぞ。そうそうこのものから取れる体毛は希少な素材である。髭や爪もとても貴重な素材である。金はわらわも持ち合わせておらぬが森はわらわの庭、盗賊の隠し財産のありかなどでよければいくらでも教えてやろう。…なんだ、そなた欲張りだの。」

とフルール様は肉付きのいい口を曲げた。

俺の反応に機嫌を損ねたようだ。

この世界に来たところで、前世で地位も名誉も興味もなくお金も最愛の女性も失った俺に魅力を感じるものは少ない。

「私のお願いを聞き入れてもらえるならば。」

と俺は要望を伝えていく。神具もアイテムもいらない。さすがに異世界で最愛の女性を返してくれと願ったところで叶うわけはない。なにせすでに試みたからだ。銀髪の神に彼女も転生させてほしいと切実に頼み込んだ。

「すでに手遅れだな。」と言われている。怖くて詳細は聞けなかったが生と死のかみでさえ

出来ないのならばとあきらめるしかないと納得している。

では何が願いなのかというとルーベンのことについて訊ねかったのだ。一応、俺を転生させた神の居場所も教えてもらいたい。

「わらわは転生について知識を持たぬ、詳しくはわからないが報酬の一部として本人か他の神に聞いといてやろう。あの素行の悪い神は何とか連絡をつけてみるが期待はせぬように。

そなたの使命も知っておるがゆえに情報だけではわらわも極まりが悪い。アイテムやらも見繕っておく。」

フルール様は大きな胸をどんと叩き満面の笑みを浮かべた。

隠しダンジョンの存在は見つけられなかったがそのカギとなる方法をつたえられる。

解放の条件もだ。少しばかりの配慮として神らしいお告げのような助言も残す。そちらの願いなのに回りくどいと思わないでもないが神には神の都合があるらしい。

こうしてフルール様は来た時のように眷属にまたがり去っていく。ひそかに【鑑定】で一人と一頭を鑑定してみたがさすがに神のステータスは見れなかった。

代わりにオオカミの方はわかった。ゲームでもなじみのある『フェンリル』だった。正確には長々と書かれたステータスの中の補足にフェンリルとも呼ばれる存在の最高位とあっただけだが異世界で向こうの神話を感じることに少しばかり感動していた。

恰幅のいい女神には密かにがっかりしたのはここだけの話である。女神に過度な幻想を抱いてはいけない。


こうして俺は隠しダンジョンへの行き方を知った。

だがそれは周囲を説得し、協力を受けねばならない方法だった。



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